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グラヴィウス帝都

 ここ数日、俺は揺れる馬車の中でのんびりと外の景色を眺めていた。整備された場所に魔獣が出てくることは無いという訳ではないのだが、運がいいのか今のところは何事もなく進んでいる。


 この馬車には俺以外の冒険者や一般人も乗っており、それぞれが仲良さげに話しているのを見てると、何だか寂しい気持ちになる。こういう移動をする人達は大半が顔見知りのようで、雰囲気にはついていけなかった。

 世界は狭いなとも思うが、冒険者は基本的に馬車を使わないで自らの足で移動する場合が多く、馬車を使っている冒険者はほんの一部なのだとヒーツが出発前に言っていた。仮に何度か帝都とあの街を行き来した場合、馬車に乗っている冒険者はほぼ変わらないのだそうだ。

 一般人に限っては、そもそも長距離移動すること自体が珍しく、その理由も一家の買い出しとかなので、人は変わらないのだそうだ。


 にしても退屈だ。異世界なら盗賊でも出てこないものか……いや、実際に出てきたらそれはそれで問題があるが……


 ルーディスに転生してから、異世界らしいことといえば冒険者になって魔獣討伐をしたくらいだ。剣や魔法も異世界ならではだが、もう少しイベントっぽい感じで異世界を楽しんだり、異種族を見たりしたいという思いはある。


 そういえば勇者とか魔王っているよな? 今はいないんだとしても、過去にいたとか、もうじき魔王が復活しそうとか、称号っていうシステムがある以上むしろ無い方がおかしい気はする。あの街では魔族とか獣人とかはいなかったが、帝都に着けば見たり聞いたりする機会もあるだろう。


 相変わらずボーっと外を眺めていると、突然馬車が止まった。ついさっきまで盗賊が出てこないかと考えていたものだから、一早く前の方に目を向ける。馬車の前方から接近してきていたのは、魔獣だった。

 ウルフに似た見た目だがウルフよりも少しだけ小さいその魔獣はソニックウルフだ。ヒーツから出発前に遭遇する可能性のある魔獣のことは聞いているので、戦ったことは無いが知っている。


 数は15匹。それなりに大規模な群れだった。


 ソニックウルフは、体こそ普通のウルフよりも小さいが、とても俊敏でウルフとは比べるまでもなく強いらしい。

 だが、俺であれば油断しなければ負けることは無いとヒーツは言っていた。


 馬車の御者に戦闘力は無い。今回は護衛もいないので、乗り合わせているメンバーで対処するしかない。

 俺以外の冒険者に目を向けると、数の多いソニックウルフに気圧されている様子だった。多分、ステータス的にもそこまで高くないのだろう。まあ、だからこそ危険が少なく速度のある馬車を使っているのだろうが。


「仕方ないか……」


 手伝ってほしいのはやまやまだが、あの調子ではどうしようもないので1人で対処するしかない。

 一切の怯えもなく馬車から飛び降りてソニックウルフと対峙した俺に、御者も他の同乗者も驚いたような顔をしている。


「帝都まであとどのくらいだ?」

「え? あ、はい、あと数時間後には着くと思います」


 剣を抜きつつ御者に聞くと、慌てたように答えが返ってくる。

 俺が丁寧な口調を崩しているのは、別にソニックウルフに怯えていることに対して呆れている訳ではなく、これもヒーツから言われたことが起因していた。

 貴族なんかの身分が高い相手以外にわざわざ丁寧な口調で喋る必要はない、冒険者なんだから会話くらい気楽にやってもいいんだぞと、そんな感じのことを言われた。

 正直、わざわざ気を遣って話すのは面倒なので、言われた通り基本的には素の口調で喋ることにしたのだ。


「そうか。なら、早く終わらせないとな」


 御者の緊張を解してやるために笑って言葉を返す。


「さて、グランバードを倒してからは初めての戦闘だ。どのくらい強くなったか、試させてもらうぞ!」


 俺は剣を握りしめて地面を蹴る。向かっていく速度は、グランバードを倒してからそこまで上がっているようには感じない。

 これは俺の推測だが、ステータスの数値上で素早さが2倍になったからといって、走る速度などが2倍になるわけじゃない。走る速度、攻撃速度、回避速度など、様々な要因を纏めて素早さと定義した時に、それぞれほぼ均等に上がって、数値上で2倍になっているだけなのではないかと考えている。

 まあ簡単に言うと、身体を動かす時に、何だか軽く感じるなとかそんな感覚を覚えるのが素早さの上昇だということだ。


 さて、考察はこんなもんにして目の前の相手に集中しよう。


「ソイッ!」


 俺一番先頭にいたソニックウルフの首を一撃で落とす。仲間がやられたことにより、馬車を標的にしていたソニックウルフたちは、馬車から意識を外して、俺を明確な敵と認識して動き出した。

 確かにウルフに比べたら早い。だが、グランバードに比べてしまえば、早いとは言えないくらいの速度でしかなかった。

 不規則な動きをするソニックウルフだが、目で捉えることが出来ている以上、別に不規則な動きをされたところで何の問題もない。結局は俺に向かってくるのだから。

 統率された動きで攻撃を仕掛けてくるソニックウルフに対して、俺はほぼその場から動かずに剣が届く場所に入ってきたやつから順番に片付けていった。

 結局5分もしないうちに、俺の周りにはソニックウルフの死骸で円が作られることとなった。


 呆然とする馬車の様子を無視して、俺はソニックウルフの牙と爪を剥ぎ取る。いくら大金を手にしたとはいえ、今後のことを考えればまだまだ金は欲しいからな。


 剥ぎ取りを終えた俺は、何事も無かったかのように馬車に戻って座る。ソニックウルフの死骸は道の脇に避けてきたので何の問題もなく出発出来ると思うのだが、何故か馬車は動き出さなかった。


「どうした? 出してくれ」

「あっ、はい! 申し訳ございません!」


 御者に声をかけると、思い出したかのような声を上げて再び馬車は動き出した。


「兄ちゃん、強ぇんだな……」


 馬車が動き出したのと同時に、乗っていた冒険者の1人が俺に話しかけてきた。

 素直に褒められているのだろう。ここは日本人らしく謙遜しようかとも思ったが、俺はあえてこう返した――


「まあね」






 ――――――――――






 ソニックウルフとの戦闘の数時間後、御者が言っていた通り帝都が見えてきた。

 巨大な外壁に覆われた帝都は、入り口である門を見ただけでも賑わっているのが分かる。数日前にいた街に比べて、人の出入りが明らかに多かった。


 馬車は外壁近くまでやってくると、そこで止まる。このまま帝都の中に入っていく訳ではないようだ。


「冒険者様、この度は魔獣を討伐していただきありがとうございました! おかげで何事もなくこうして帝都まで馬を走らせることができました!」

「気にしなくていいよ。倒せるから倒しただけだ」


 感謝を告げてくる御者に軽く手を振って俺は帝都の中へと入っていく。

 帝都も街と同様に、入るのに身分証の提出をさせられたりはしないようだ。街に着いた時も思ったのだが、この世界は不用心過ぎないか? いやまあ、俺の住んでた東京でも電車に乗る時にわざわざ荷物検査や身分証の提出はさせられなかったが……異世界だということを考えると、何だか違和感だ。


 帝都内の雰囲気は騒がしく、大通りとも呼べる門を潜って真っ直ぐの道は、まるで祭りでもやっているのかいう感じで屋台のようなものが出てたりもする。


 そして何よりも目立つのは、帯剣している人の多さだ。

 街ではチラホラと冒険者らしき人達が剣や戦斧などの武器を持っていたが、ここでは見ている限り半数以上が何かしらの武器を持っていた。

 アニメなんかだと帝国というのは典型的な軍事国家で、強さが正義といった風に描かれることが多いが、ルーディスという世界でも同様なのだろうか?

 そこまで極端かは分からないが、こうして武器を持っている人が多い以上、強さが何かしらの意味を持つ国なのは間違いない。

 そうなると必然的に喧嘩っ早い奴も多いだろう。いつでも対処できるようにはしておいた方が良さそうだ。


 まず向かうのは街に着いた時と同じ、冒険者ギルドだ。拠点となる宿探しも大事だが、帝都の情報もある程度仕入れないとまともに動くことも出来ない。せめておすすめの宿くらいは聞いておくべきだ。


 帝都の入り口付近からはあまり動かずに人の流れを観察する。街がそうだったように、恐らく帝都の冒険者ギルドも入り口からほど近い場所にあるだろう。

 注目して見るのは入り口から入ってきた武器を持った人達が歩いて行く方向。それなりに疎らだが、一番多いのは右に逸れていくパターンだ。


 俺は大通りから逸れて右の方向に向かって歩き出す。帯剣して、その逆には魔獣の素材を入れておく為の袋をぶら下げているので、俺も傍から見たら冒険者にしか見えないだろう。事実冒険者なのだが。


 少し歩くと、一際大きな建物の中に、帯剣した人達が吸い込まれていく。ここが冒険者ギルドだろう。

 街の冒険者ギルドとは桁違いの規模に、一瞬気圧されそうになるが、深く息を吸って中に入った。


 冒険者ギルドの中はまるでパーティーをしているかのように賑わっている。そこかしこから笑い声や、中には怒声も混じって、まさに思い描いていた冒険者ギルドといった感じだ。

 食事も出来るようで、まだ夕方前だというのにアルコールの匂いも充満しており、それがさらに騒々しい雰囲気に拍車をかけている。


「おう兄ちゃん! 新人か?」

「あ、ああ……」


 喧嘩か!? 喧嘩なのか!?


 強面の男3人組がキョロキョロと中を見渡す俺に声をかけてきた。ガラの悪そうな目付きに、上裸で惜しげもなく鍛え抜かれた肉体を披露しており、明らかに盗賊にしか見えない。

 いきなり襲い掛かられても大丈夫なように警戒していると、3人のうちの1人、片手に酒の入ったジョッキを持った男が俺の傍までやってきて肩を叩く。


「グラヴィウス帝都の冒険者ギルドに来るたぁ気合入ってんじゃねぇか! カウンターはあっちだ、頑張れよ新人!」


 凶悪な面をした男は、凶悪な笑みを浮かべてカウンターを指差す。なんと顔に見合わず普通に親切で声をかけてくれたみたいだ。

 人は見た目で判断するなとはよく言うが、確かにその通りである。


「助かるよ。もし良かったら飲み代にでもしてくれ」


 俺はスペースマネーに入れてない、いつでも気軽に使えるようにしておいた金の中から、銀貨を3枚お礼として渡した。


「ははっ! 新人の癖に冒険者らしいじゃねぇか! 困ったことがあったら俺達に言いな、ある程度だったら力になるぜ!」

「ああ、その時は頼むよ」


 俺は強面の冒険者3人と握手して別れ、カウンターに向かった。

 いくつかあるカウンターの中から、丁度空いたところに行く。全てのカウンターの受付に女性が着いており、中々の美人揃いだ。


「冒険者ギルドにようこそ! 依頼をお探しですか?」

「いや、今日は依頼を受けるつもりはない。さっき帝都に着いたばかりなんだが、おすすめの宿と、覚えておいて損のない店を教えてくれ」

「分かりました、少々お待ちください!」


 受付嬢はにこやかに笑うと、奥の方に何かを取りに行って戻ってきた。


「お金にある程度の余裕があるなら、ここから少し進んだところにある『月剣亭』がおすすめですね。そうでない場合はこちらに。それと武器屋や魔道具屋は――」


 受付嬢は丁寧に説明しながら地図に印を付けてくれた。俺はその地図を受け取って、早速月剣亭に向かう。

 月剣亭は、豪華過ぎないといった感じの見た目をした宿で、確かにそこそこ金を持った冒険者にはおすすめの宿と言えた。

 肝心の値段も、宿を見て予想出来た金額通りで、俺は一先ず10日間で部屋を取る。値段にして金貨15枚。食事は付いているので高いという感覚はなかった。


 部屋に入って、明日からの方針を決めるべく地図を広げる。

 予定としては1日置きに冒険者ギルドで依頼か、掲示板の魔獣討伐をして金を稼ぎつつ、間の日には調べ事を行う。

 調べるものとしては、帝国内の情勢、政治、他の国との関係も知りたい。さらには異世界らしいこと、精霊や獣人、魔族。大きい括りで言えば、歴史、勇者や魔王についてなどだ。


「明日からは忙しくなるぞ」


 そう言いつつも、俺の顔には自然と笑みが浮かんでいた。


自由な女神「定番イベントの盗賊は出てこなかったね。まあこれには一応ちゃんとした理由もあるみたいなんだけど、ヨゾラ君はまだ知らないんだ」

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