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この異世界は物足りない  作者: VRクロエ
英傑決戦編
109/137

最も長く生きる獣人

明日仕事行けば休み……

 英傑という存在は、この世界でも屈指の実力者達であり、今回の戦争に限って言えば人間主義連合の主戦力と言えた。

 いくら兵が多くともある程度は個で覆ってしまうので、どれだけの兵が集まろうとも、やはり勝敗を分けるのは少数の強者達なのだ。


 そんな英傑達は、殆どが人間主義連合に付いており、多くの兵士達が命を削り合う戦場にもかなりの数が出てきており、各場所で戦闘が起こっている。


 だがその一角では、他とはかなり違った光景が繰り広げられていた。

 漆黒の髪に同じく漆黒の狼耳を生やした獣人を相手に、英傑が5人集まるという、些かやり過ぎにも思える光景が……


 しかしながら、実際に焦ったような表情をしているのは英傑達であり、その中心にいる獣人は涼し気とまではいかないものの、表情は至って冷静で、それ以外の表情は一切見て取れない。

 あえてもう一度言うが、英傑が5人集まっているというのにだ。


「……」


 無言で距離を詰めたその獣人は、今まさに英傑の1人を地面に沈ませる。

 剣などを用いている訳ではない。己の爪で以てその首を引き裂いたのだ。


「こいつ……ここまで……!?」

「……」


 更にはもう1人……口を開いた若い男の英傑が首から血飛沫を上げながら地面に崩れ落ちた。


 英傑達を圧倒している獣人……ビャクは五百年という時を生きる、ルーディスで最も長く生きる獣人だ。

 その時全てをとまではいかないが、絶対的主であるヨゾラとセラフィが帰ってくるその時のために、己を磨き、剣となるべくして強さを求めた。


 その強さはヨゾラやアノンとまではいかないが、世界最強の一角と言っても過言ではなく、更には敵に対しては誰よりも容赦をしないので、アノン以上の速度で英傑を屠っていく。

 この戦争で最も被害を出さない方法は、確実に強者を削ること……それをビャクは正しく理解し、本来ならばヨゾラに付いて行ってもおかしくないところを、最終的にセラフィを助け出した後まで考え、ヨゾラが少しでも悲しまぬように被害者を少なくするという選択肢を取ったのだ。


「……ビャク様、セラフィ様が捉えられている場所が判明致しました」

「そうですか……救出は出来そうですか?」

「我々では守りを突破出来ません」

「ならばヨゾラ様に場所を伝えてから、その周辺で待機していなさい。いつでもヨゾラ様の手助けが出来るように準備は怠らずに」

「はっ!」


 戦闘中だというのに報告に来た隠密隊の隊長であるナイルに次の指示を飛ばす。

 その隙に英傑の女が魔法を放ってきたが、そちらを見る訳でもなく軽く回避して、距離を詰めてから他と同じように首を引き裂いた。


 もうこの場で誰もビャクを止めることは出来ない。残った2人の英傑も、何も起こらずにビャクによって沈められた。

 もしビャクを止められるとすれば、ヨゾラかセラフィかアノンか……英傑の中でも最強レベルの者がいなければ不可能だろう。


 そして、ビャクは隠密隊の報告を聞いて、そのレベルの相手がセラフィの周辺を守っているのだと予想する。

 隠密隊もかなりの戦闘能力を持っており、複数で戦えば英傑すら撃破出来る程だが、その隊長であるナイルが自分達では無理だと言ったのだ。

 それに守っているのが1人のはずがなく、他にも英傑がいることを考えると、ビャクは一瞬自分が向かおうかとも考えたが、すぐにその考えを取り消す。


「さて、サクラは向こうですか……それに勇者も向かわせますか……」


 性格からしてサクラとアノンはヨゾラに合流しようとしているはずだと……ならばその2人を向かわせることにする。

 幸いなことに、聖女も到着し、各王達も戦場に出てきて、優秀な帝国騎士もいるとなれば、この戦場の英傑は自分含めた戦力で削りきれるという分析だ。


 ビャクが手を叩くと、ナイルではない隠密隊の獣人が数名現れる。


「至急サクラと勇者の元に向かいセラフィ様が捉えられている場所を伝えなさい。あの2人であれば、じきにヨゾラ様が戦っている場に到着できるはずです」

「ビャク様はどうされるので?」

「私はこの戦場に残り敵を減らします。こちらも強者が揃ったとはいえ、英傑はかなりの数がいます。まだこちらの強者達と接敵していない英傑を削ることにしましょう……行きなさい」

「はっ!」


 指示を出された隠密隊の獣人達は、サクラとアノンの元へ向かう。


「……あちらの方ですね」


 ビャクは次の英傑の元へ向かって走り出した。


 ビャクの武器は様々あるが、その中でも最たるものが、気配を察知する能力だ。

 全ての感覚を鋭く研ぎ澄ませているビャクは、例え玉座のまでヨゾラが普通の声量でビャクを呼んだとしても、城の中にいればどこからでも気が付くことができる程に優れている。


 戦場において、特定の気配を察知できるというのは大きな意味を持ち、それが英傑にすら勝るビャクが持っているのならば猶更だ。


 最小限の動作ながらも、かなりの速度でビャクは戦場を駆け抜ける。

 目の前に現れる敵兵は、手の届く限り速度を落とすことも無く倒していった。


 そして数分も経たないうちに、標的とした英傑が見えてくる。

 勢いそのままにビャクは爪をその首に伸ばした。

 だが、先程までの英傑だったらこれで終わっていたのだが、今回の英傑は突然の強襲だというのにも関わらず、しっかりと反応して剣でガードしたのだ。


「驚いたな……まだこんな奴がいるとは。やはり獣人は侮れないな……」


 ビャクの強襲を防いだ英傑は、隙も見せずにビャクを正面に捉えて呟く。

 英傑といえば、なまじ力があるせいで敵を見下し、慢心しがちなのだが、この男はそうではないみたいだ。

 片目を失っているようで、左目には眼帯をしているが、残る右目の眼光だけでも凄まじいものがある。


「なるほど……」


 ビャクは確かにその辺の英傑を軽く倒すほどの力があるが、だからといって敵の実力を見誤ったりはしない。

 先程までと同様の戦い方では倒せないどころか、自身がやられてしまう可能性も示唆して、無意味に仕掛けたりすることはなかった。


「これは俺も本気を出さないといけないみたいだな……」

「では私もそうさせていただきましょう……」


 英傑の男が剣を構える。一方のビャクはというと……まるで対極に位置するかのように身体を脱力させて、完全なる自然体となった。


「ブラックパーティクル……」


 ビャクが呟くと、その身体から黒い粉のようなものが噴き出る。

 それは戦場に舞い、黒い粉雪が振っているような光景を作り出した。


「毒の類か……? だったら短期撃破を目指すしかないな!」


 毒を警戒した英傑の男は、戦闘が長引くのはまずいと判断して、早々にビャクに向けて攻撃を仕掛けた。


 迫る剣は正確に一撃でビャクを刈り取るためのものであり、単純に振り下ろすだけだが、見る者が見れば見事だと言う程のものだ。

 しかしビャクは動かない。相も変わらず自然体のまま立っているだけだ。


 そして……剣がビャクに当たる直前、ビャクは本当に小さくだが身体を動かす。

 確かに身体を動かした向き的には、剣を避けるためのものだが、常人から見れば……いや英傑の目から見ても避けれるのか怪しいという程にギリギリだ。

 だが、ビャクはそのギリギリを間違えない。英傑の男が振り下ろした剣は、ほんの数ミリというところで、服すら斬れずに通りすぎた。

 しかも、それと同時にビャクは片腕の爪を英傑の男の首に向けて伸ばしていた。


 ブラックパーティクル……その実態は毒なのではなく、効果範囲内でビャクの感覚を更に鋭くさせるといったものだ。

 格上すら倒せる可能性を秘めたビャクの切り札は、実力の拮抗した目の前の英傑に対して、確かな正解を導き出し、最小限の動作のみで圧倒する。


「……なんでお前みたいな化け物が残ってるかな……」


 数舜後には命を刈り取られると悟った英傑の男は、諦めと呆れをこめて呟く。

 その言葉に、ビャクは何の慈悲も無く、いつもの無表情のまま爪で首を引き裂いた。


 英傑の男が夥しい量の血を首から噴き出しながら倒れ、しばらくしてから黒い粉は消え去った。


「……さて、次はあちらですかね……」


 そうしてビャクは何事も無かったかのように、次の標的に向けて進んでいく。


 ルーディスで最も長く生きる獣人は、英傑という実力者を嘲笑うかのように、戦場で蹂躙していくのだった。



自由な女神「今まではっきりとした実力が明かされることがなかったビャクだけど、実際はこんなに強いんだね……やっぱり五百年って時間は伊達じゃないってことだね」

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