友の為に
仕事の疲れが取れません……
ルーシェとトアンも英傑との戦いを繰り広げていた。
帝国騎士は英傑などといった称号で補正された者達を除けば、世界でも最高峰の実力を持つ者達であり、一般的な兵士や冒険者などとは比べ物にならない実力を持ち、その上位となれば秘境でも十分に戦えるほどのポテンシャルを持っている。
しかしながら、2人の前に現れた英傑は名前をクルトといい、英傑の中でもそれなりに上位の者であり、帝国騎士の中でも屈指の実力でありながらも状況は劣勢だった。
トアンは額から血を流しており、ルーシェは腕や足を斬り裂かれていた。
だが、2人の瞳には諦めた様子は無い。むしろ劣勢だとは思えないように、焦りもなにも見えなかった。
「何なんだこいつら……」
むしろ焦っているのはクルトの方であり、クルトの予定では簡単に倒して次の戦場に行くつもりだった。
しかしセシルとルーシェが思っていた以上に粘り……いや、気を抜けばクルトがやられることも十分にあり得る話だった。
傷も全く負っていない訳では無く、巧妙に戦ってくるセシルとルーシェの刃は確かに届いており、少なくはあるが確かに傷ができていた。
「ルーシェ!」
「うん! アイアンウォール!」
「ちっ……」
今もクルトの後方に岩の壁が出来上がり、後ろに下がれなくなったところにセシルの剣が伸びてきて頬を掠める。
そこへ速さに自身のあるルーシェがすかさず斬りこんできた。
完全に洗礼されたコンビネーションは、英傑にすら届きそうな程だ。
だが、届いている訳では無い。実際にダメージ量だけでみたらクルトに傾いているのは事実で、こうして有利に攻め始めても、結局は力技で返されているという状況だ。
実際にこの攻防でクルトが負った傷は初撃のセシルの攻撃によるものだけで、ルーシェの攻撃は上手く受け流されており、徐々にクルトが攻める側となっていた。
セシルも共にクルトに仕掛けるが、人数で勝っていても上手く攻めきれず、隙を突いては反撃されていた。
3人が戦っている周囲では、今も両陣営の兵士達が戦っていたが、元々セシルとルーシェが前にと進んでいたために、付いてきている数が少なく劣勢だ。
時間を掛け過ぎては、やがでセシルとルーシェは囲まれる形となり、そうなってしまえば敗北が確定する。
表情にこそ出してはいないものの、勝ち切れないことへの不甲斐なさが積もり始めていた。
いつかヨゾラの力になりたくて修行をしてきた。友と呼んでくれるのにも関わらず、自分達の助けは必要もないくらいの力を持つ友の……どれだけ強くとも、人間らしい友の助けになれるように……
しかしいざとなってしまえば、大した助けをすることもできていない。2人で1人の英傑にすら届いていない。
しかし、ここでその弱音を言うわけにはいかない。そうすれば、いよいよ立つ瀬がない。
今できることは、全力でがむしゃらに友の為に戦うことだけだ。
そもそもセシルとルーシェはヨゾラの力になるために来たのはそうだが、2人とて怒っているのだ。
友人を誘拐されるなど、到底許せる訳が無い。しかもそれが、獣人との戦争を再開させるという私利私欲に塗れたくだらない理由だという。
「「負けられない……」」
どれだけ傷を負おうと、セシルとルーシェはその痛みすら表情に出さない。剣を強く握り何度でも仕掛けていく。
届かない剣でもいつかは絶対に届かすという気概を持って。
そんなセシルとルーシェの元に、クルトを倒すために足りないものを補ってくれる者が辿り着いた。
「やってますね~。英傑相手に互角に戦っているなんて~、凄いですね~」
「帝国騎士は弱くない。それに、凄いやる気」
無駄に緩い喋り方と抑揚の無い声で喋って登場したのは、光の聖女イキシアと闇の聖女ベラだ。
アルジェから英傑と交戦中の者の元へ向かって手助けをするように言われているので、こうしてセシルとルーシェの元へやってきたのだ。
「ちっ……聖女まで現れたか……流石に分が悪いな」
クルトは聖女の出現で戦況が傾いたと判断して、即座に逃亡することを決めた。
腐っても英傑、常に戦いの最前線にいた者なので、戦況把握は間違えない。
「あっ、逃げようとしてます~」
「逃がさない。ブラックパレス……」
しかし、逃げるには既に手遅れな状況だった。
仮にセシルとルーシェさえ倒せていたのならば、支援と妨害に特化したイキシアとベラ相手であれば十分に勝てる余裕がある。
つまりはセシルとルーシェが英傑相手に折れずに劣勢ながらも戦い続けた結果がここにきて大きな意味を持ったのだ。
ベラが使った闇属性聖級魔法ブラックパレスにより、5人の周囲を黒い霧が覆っていく。
黒くドーム状に広がった霧は、抜け出そうとしても身体を絡めとるようにまとわりついてくるという効果を持つ。
見た目は霧だが、英傑すら脱出を許さない、まさに城が出来上がっていた。
視界が悪くなるが、即座にイキシアが明かりを灯し、黒い霧の城の中に光が宿る。
「これは……」
「凄い……これほどの魔法を即座に発動させるなんて……」
「では~もう少し頑張ってください~、フィジカルアップ~」
イキシアが使ったフィジカルアップによりセシルとルーシェのステータスが一時的に上がり、身体が軽くなったように感じた。
「これなら……」
「やれる!」
セシルとルーシェは軽くなった身体で一気にクルトに詰め寄っていく。
先程までとは比べ物にならない程速く、鋭い攻撃は今度こそクルトに届くものだった。
「くっそ……こんなところで!」
だがクルトも英傑としてただでは終わらない。これまで培ってきた戦闘経験を存分に活かして、更にセシルとルーシェを上回ろうと斬り返してくる。
「だめよ~、ホーリープロテクト~」
「くっそ……!?」
クルトの剣がルーシェを捉えるが、イキシアが的確にホーリープロテクトを使い、ルーシェを剣から守るように光の壁がピンポイントで生まれて剣は弾かれる。
「ダウンフィールド」
剣が弾かれて数歩後ろに下がったクルトの足元にはベラの魔法が待っている。
ダウンフィールドの効果により、その上にいたクルトのステータスが著しく落ちる。
このステータス低下は、イキシアの魔法によりステータスが拮抗していた状況では致命的なものだった。
ダウンフィールドは範囲も狭く動かせないため、そこから抜け出せばいいのだが、残念なことに抜け出すまでの隙を見逃す程、セシルもルーシェも弱くない。
「セシル!」
「頼んだルーシェ!」
ルーシェが声を掛けるとセシルはその意図を察して剣を構える。
次の瞬間セシルの足元が盛り上がり岩の柱が生まれる。
その勢いのまま岩の柱を蹴り、セシルは一直線にクルトに向かって行く。
この方法であればダウンフィールドの範囲に入っても速度が落ちることは無いし、ここまでの勢いで突っ込めば今のクルトでは回避できない。
「終わりだぁぁぁ!」
「……ここまでか」
クルトはもうどうしようもないことを悟り、無様に足掻くことをやめて剣を下ろす。
そしてセシルの剣がクルトの身体を貫いた。
「見事だ……聖女の手を借りたとはいえ、俺に勝ったことは誇っていいぞ……」
クルトは最後にセシルにそう声を掛けて崩れ落ちた。
セシルは剣に付いた血を振り払い鞘に戻す。
HPは既に三割を切っている程まで減っているのだが、そんな素振りをまるで見せないように堂々と立っている。
それはルーシェも同様で、真っ直ぐににセシルの隣へ歩いていき、隣に並んだ。
「流石に強かった……」
「そうだね……やっぱり英傑の称号は伊達じゃないってことだね……」
実際、この場で戦っていたのがセシルとルーシェではなく、他の帝国騎士だったら聖女の到着が間に合わなかった可能性もある。
最後にクルトが言ったように、聖女の力を借りたとはいえ、英傑を撃破できたことを誇ってもいいだろう。
「さて……聖女様、ご助力感謝致します」
「助かりました」
「いえ~当然のことを~しただけですよ~」
「それに、あなたたちの実力がなければ意味なかった」
イキシアとベラは何でもないように気楽な口調で返す。
「次の戦場に~向かう前に~、ライトヒーリング~」
イキシアがライトヒーリングを使うと、セシルとルーシェのHPが多少だが回復する。
ルーディスでの回復魔法は、アニメで出てくるような万能なものではなく、気休め程度でしかないので、傷などは完全には回復している訳では無いが、それでも無いよりはマシだ。
セシルとルーシェがそれなりにボロボロなことを表には出さずに、次の戦場に向かおうとしているのならば猶更だ。
「ありがとうございます。……ルーシェ」
「うん。では聖女様、このお礼は戦争が終わってから必ずします!」
ライトヒーリングの効果が終わったことを確認したセシルとルーシェは次の戦場へ向かって行った。
「帝国も~いい人材がいますね~」
「あの2人はまだまだ強くなる」
年齢はあまり変わらないが、イキシアとベラは今後の2人の成長を楽しみにしている。
英傑を撃破し、聖女にも認められたセシルとルーシェは、確かに英傑の殆どが敵に回った今のルーディスでは、今後を期待されるほどの実力を身に付けてきている。
それこそ、そのうち本当にヨゾラと同じ場で戦える日が来るのではないかとまで期待させてくれるほどに……
自由な女神「友達の為に英傑相手でも退かずに戦えるって本当にかっこいいよ! ヨゾラ君はいい友達を持ったね!」




