勇者VS英傑
仕事の疲れが……もっと書きたいし、ゆっくり原神もしたい……
とある戦場の一角では、ヨゾラという特異点を抜いた人類最強の少女と3人の英傑が激しい戦闘を繰り広げていた。
「オラオラァ! そんなもんかよ勇者様ァ!」
「……」
アノンに対して挑発するように汚い言葉を発しながら大剣を振るう大男は、名をガラムと言い、先の人間と獣人の戦いの際は最も戦場に出ていた男だ。
ヨゾラという獣人の国を纏め上げる王が誕生したことにより、世界から争いが激減した。
人間だろうと獣人だろうと関係なく、肉を断ち切るのが好きなガラムは、それはそれはヨゾラを恨み、ノーヴィストと和平を結んだ国々を恨んだ。
誰にもバレぬように人殺しを行ったが、隠れながら殺せるような少人数では凡そ満足できる訳もなく、肉を断ち切りたい衝動だけを募らせていた。
それを悟った貴族の1人がガラムをこの戦争に誘い、ガラムもそれを断る訳が無い。
戦争で沢山の殺せるのもそうだが、この戦争に勝利すれば世界に更なる戦争の火種を埋める。
ガラムにとっては良いことしかなかった。
現在共に戦っている英傑の2人も、理由は違えど更なる戦争を望む者達だ。
流石に魔王や目の前の勇者にタイマンで勝てると思う程自惚れてはいないので、こうして3人で魔王か勇者のどちらかとぶつかることにしたのだ。
その選択は正解だったと、大剣を振りながらガラムは思う。
挑発するようなことは言っているが、実際にそれ程優勢という訳では無いし、もし1人で戦っていたら既に負けていただろう。
先日戦った魔王も十分強かったが、流石に疲弊しており負ける雰囲気は微塵もなかった。
まあ現在戦っている勇者も、このままいけば普通に勝てるだろうとガラムは考えている。
しばしの戦闘だったが、こちらは誰も傷を負っていない。噂に聞く勇者はかなりのものだったが、実際に戦ってみるとそうでもなかったとガラムは内心で若干の落胆があった。
「もう少し楽しめると思ったんだがな……」
ガラムの大剣がアノンの肩を掠める。そこへ魔法による追撃が加わってアノンは距離を取ることとなった。
「あなた達人間主義連合に付いた英傑は、なんのためにそこまで戦うんですか……せっかく、各国の王様達や先輩が作った平和を、どうして壊そうとするんですか……」
「あ?」
距離が離れたアノンは悲しそうな表情で語りかける。
改心できるのならばさせたかった。たとえアノンが最も信頼し、心寄せるヨゾラを傷つけた相手だったとしても、できることならば斬りたくなかった。それがアノンが勇者たるゆえん。
しかし邪悪な感情に身を染めるガラムに届かない。アノンのその優しさも、全てを粉々に砕くように口を開く。
「んなもん決まってんだろ! 殺してぇからだよ! それにな、俺達英傑は戦いの中でしか生きれねぇんだ! 称号にも似たようなことが書いてあんだろ!」
確かに英傑の称号にはそのような一文がいるのは事実だ。だが、それは英傑がいるから戦いが起こる訳では無い。大きな戦いが起きた際に、その中心に近いところに英傑がいるというだけだ。
何しろ人間の中でも力を持つ者達だ。大きな戦いとなれば、人間を助けるために動くことになるだろう。
解釈の違いと言われればそれまでだが、ガラムは自分の都合がいいようにしか捉えていない。
「そうですか……」
アノンは溜息一つでもう優しさに満ちた言葉を掛けることをやめた。
目の前にいる世界の敵を、何よりもヨゾラの敵を迅速に殺すことを決めたのだ。
「セイクリッドバインド!」
アノンが言葉を発すると、魔法で援護していた女の英傑が光の鎖に縛られる。
「ちょっ!? なによこれ!?」
アノンはただ単に距離を取って話をしていた訳では無い。いつでもセイクリッドバインドで拘束できるように準備をしていたのだ。
突然拘束された女は訳が分からずに叫んでいる。ヨゾラすら完全に拘束したセイクリッドバインドを抜け出すことなど不可能なのだが、そんなことは知る由もない。
「ちっ……」
流石にまずいと思ったのか、黒い英傑の男が即座に動いてアノンに仕掛ける。
「遅いです」
「……え?」
素早さに自信があったようだが、それでもアノンには及ばない。
軽く攻撃を躱したアノンは、無慈悲な呟きと共に黒い英傑の男を剣で斬り裂いた。
特に大きく剣を振った訳では無い。だがそれだけでその男は一撃で絶命した。
勇者であるアノンは、この世界でセラフィを除いて唯一と言っていいヨゾラと同格の人間だ。その一撃は、英傑の中では精々中ほどといったステータスしか持たないのであれば、当たり所によって簡単に死んでしまう程のものだ。
「さて、次はあなたです……ヘブンリ―サンダー!」
セイクリッドバインドで拘束された女に、アノンは容赦なく自身の最強魔法を叩き込む。
当然避けれるはずも無く、悲鳴すら上げる暇もないまま、女は絶命した。
「最後はあなたですね……」
アノンの瞳は普段の優しい感じではなく、容赦なく敵を殺す者の瞳だった。
あの旅の中でヨゾラには様々なことを教わった。
そして、ステータスだけではなく、心も大きく成長したアノンは、時には力を全力で振るって誰かを殺す強さも身に着けていた。
必要悪など無いことは、魔王であったヨゾラが証明してくれた。何せ魔王は悪ではなかったのだから。
であれば、悪とはそのまま悪だ。勇者として、悪を殺すことは躊躇わない。
「くっ……くそがぁぁぁぁ!!」
ガラムは叫び声をあげて、がむしゃらにアノンに攻撃を仕掛ける。
しかし、アノンはその場を動かずにただ剣を弾くだけ。
もう完全に力の差が明確になっており、今のガラムはただただ情けないだけだった。
「てめぇは勇者だろ! なんで魔王を倒さない! なんで魔王と敵対してないんだ! あるはずだろ、称号に宿命付けられた存在意義ってもんがよ!」
「……勇者の存在意義は魔王を……ヨゾラ先輩を倒すことではありません。それは勇者である私が一番理解してます」
「じゃあ何だってんだ!」
「簡単ですよ、平和を守ることです。ですがまあ、そうですね……私も人間ですから、最も寄り添いたい相手、何よりも優先して助けたい人もいますけどね……」
自身を救ってくれたヨゾラの力になりたいのは当然のことだ。勇者とは言えど、アノンも1人の女の子であることは間違いないのだから。
「さて、では終わりにします。あなたを……あなた達を殺したこと、後悔はしませんし、謝りませんし、後になって引きずることもしません。それはあなた達に平和を奪われた人に失礼ですからね……」
「ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
告げられたアノンの言葉に激昂したガラムだったが、なんの意味もなさない。
次の瞬間にはアノンの剣によって頭と胴体が切り離されて絶命したからだ。
ガラムの胴体が地面に崩れる音を最後に、周囲には静寂が訪れる。
この場には人間主義連合の兵士達しかいなかったが、その中心に立つアノンに即座に向かっていける者はいない。
誰も彼もが圧倒されていた。勇者という存在の大きさ、更にはアノンを見たことがある者は普段とのギャップにだ。
あまりにも強く美しく、そして恐ろしい。これがアノンを深く知る者だったら恐ろしいとは感じなかったのだろうが、残念なことにこの場にはいない。
奇妙な静寂が渦巻く中心でアノンは剣を収める。敵はまだ周囲に沢山いるのだが、誰も向かってこない状況を正確に把握している。
「……では、私は行きます。ヨゾラ先輩の手助けをしなければなりません」
その言葉と同時にアノンは歩き出す。
前方にも敵はいるのだが、その足取りは穏やかで、先程まで目にも止まらぬ速度で英傑と戦っていたとは到底思えない。
アノンの進行方向にいた兵士達は、まるで王の行進だというように分かれていく。誰も、アノンを止める者はいなかった。
少し離れれば向かってくる兵士も大勢いるだろう。それに関しては仕方が無い、ガラムにしたような忠告を毎回していれば、その分まで足が止まるだけので倒して進むつもりだった。
だが、この場の兵士達はこれ以上邪魔をしてこないし、この後も戦闘に参加しないだろうと心の中で思ったアノンは、元々人を殺すのは好きでは無いので放置する。
この後戦争に負けて、どういう処罰が下るのかは分からないが、それはアノンが考えても仕方が無いことだ。
ヨゾラと敵対した兵士達に、僅かにでも罰が当たればいいと、どこか子供っぽい感情を抱きながらその場を後にする。
「次の相手は……」
それからも敵を探しては存在感を出すようにアノンは戦いを続けた。
ヨゾラの手助けをすると言ったが、ヨゾラに追い付いて隣で戦うという意味ではない。自身が戦場で暴れれば、敵もそれだけ戦力をこちらに割いて、その分ヨゾラが楽になるだろうという考えだ。
ヨゾラから無理をするなとは言われているが、ヨゾラが無理をしているのだ、アノンがしないはずがない。
世界最強の勇者を止められる者がいるかどうかは分からないが、倒されるか、あるいは戦争が終わるか……疲れで止まることはないのでどちらかだろう。
もう、かつての戦争の時のように迷ったりはしない。
世界が平和であるために。そしてヨゾラのためにアノンはひたすらに敵を倒し続ける。
自由な女神「これまでアノンちゃんが戦ったのをはっきりと見たのはヨゾラ君との戦いだけだったから分かり難かったけど、やっぱり飛び抜けて強いんだね……英傑3人で止めれなかったアノンちゃんを止めれるのっているのかな?」




