振う力
観覧数が本当に増えてて嬉しすぎます! いつも読んで頂きありがとうございます! いただいた感想もとても励みになってます!
それなりに休む予定だったが、結局それ程休まずに目的の場所まで走ってきた。
日が暮れてくると、どうしてか焦りが大きくなってきて足を止めることが出来なかったのだ。
戦場になると言われている場所に着くと、既に敵と思われる奴らが見える。
言わばこいつ等は攻めてくる側であり、そもそも戦場の指定はされておらず、フロディス達が予測でこの辺りになるだろうと言った場所で、その予想も外れてまだグラヴィウス帝国やレジケル王国の軍が辿り着く前に、敵はこの場所を越えようとしている。
基本的には平原となっているが、俺が今いる場所は敵も右正面にある森を抜けて高台となっている場所であり、敵の姿がはっきりと見える場所となっている。
こうして見ると、やはりかなり大規模で、その総数は目視じゃ把握出来ないが、後続も続いているところを見ると何十万とかそういった次元である。
しかし基本的には全員が同じ装備であり、あまり強そうには見えない。
ならば、やれるだけやるだけだ。
「誰に手を出したか、身をもって知れ」
俺は魔法の溜めに入る。
セラフィのように大きな魔法を放つまでの時間や早く無いが、それでも溜めてなら打つことが出来る。
威力もそれなりに出るだろう。
「フォトンブラスト!」
俺はフォトンブラストを思い切り溜めて敵の兵士達の先頭へ放つ。
不意は完全に付けており、避ける暇もなく射線上の兵士達はフォトンブラストの光へと飲み込まれていった。
戦場は騒然としており、フォトンブラストをまともに食らった兵士達は、もはや形すら残っていない者が殆どだ。
残念なことに特防のステータスが足りていなかったようだ。
陣形は崩れ、恐怖している者もいれば、必死に立て直そうとしている者もいる。
だが、敵の状態など知ったことではない。むしろこの隙にさらに減らさせてもらうことにしよう。
俺はフォトンレイを三つ発動させて戦場に躍り出る。立ち位置的にはモロ敵の正面だ。
安全にいくのならば、場所がバレるまでは先程のように魔法を遠くから放っている方が良いのだが、セラフィが危険に晒されている以上時間は惜しいし俺が安全に戦う訳にもいかない。
戦場に姿を現した俺を見て、兵士達は皆同じく驚きを晒していた。
それもそうだろう、今のルーディスに俺を知らない奴は殆どいない。
ただ、実力に関しては知らない者もやはり結構いるようで……
「怯むな! 魔王をここで取れれば儲けものだ! 所詮は勇者に負けた男よ。数で圧し潰してしまえ!」
ほら、あの指揮官らしき男も俺のことを侮っている。身の程を分からせてやることにしよう。
俺は敵が向かってくるよりも先に全力で突っ込んだ。
まず手始めに接近している最中にフォトンレイで三人を削る。
貫通力に長けたフォトンレイは腕などに当てても大きなダメージにはならないが、頭を貫いてしまえば簡単に人間など殺すことが出来る。
人間って魔獣に比べて脆いな……
その後も近距離に詰めるまでにフォトンレイでどんどん敵を削っていると、死んだ仲間を盾代わりにする奴なんかもいたが、残念なことにそれではフォトンレイは防げない。
そうして接近するまでにそれなりの数死体を積み上げた。
「覚悟はいいな?」
そうして十分な距離まで詰めた俺はそう呟いて一気に地面を蹴り、一番前にいた奴を剣で斬り裂いた。
「う、打ち取れ!!!」
先程の指揮官だろうか? 焦ったように叫び、兵士達は一斉に斬りかかってくる。
だが、俺と戦うには圧倒的にステータスが足りていない。迫る無数の剣を躱し、受け止めフォトンレイで打ち抜き、剣で斬り裂く。
狭いスペースを身体を捻って飛び、死体すらも踏み台にして、俺は初めて人間相手に全力で力を振るっている。
人肉を斬り裂く感触に嫌悪感を覚えている余裕は俺には無い。一刻も早くセラフィの元に辿り着くことだけを考えていた。
途中先頭にいた隊の数がある程度減ると、次いで魔法が雨のように飛んでくる。
対象が俺1人ということもあり、ほぼ一点集中で打てる魔法は確かに理に適った攻撃方法だ。
だが、俺は避けることもしない。理由は単純、面倒臭いからだ。
魔法の直撃により、地面が多少めくれ上がって俺の姿が隠れる。
「やったか……」
先程と違い余裕が無い声色で指揮官が呟く。
まあ当然やれてないのだが……
「やれてねぇよ……ほれ、お返しだ!」
姿が見えなくなったことで、敵は一旦攻撃の手を止めていた。
魔法を溜めるのにこれ程いい空き時間はない。
待った地面を全て吹き飛ばすように、俺はその指揮官がいた方向に向けてフォトンブラストを放つ。
「んなっ!?」
驚きの声が出きる前に、その指揮官は後ろの隊の一部もおまけとばかりにフォトンブラストに飲み込まれていった。
指揮官は他に比べて多少ステータスが高かったみたいで、消し飛んだりはせずに肉体は残っていた。
さて、HPは一割程削れた。物理的なダメージは無いので先程の魔法による攻撃だけだろう。
そして、息つく暇は無い。すぐに次の敵が大量の襲い掛かってきているので、戦闘を再開する。
そこから数時間戦い続け、それなりに攻撃を食らうようになってきてしまっていた。
精霊魔法があれば、更に効率良く戦えたのだが……いかにセラフィの存在が大きいかこういうところでも分からされる。
何よりもやばいのは身体の疲労だ。
走っているだけならば、無理をすることが出来たが、それが戦闘になるとやはり違ってくるらしい。
既に手も足も持ち上げるのですら苦痛なのだが、少しでも動かすのを辞めた瞬間に一気に攻撃を食らってしまう。
まだHPには多少の余裕があるが、だからといって無尽蔵に攻撃を食らえる訳では無い。
敵の数にまだまだ終わりは見えず、しかも全方位を囲まれる形になっているので、最悪一旦引くときに無茶をするためHPは残しておかなければならない。
急いでいたとはいえ、無茶をし過ぎたようだ……
「どけお前ら!!」
「っ!?」
不意に前方から大声が聞こえて、背筋に嫌なものが走った。
咄嗟に剣を振り抜いたが、ここに来て初めて剣が弾かれて腕が上がってしまう。
そこへ追撃とばかりに魔法が飛んできた。風の王級魔法ストームスフィアだ。
モロにストームスフィアが直撃して、その魔法の特性で身体が細かく斬り裂かれて更には吹き飛ばされた。HPもそれなりに削られたことをみるに、魔法を放った奴はかなりの特功ステータスをしてそうだ。
そこへ更に別の奴が剣で斬りこんでくる。かなりの素早さをしているようで、崩れた体勢で仕方なくフォトンレイで迎撃しようとしたのだが、全て避けられてしまう。
どうしようもないので、上手く着地するのは諦めて剣でガードしてから地面を転がった。
大量の死体から出た血が身体に付き、俺の戦装を血に染める。
だが、そんなことを気にしている暇は無い。俺は急いで起き上がり、仕掛けてきた奴らを目で捉えた。
「今ので仕留め切れねぇとはな……やっぱし魔王の呼び名は伊達じゃねぇってことか」
「でも、それなりに弱ってきてるみたいだし、それ程の脅威は感じられないわね」
「だが兵士を削られ過ぎた……これ以上の被害が出る前にさっさと仕留めるぞ」
初めに俺の剣を弾いた奴は大柄で凶悪な笑みを浮かべており、魔法を放った奴は戦場だというのにドレスを身に纏った髪の長い魔女のような女で、最後に俺のフォトンレイを躱した奴は全身を黒い装備で固めて口と鼻も隠している忍者みたいな奴だった。
こいつらは明らかに他と比べて纏っている雰囲気が違う。
「なんだお前らは……?」
「あ? んなもん、邪悪な魔王を討伐しにきた正義の英傑様に決まってんだろ」
「正義ね……お前ら全員鏡見て出直してきたらどうだ?」
挑発に挑発で返したが、実際にそれ程の余裕があるわけじゃない。
今の疲労が限界な状態で、しかも先程の攻撃でHPも半分を切っているという中で英傑三人、しかも俺が知っている頃のロニとフーシーよりも数段強そうな奴らと戦うのはかなり厳しい。
仮にこの三人を気合で倒したとしても、その後はまた大量の兵士達の囲まれた状態での戦闘再開だ。
流石に無理をし過ぎたかもしれない……せめてしっかりと休んで疲労の無い状態であれば何とかなったかもしれない。
ただ、諦めるという選択肢は無い。仮にここで俺が死んだとしても、少しでも敵を減らしておけば、誰かがセラフィを助け出してくれるはずだ。
痛む身体に鞭を打って、立ち上がり剣を構えた。
「来いよ。魔王の力を見せてやる」
俺は自ら英傑達に向かって行く。
流石にステータス面では余裕で勝っている。全力の速度で俺の剣を弾いた男に斬りかかった。
「んぁ!? 重てぇ……」
押し切るつもりで斬りかかったのだが、ギリギリのところで押し切らせてくれない。
その隙を突いて、最も素早いであろう黒い奴が俺の脇腹を蹴り飛ばす。
鈍い痛みを感じながら身体を捻って着地すると、前方から突風が襲い掛かってきた。
「耐えきれるかしら?」
いやらしい笑みを浮かべながらドレスの女はそのまま突風を維持する。
耐え切れない訳が無いが、やはり身体が重たく次に繋げることが出来ない。
「おら行くぞ!」
「止めだ」
その隙に二人で詰めてくる。これで決める気満々だ。
「……なめんな!」
身体に力を入れる意味も込めて叫び、俺は限界までフォトンレイを発動させる。
今となっては数十個を同時に発動させることが出来るようになった俺のフォトンレイは、雨のように光の刃を三人に向けて飛ばす。
「ぐあっ!?」
「痛ったぁぃ!」
「ぐっ……」
残念ながら有効打は与えられなかったが、それなりに被弾させることはでき、突風も止む。
この隙に一人だけでも仕留めようと足に力を一気に込めて飛び込もうとしたが、ここに来て疲労によるミスか、血に足を滑らせてしまった。
「しまったっ!?」
力を入れていたことも災いして大きく転んでしまう。
この大きすぎる隙を見逃してくれる程、敵は甘くない。
「……いやぁ強かったぜ。英傑三人がかりで、しかも疲労も込みでここまで抵抗されるとはな……安心しな、俺様を手こずらせたってことで名前は広めといてやるよ!」
流石にここまでか……一度倒れてしまったからか、もう身体が動かない。それに動けたとしても俺に止めを刺そうとしている大男に加えて女もいつでも魔法を放てるようにしているし、黒い男に即座に拘束されてしまうだろう。
クレーティオには申し訳ないが、無理をし過ぎた。
これ以上は足掻いても惨めなだけなので、最後に大男を睨む。
後は誰かがセラフィを救い出してくれることを信じるだけだ。
「終わりだ!」
大男が剣を振り上げ、俺に向かって振り抜いた。
…………
だが、その剣は俺の身体には刺さらずに、代わりに聞こえてきたのは剣同士が打ち合った甲高い音だった。
「良かった……! 間に合った!」
「……アノン?」
大男の剣を弾いたのは、アノンだった。
相当急いで来たのだろう、髪が若干乱れている。
「ヨゾラ先輩! 大丈夫ですか!」
「あ、ああ……ありがとうアノン、助かったよ」
「先輩には沢山助けられましたから……今度は私の番です!」
本当に頼もしくなったと、場の雰囲気に合わず笑みが零れてしまった。
「サクラさん、先輩をお願いします!」
「はい。ヨゾラ様、失礼します」
「サクラも来てくれたのか……」
「勿論です! むしろ遅くなって申し訳ございません」
「いや、助かったよ。流石に少し、休ませてくれ……」
心強い増援が来てくれて、そこで少し安心したのか、意識が薄れてくる。
披露が限界で、これ以上は動けそうにない。頼りになる仲間に今は任せて休み、起きた時は全力でセラフィを取り返しに行こう。
自由な女神「流石のヨゾラ君でも限界だったみたいだね。アノンちゃんが間に合って本当によかったよ!」




