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この異世界は物足りない  作者: VRクロエ
英傑決戦編
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攫われたセラフィ

新章スタートです!

 その日セラフィは珍しく1人で王都内を歩いていた。

 己の中にある気持ちを恋愛感情だと自覚し、それをヨゾラに伝えるため、プレゼントを買いに来ていたのだ。


 別に気持ちを伝えるのにプレゼントを用意する必要は本来無い。だが、サクラに言われ、セラフィ自身も良い案だと思った。

 有り体に言ってしまえば、単純にヨゾラに何かを送りたかっただけなのかもしれない。ただ、気持ちを伝えるということと、何かをプレゼントするという目的が噛み合い、合わさっただけだ。

 気持ちを伝え、その証拠に形ある物をプレゼントするというのは、一般的に見ても素敵なことだと大体の者は考えるはずだ。

 理級精霊だからといっても、その辺は変わらないのである。


 サクラがピックアップしてくれた店は何処も良いところだ。それほど物に興味を抱かないセラフィだが、どうしてかヨゾラに物をプレゼントすると決めてから、やたらと一つ一つの物をよく見るようになり、そしてその違いや価値をしっかりと判断するようになった。


 それでも、普段から幅広く国に関わり物の査定などをしているサクラやビャクに比べれば、まだまだ見る目は養われていない。

 本来ならばサクラも連れてきた方が良かったのだろうが、今回ばかりは自分で決めたかったのだ。


 これまでヨゾラからは様々なものを貰った。

 この命も、セラフィという名前も素晴らしき姿も、楽しい遊びから美味しい食べ物。そして今胸の中に存在する、恋という感情まで、本当に沢山のものを貰った。

 だからこそ、今回のプレゼントは今の自分に選べる最も良いと思った物を選んで渡したかったのだ。


「む? 次はこの店か」


 1人で王都内を歩いているセラフィは珍しく、男に対しては睨みを聞かせているヨゾラがいないこともあって、いつも以上にセラフィは注目を集めているが、本人は気にする様子もなく店の中に入っていく。

 途中で何を買うか決めずに、ピックアップされた店は一度全て見るつもりなので、様々な場所に顔を出すことになる。


 そして、最後の店となり、その場所は王都の中心部からそれなりに離れた場所にあり、周囲を歩く獣人もかなり少なくなっている。


 そこで事件は起こった……


 普段ならば不意を突かれるようなことも無かっただろう。しかしこの日のセラフィは、良い意味でも悪い意味でも浮かれていた。


 最初に感じたのは首回りへの冷たい金属のような感触。その瞬間、セラフィは身体から力が一気に抜け落ちるのを感じた。


「なんだよ、とんでもなく強いって聞いていたから警戒してたのに、とんだ拍子抜けだな」


 突然力が抜け、立っていることも出来ずに崩れ落ちると、次いで背後から男の声が聞こえてきた。

 首元を確認してみると、そこには首輪のような物が掛けられていた。あまりに突然のことに混乱したが、これが原因だというのは考えなくても分かる。


「セラフィ様!?」


 店の従業員が焦ったような声を上げる。それもそうだろう、自国のトップが自分の店で急に知らぬ人間に首輪を付けられて倒れたのだから。


「うるせぇな……おい、店内にいる獣人共は()()()()()()

「っ!? や、やめよ!? 何が目的じゃ貴様ら!」


 セラフィは必死に声を振り絞るが、その叫びも虚しく、先程セラフィの名を呼んだ従業員の身体から鮮血が舞う。

 それだけではない、他の従業員や買い物に来ていた客も次々に殺されていく。

 元が魔獣の獣人といえど、500年という年月の中で、戦闘に特化した者とそうではない者に分かれている。

 あっという暇もなく、店内は血に染まっていた。


「……貴様ら……覚えておれよ……」

「はいはい。君も黙ろうね」


 そこでセラフィの意識は闇の中に落ちていった。セラフィに首輪を付けた者に気絶させられたのだ。


 その惨状が発見されたのは、事件から数時間が経ってからのことで、セラフィを攫った者達の姿は何処にも無かった。






 ――――――――――






「……ギリギリ息があった者が残したであろうメッセージには人間の複数犯という情報だけがありました」

「……」


 セラフィが攫われた……? 俺の相方であるセラフィを……人間が?


 思考が滅茶苦茶になっていく。その自覚も、果てしない怒りのせいでそうなっているということも、自分じゃもう理解することはできないが。


 気が付けば俺は立ち上がっていた。


「……ビャク」

「はい」

「セラフィの気配は?」

「王都内には感じられません。国外へ連れていかれたようです」

「そうか……」


 壁があることなど関係無い速度で走り出す俺をその場の誰も止めることは出来なかった。

 目の前にある壁は剣で斬り裂き、限りなく早く追いかける。

 当然どちらに行ったかなど分からないが、今の俺にそんなことを考える余裕も無く、グラヴィウス帝国がある方向へとひたすらに走っていた。


 犯人を許すつもりは無い。何が目的かは分からないが、セラフィに危害を加えた以上、関わった者は全員殺す……


 走っているうちにいくらか思考が戻ってきた。

 セラフィを攫うのは簡単なことではない。それなりに前から計画されていたことなのだろう。

 それに加えて、今や全ての国通しが和平を結んでいて、そういった政治のこと抜きにしても普通に仲が良い。

 そんな状態でセラフィを攫えば確実に全ての国が敵に回る。セラフィを攫うような計画を立てる奴が、そんなことも考えずに実行に移す訳が無い。

 ならば、国単位で敵に回しても勝てると思える程の戦力を集めてるのだろう。


 そして一番謎なのが、それ程騒ぎを起こさずに事を実行したということは、実行犯自体は少なかったはずだ。

 にも拘わらずセラフィが対処出来なかったとなると、何かしらセラフィの力を封じる術でも持っているのかもしれない。


 まあだが、やることは変わらないか……セラフィを取り戻すだけだ!


 俺はそのまま進路を変えずに、グラヴィウス帝国に向けて全速力で走り続けた。






 ――――――――――






 ヨゾラが飛び出して行った後のビャク達の動きはとても早かった。


「ミヤ! 今すぐ全ての騎士を招集しなさい! 兵士は半分を残して厳重警戒! 人員の配分は各隊長に任せますが隠密隊のみ全員で今すぐ各地に飛びセラフィ様の捜索を! 普通の戦いではなく戦争だと思いなさい!」


 ビャクの指示でミヤは急いで伝達に行く。もうすでに焦っている様子は無い。純粋な怒りだけだ。


「わ、私が、セラフィ様を1人にしなければ……こんなことにはならなかったのに!」

「サクラ、嘆くのは後ですよ。一時間も掛からずに軍の招集は終わるはずです。行きますよ」


 統率力の高いノーヴィストの軍は瞬く間に集まっていく。ビャクは一時間と言ったが、実際に集まるまでは三十分程だった。

 皆、表情には少なくない怒りが浮かんでいる。敬愛する主が攫われたとあっては許すわけにはいかない。

 戦争の時はあくまでも国を守るための戦いだったが、今回は敵の全てを蹂躙する。例え命を請うても、何かしら非がこちらにある可能性があっても関係無い。


「分かっていますね? これは我々全員の失態です。これから始まる戦いで我々はその命をもってして償わなければなりません。敵に対して命を惜しまず、全てを滅ぼす勢いで戦いなさい!」


 既に全員覚悟は決まっている。敵を見つけ次第、速度のみを考え、敵を薙ぎ倒しセラフィを救う。

 自分達のもう1人の主であるヨゾラは既に動き出した。誰よりも苛烈に暴れることは分かっている。それに続いて行かなければ。


「私とサクラは軍とは別に動きます。指揮は基本的には各隊長に任せるので頼みますよ。初めての運用だからといって今回ミスは許されません。肝に銘じておくように」

「ヨゾラ様はグラヴィウス帝国に向かわれました。すぐに出発します」


 こうしてノーヴィストの軍はグラヴィウス帝国に向けて進みだした。

 ヨゾラは全くの休みなく進んでいるが、流石にこれだけの規模で全く休まないのは不可能なので、最小限の休みだけで進んでいく。

 サクラとビャクのみは単体での機動力の高さと、軍をグラヴィウス帝国に向かわせているのでその説明も事前にしなければならないので先に向かっていた。


「今回の戦い、敵の規模も相当大きいはずです。恐らくは国単位で敵に回す想定すらしているはずです」

「関係ありません。どんな敵と戦うことになろうとも、例えヨゾラ様にいただいたこの身が滅びようとも必ずセラフィ様だけは助け出します……」


 サクラとて敵が相当な規模なのは予想が付いている。だが、だからなんだといった感じだ。

 今回のことで、最も責任を感じているのはサクラだ。別にサクラは悪くないし、ノーヴィストの誰も悪くない。悪いのは攫った奴らなのだが、それでも罪の意識は消えない。

 後悔と呼ぶその感情を噛み砕きながら、グラヴィウス帝国に向かって行く。


 戦争が終わりしばらくが経ち、新たな戦いが始まる。

 苛烈さは先の戦争よりも上がり、どちらかの勢力が倒れるまで続くだろう。

 幾人もの英傑と各国がぶつかり合い、その果てに得られるものがどれ程のものかは、始めた者達にも予測の範疇でしか分からないが、多くの血が流れるのだけは間違いない。

 それだけ500年続いた戦争の傷は深く、表向きは終結していても、実際にはまだ終わりの無い戦いとなっている。

 いつになれば本当の意味で戦争が終わるのか……今回で終わるのか、それともまだ続くのか……

 ヨゾラという特異点から動き始めたルーディスという世界は、まだまだ大きな波紋を広げていくこととなる。


自由な女神「セラフィちゃん大丈夫かな……? 犯人は絶対許せないよ!」

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