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グランバード

「ヨゾラ……こいつを1人で狩ったのか?」


 鳥の死骸を見たヒーツは驚いたような声を上げていた。


 今俺とヒーツは、俺が残してきた鳥の死骸がある場所までやってきていた。

 どうしてここにいるのかというと、それは俺が街に戻ってからの経緯でだった――






 ――――――――――






 鳥の一部を担いで街に戻り、そのまま冒険者ギルドに入ると、中にいた他の冒険者達の視線が俺に向いているのをひしひしと感じた。原因は俺が担いでいる鳥の部位だというのは考えなくても分かる。

 俺に視線を向けている冒険者達はみなベテランのように見えるが、そのベテラン冒険者から見てもこの鳥は相当な獲物だということだろうか?


 なるべく気にしないようにしていたが、次第にざわざわし始めた周囲の様子はいやでも気になってしまう。小声で話しているので、会話の内容までは俺に聞こえることはなかった。


 ギルド内の小さな騒ぎが気になったのか、ヒーツが出てくる。辺りを見渡して、その原因が俺にあると分かったようで、まだカウンターにすら辿り着けていない俺の元までやってきた。


「まだ登録して三日目だってのに、もう何かやらかしたのか?」

「え……いや、普通に狩りに出かけて帰って来ただけですけど……」

「おいおい、そんなに心配そうな顔をするなっての、冗談だよ。――で、騒ぎの原因はそれか」


 ヒーツは小さく笑った後に、真剣な表情をして俺の担いでいる鳥の足と翼にそれぞれ目を向ける。


「随分とでかいな……」

「この魔獣がなんだか分かりますか?」

「ぱっと見じゃ分からんな。他の冒険者もなにかは分かっていないはずだ。単純に登録したてのヨゾラがこんな大物を狩ってきたことに驚いているだけだろうさ」

「あー、なるほど……」

「ま、気にすることはねぇ。それよりもそいつを調べたい。悪いが、奥まで持ってきてくれるか?」

「分かりました」


 俺はヒーツに連れられて、昨日来た広間とはまた別の場所にやって来た。

 中には今日持ち込まれたであろう魔獣の討伐証明部位が沢山あり、それをギルド職員であろう人達が仕分けをしていた。


「お前ら! 一旦手ぇ止めろ! 悪いがこいつが何なのか調べてくれ、急ぎだ!」


 ヒーツの言葉で職員達は手を止めてこちらに来る。俺は担いでいた鳥の部位を渡して、しばらくは結果が出るのを待つこととなった。


 それにしても職員達全員がヒーツの言葉で作業を中断したのは、何と言うか見事な光景だった。


「ヒーツさんって結構偉かったりします?」

「そりゃあ俺はギルマスだからな。ってか今更か? 知ってるのかと思ってたぞ」


 いやまあなんとなくそうなんじゃないかなぁとは思っていたが……

 今になって思うと、ギルマスにここまで丁寧に対応してもらっていたのかと嬉しくなる。それだけ俺のことを買ってくれていたのだろうか?


 そんなことを考えていると、鑑定が終わったのか職員の1人が何やら只事じゃない雰囲気で報告をしにきた。


「ヒーツさん、この鳥は――グランバードです」

「グランバードだと!? 秘境の魔獣じゃねーか!? だ、だが俺の知ってるグランバードはここまで……ヨゾラ! グランバードと戦った場所まで案内しろ!」

「え? あ、はい。分かりました」


 状況が飲み込めない俺は、言われるがままにヒーツをグランバードと戦った場所まで案内することになった。






 ――――――――――






 さて、そろそろヒーツが何が起こっているのかを聞かなければならない。鳥の大きさに驚いていることは分かるが、それ以外の所がさっぱりだ。秘境という言葉が出ていたので、それが関係していることは間違いなさそうなのだが……俺はそもそも秘境という場所のことを、危険な場所程度のことしか知らないのだ。


「で、ヒーツさん。結局この魔獣は何なんですか?」

「あ、ああ悪い。混乱して色々と説明するのを忘れてた。こいつはグランバードっていってな、秘境と呼ばれる場所にしか生息していない魔獣なんだ。この辺にいること自体おかしいんだが……問題はそこじゃない、大きさだ」

「確かに大きいですね」

「いいかヨゾラ、本来のグランバードはこの半分の大きさくらいなんだ。ここまで大きいのは見たことも聞いたこともねぇ。異常な大きさだ」


 つまりこのグランバードという鳥は本来ならば5メートル程しかないと? まあ5メートルでも大きいことには変わりないが、今回俺が遭遇したのは通常の2倍サイズらしい。


「ん? 整理すると、普通はいない秘境の魔獣と遭遇した挙句、それはあり得ないっていうくらい大きかったって……俺、もしかして結構やばかった?」

「結構どころじゃねぇ! 死んでてもなにもおかしくなかったぞ! そもそも通常サイズですら登録したての冒険者が勝てるような魔獣じゃねぇんだ! ほんと、よく生きてたな!」


 褒められているのか怒られているのかよく分からない……


「それにしても秘境の魔獣がこうして出てくることってあるんですか?」

「まあおかしいとは言ったが、無い訳じゃない。魔獣も生き物だからな、予想出来ない行動をすることもある。どこかの秘境で何かが起こった可能性もあるが……正直気にしていても仕方ないな。どこの秘境かも分からないし、そう簡単に調べることも出来ん。被害が出る前に討伐出来たことを素直に喜ぶべきだな」


 全く意図していなかったが、そう聞くと頑張って討伐して良かったと思える。


「グランバードの死骸はまるまるギルドが買い取るとしよう。運ぶのはこっちでやるから安心しな。金の受け渡しは明日でもいいか? 査定に時間がかかる」

「分かりました。俺はいつでも大丈夫ですよ」

「助かる。なら明日ギルドに来い。時間は何時でも構わないから今日はゆっくり休め」


 俺はヒーツの言葉に甘えて後のことを任せて宿に戻ることにした。

 討伐部位だけでなく、死骸をまるまる買い取るとのことだったが、一体いくらになるのかが今から楽しみだった。






 ――――――――――






 翌日、俺は起きてからしばらくの間ごろごろとし、ギルドに向かったのは昼が過ぎた辺りになった頃だ。

 俺がギルドに入ると、すぐにギルド職員に案内されて、冒険者登録をした部屋に案内される。中には眠そうに欠伸をしているヒーツが座って待っていた。


「よぉ、来たかヨゾラ」

「こんにちは。眠そうですね」

「グランバードの査定が思ってたより時間が掛かってな……初めて見る奴も多かったもんで大変だったぜ」


 秘境から魔獣が出てくることもあるにも関わらず、ヒーツはこの辺にいるのはおかしいと言っていたので、恐らく街の周辺に秘境と呼ばれる場所は無いのだろう。それならば、見たことがないのがむしろ普通なのだろう。


「まずは金の話を済ませるか」


 ヒーツはそういうと胸ポケットから冒険者カードに似た真っ黒のカードを取り出した。


「それは?」

「これは金を入れるための魔道具『スペースマネー』だ。これを持ちながら取り出したい金額を思い浮かべると、その金額を自動で吐き出してくれる。逆に入れたい時はこのカードで3秒間触れるだけだ。便利だろ?」


 この世界は科学の発展が一切ない代わりに魔法が発展しているとクレーティオが言っていた。魔道具というのも、魔法が発展したことにより生まれた、地球でいう機械のようなものなのだろう。

 何気なく受け取った冒険者カードや、ステータスを見る物なども魔道具だと考えると、意識していなかっただけで、実際は既に触れている側面だった。


「確かに便利ですね。でも何故いまこれを?」

「これはお前にやる。大きな金を持つなら必ず必要になる魔道具だからな」

「つまりグランバードはそれほどの金になったってことですか……」

「そういうこった。中身がどれくらいか知りたい時はカードに魔力を込めてみな。金額がカードに浮かび上がる」


 俺はスペースマネーを受け取って魔力を込めてみる。すると、薄っすらとカードの側面にその金額が浮かび上がった。


【金貨135枚】


 浮かび上がった文字を見て、思わず声を上げそうになる。金貨135枚、日本円で換算すると135万円だ。

 確かにヒーツの言う通り高額で、生で持ち歩くことはしたくない。


「……凄い金額ですね」

「討伐報酬に加えて、グランバードの素材には価値があるからな。それもあそこまで大きければ取れる素材も多い。それと、少しだが、ギルドの方から後押しさせてもらった」

「後押し……ですか。それは嬉しいですが、理由が思い当たりません」


 被害が出る前に討伐したからだろうか? でもそれだけだと理由としては弱い気がする。


「ヨゾラ、お前さんは世界をもっと見たいんだろ? その為にはまず帝都に行きたいはずだ」

「……もしかして、その為に……」

「そうだ。ちょっとステータスを見せてみろ。この水晶にカードを翳して魔力を流せば浮かぶはずだ」


 ヒーツはテーブルの上にこぶし大の水晶を置く。

 俺は言われた通りに冒険者カードを翳して魔力を流すと、空中にステータスが浮かび上がる。この前は紙に血を流してステータスを見たが、冒険者カードがあればわざわざ血を出す必要はないみたいだ。


 ステータスを見るのは俺も冒険者として登録して以来なので、どこまで強くなっているのか楽しみだった。



【ヨゾラ】

 レベル48 HP402 MP210 攻撃421 防御347 特功489 特防298 素早さ506

 精霊:無し

 魔法:王級光属性

 称号:ヨゾラの作者



 うん、めっちゃ強くなってるわ。

 ほぼ全てのステータスが二倍以上高くなってるのには勿論驚きだが、新たに追加されてた魔法の欄、王級ってマジか……俺が使える魔法はフラッシュレイだけ。あれは王級に分類される魔法みたいだ。


「ステータスを見て分かると思うが、お前さんはこんな街でいつまでも足踏みしてていい奴じゃない。夢を追いかけることが出来るくらいの力があるんだ、前に進んでみろ」

「ヒーツさん」

「だが慢心だけはするなよ? 仮にソロで秘境に挑むなら、まだまだこんな数値じゃ足りない。それにヨゾラよりも強い奴なんてまだまだたくさんいる。帝都ならば猶更な。強い奴が全員帝国騎士になるわけでもない。冒険者にだってそうでない奴にだって強い奴はいるもんだ。進めとは言ったが、焦るなよ? まずは帝国で頑張ってみろ」


 これ以上無いほどの熱い激励。嬉しすぎて涙が出そうなくらいだった。


「自由にやれ、それが冒険者だ。期待してるぞ!」

「はい!」


 予想よりも大分早くなったが、俺は帝都に向かうことを決める。

 地球で誰もが思い描いた異世界を存分に楽しむための、本当の第一歩だ。

自由な女神「転生して数日で大金を稼ぐなんて流石ヨゾラ君だね! まだまだ秘境は厳しいけど、この調子で頑張って強くなってほしいね!」


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