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止まないため息

 ライラとレカムを乗せたヘリはようやく、ナイトメア本部へと到着し、ほっと息をついている間もなく、発着場へと足を着くなりライラとレカムは前線戦闘部隊の騎士たちに連れられて、尋問部屋へと押し込まれた。


「これは……いったい何の真似だ?」

「ど、どうして僕も!?」


 よりによって巻き込まれるような形で連れてこられたライラが、わざとらしく泣きべそをかいているが、連れてこられた理由はすでに見当がついている。


(面倒な事になったな)

(なったねー)


 お互いに目を合わせて高度な会話をするふたりの前に、ムッとした顔で横暴に座るクロス。その顔は怒っているというよりも、どちらかと言えば「やってくれたな」が近いだろう。


「さて……分かってはいるだろうが、帰還報告の前にお前達に問わねばならない質問がある。」

「なんの事だ?」

「サッパリだよ」


 惚けるふたりに、分かりやすい大きなため息をついて報告書を突きつけるクロス。その書面に記されていたのは【レカム・スターチス並びにライラック・アイリス両名が、本部を介さずに個人間での通信行なったこの事象において、これは掟に反する行為である為、速やかに尋問せよ】とつらつらと書かれていた。


 ナイトメアには専用の回線を経由してから、通信を行わなければならない掟がある。それは敵対するディアスキア王国や、中立国である【ルドベキア首長国連邦】からのスパイをナイトメア内に侵入させない為のものである。


  騎士たち(見習いも含む)は体内に監視用のナノマシン(スパイ行為や退役した際の情報漏洩を防ぐもの)を注入されている。以前にそのナノマシンを停止させる新たなナノマシンをライラが試験的に極秘に開発し、自らとレカムに注入したことで動作を停止させることに成功した。しかし、時間経過によりライラのナノマシンの方が寿命が早かったようで、再びナイトメアのナノマシンが作動していたようだ。


「言い逃れはできんぞ? とはいえ、今回の件に至ってはあまり俺からも責められない」

(そうだろうな)

「うんうん、その通りだね……あ!」


 思わず口にしたことに気づいてすぐさま口元を手で隠すライラだが、手遅れすぎてやれやれとため息をつくクロス。


「ごめん……口に出しちゃったよレカム」

(俺を巻き込むな)

「お前等なあ……まぁ良い。お前等がスパイや裏切り行為をするような奴で無いことは知っているしな」

「わーい、お咎め無しってことだね! やったねレカム!」

(だから俺を巻き込むな)


 黙っているレカムの左肩を嬉しそうに叩いて揺らすライラが落ち着くのを待つように、クロスは腕を組みゴホンと咳払いする。それに気づいたのか、恥ずかしそうにして座るライラ。それを確認してからクロスが再び話し始めた。


「喜んでいるところ悪いが、当然お咎め有りだ」

「ええーっ!? 話と違うじゃないか!」

「ライラ……ライラック・アイリス。お前は見習いではあるが、レカムとともに3日間の謹慎だ。大人しくしてるんだぞ」

「そんなあ……」

(やっぱり俺もか)



 ため息をついて尋問部屋を出ようとすると、クロスにレカムだけが残るように言われて、先にライラのみ開放された。


 「あの時、お前の生態反応と通信も遮断された……あの中で何があったんだ?」

(どこから説明しようか)


 国境付近の基地内で遭遇した謎の男。上手く説明する自信が無い上に、遭遇したのはレカム自身のみ。信憑性もかなり少ないだろう。


(まともに話をしても意味が無いかもしれない)


 どう話すか迷っているレカムに対し、クロスの方から話が始まった。


「積んできたあれは遺体だが、あれは何だ? 何者だ?」

「分からない」

「ディアスキアの人間なのか?」

「いや……奴は違った。だが、所属も分からない」

「通信は使えなかったのか? 何故お前だけなんだ?」

「……分からない」


 クロスは毎度のようにため息をついて、足を揺さぶっているのを見れば進まない話にイライラし始めているようだ。だが、間違った事は言っていない上に、むしろ早く謎の男の正体を教えて欲しいくらいなもので、どう答える事もできない。


「ふむ……聞き方が悪かったな。では簡潔に、ありのまま起こった事を報告しろ」

「そうだな……まず」


 レカムはクロスの背中を足場にし、基地内に侵入。そのまま機械兵士と戦闘し、確認したすべてを破壊した後に、それは起こった。


 突如として静まり返る辺り、そして使えなくなる通信機。まるで閉鎖空間にでも押し込まれた気がしていた中、不穏な気配と殺気を放つ【謎の者】と遭遇した。


「奴は俺よりも強かった。あのナイフ捌きは別格だ」

「アザミよりもか?」

「ああ。戦闘が長引けば殺されていたのは俺の方かもしれない」

「お前がそこまで言うとは……だが、勝ったのはお前だレカム」


 その言葉に頷く事なく、ただ黙り込む。


 いや、本当は勝利などしていないのだ。あれは勝利では無く、訳もわからぬ謎の男の自決。レカムの剣は結局、謎の男には届かなかった。


 またひとつ、嫌な記憶が増えたことに頭を抱えるレカムだったが、突然背後の入口から声をかけられた。


「考えることはない、レカム君。君は敵を倒し、このサントリナを着実に守ったのだ」

「お、オダマキ様!?」

「オダマキ……?」


 振り返る先にいたのは、この独立戦闘騎士団ナイトメアにおける始まりの騎士であり、最強と謳われるナイトメア総司令、オダマキ・ロクザ。

 その落ち着いていながらスキのない立ち姿、そしてその威圧感は座っているレカムにも重くのしかかってくるようだ。


「直接会うのは久しいな、レカム君。確か、君の適正判断実技試験以来だったか」 

「……はい」

(そうだったか? あまり思い出せない)


 それ以上会話を広げるとボロが出そうで、ひと言だけで返事をする。オダマキは少しだけ鼻で笑うと、立ち上がり敬礼するクロスの隣に座る。


(嘘だろ……まさかまた説明しなきゃならないのか?)

(ああ……面倒だ)

(だいたい俺に聞いたところで分からないとしか言えないじゃないか)

(知りたいのは俺も同じだ)

(ついてない……ついてないな今日は)

 

 流石にオダマキの前ではため息を我慢して、雑に座っていた体制を整え、オダマキに向き直した。


「何、君を問いただそうなんて事はもうせんよ。それにしても、謹慎の件についてはすまなかった。なんせ我々の通信が妨害されるとは思わなくてな」

「いえ、緊急だったとはいえ掟を破るのは御法度。謹慎のみでの御慈悲に謝罪とともに深く感謝申し上げます」

(言葉選び……嫌いなんだよな)


 今の言葉にどっと疲れ込むレカムだったが、嫌な顔ひとつせず、淡々と言い放った。


「うむ。だが、違反は違反だ。それに、こうでもせねば他に示しがつかんのでな」

「然るべき処罰は受けます」

「すまないな。それと、君が遭遇した【謎の男】についてだが……あれはこちらで直接調べることにした」


 そう言うオダマキに対して、特に何も思っていないように「そうですか」とだけ返すレカム。気になることは山程ある。だが、何故かそれを悟られてはいけない気がして、まるでこのオダマキという男が自分を試しているような気がして。


 それに、まだひと言も奴が【男】であることはライラ以外に話した記憶も無かった。


(何処かから盗聴されていたのか)


 その事が益々気に入らなかった。


「君はとても優秀だと……【天才】だと聞いている。レカム・スターチスよ、これからもサントリナのために精進せよ」

「はっ……」

「クロス君、もういいだろう? 彼を休ませてあげなさい」

「かしこまりました! レカム、話は以上だ。謹慎中は大人しくしているんだぞ?」


 そう言って去っていくオダマキの後を慌ただしく追いかけるクロス。長かった尋問からようやく開放され、大きくため息を吐き散らす。


 オダマキ・ロクザ……ナイトメアの中枢が直接動き出したということは、事は想像よりも遥かに大きかったということ。


 謎の男にオダマキ、そしてレカム……。


(何も起きなければいいんだがな)


 立ち上がり、尋問部屋を後にする前に振り返り、部屋をザッと眺めるレカム。そして再び大きなため息をついてから、尋問部屋を後にした。

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