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079 ルスタリオ祭 17

 通路を逆走していったナルカミとそれを追いかけたシマンが、いま俺たちの目の前に――正確にはドラゴンを挟んでだが――いた。

 俺はひどく困惑した。

 俺の頭は混乱した。何がなんだかわからくなってヒナのほうを見る。

 ヒナは俺と目が合うと神妙な面持ちで首を横に振った。


「ループだな」


 ミスターKが言った。

 俺がどういうことか訊くと、ミスターKはみんなに聞こえるように説明してくれた。

 <DO>では見かけたことのないギミックだが、他のゲームではたまに見かけるようだ。

 たいていは近くに解除する仕掛けがあり、それによって先へ進むことができるのだという。


 シマンの様子を見ると何やらナルカミと会話しているようだった。

 こちらからはまったく声が聞こえないが、なんだか言い争っているように見える。

 誰もがどうしていいのかわからないかのように、不安そうな顔でその様子を注視していた。

 そしてしばらく激しく口をパクパクさせて口論させていた二人に変化が起きた。

 ナルカミがシマンを突き飛ばしたのだ。


「危ないっ!」


 俺は咄嗟に叫んでいた。

 だが俺の声は向こうに届いてはいないだろう。

 シマンは両腕をぐるぐると回してその場に踏みとどまろうと耐えていたが、ナルカミが身をかがめて体をぶつける。

 バランスを崩したシマンはよろけて、結界の中に足を踏み入れてしまった。

 ナルカミは引きつった顔でそれを眺めていた。


 するとドラゴンがシマンのほうへ体の向きを変えて、巨体を震わせながら一歩一歩ゆっくりと歩き始めた。

 シマンが慌てて立ち上がり結界に駆け寄るが、結界は無残にもシマンを撥ね除けた。


「やはり駄目か! 結界は一方通行だ!」


 ミスターKが大きな声で言った。

 結界は八分間に一度三十秒間だけ解除され仕組みだ。

 しかしシマン一人でドラゴンの猛攻を八分間も凌げるはずもなかった。

 俺は何とかしなければと思った。

 歩いてきた通路を戻ってシマンのもとへ駆けつけるよりも、このまま結界を突き進んだほうが早い。


「シマン!」


 言うなり俺は結界を突き抜けて中に入った。

 その瞬間、俺は無我夢中だった。

 背後からヒナが俺を呼ぶ声が聞こえる。

 その声はすぐ後ろまで近づいてくる。


「ヒナ!? どうして!」


「どうしてって、タイガくんが無謀なことするからよっ!」


「くっ……でもシマンが!」


「そうね、一緒にシマンくんを助けましょ!」


 ヒナは力強くうなずいた。

 俺はヒナを頼もしく思った。

 シマンを捉えたドラゴンが前足を大きく上げて踏みつける。

 間一髪、地面を転がりながら逃れたシマンはすぐに立ち上がると怒ったような顔で叫んだ。


「馬鹿野郎! 来るなっ! 逃げろぉぉぉっ!」


 俺とヒナに向かって手を突き出して「来るな!」と訴える。

 そんなことを言われても俺やヒナがシマンを見捨てるはずがない。

 俺は地面を強く蹴って一秒でも早くシマンのもとへ駆けつけたかった。

 何ができるというわけではないが、とにかくそれだけを考えていた。

 ヒナは同じ気持ちなのだろう俺の横を並走している。


「タイガくん、私が注意を引きつけるからその間にシマンくんと一緒にドラゴンから離れて!」


「駄目だ! それじゃあ、シマンとヒナが入れ替わっただけだろ!」


「私のほうが生き延びる可能性は高いわ! それしか方法は……!」


 確かにステータス上ではそうだろう。

 だけど俺やシマンが納得できるはずがない。

 答えがでないまま俺たちは走り続けた。

 そんなとき、ドラゴンの鋭い爪がシマンに襲いかかった。

 こちらからはギリギリで躱したように見えたが、シマンは吹っ飛んで結界に叩きつけられた。


「え……! う、嘘だろ!? シマァァァァァンッ!」


 HPバーが急速に減っていき、すぐに0になった。

 シマンは力なくうつ伏せに倒れ、その体は半透明の状態になった。

 初めて経験する仲間の死に俺は激しく動揺した。


「タイガくん! ドラゴンの攻撃がくるわ!」


 ショックから立ち止まってしまった俺を庇うようにヒナが立ちはだかった。

 しかしドラゴンはくるりと向きを変えると俺たちに背を向けた。

 なぜなら、ミスターKとレオナさん、その後ろからエクスさん、三人だけじゃない、あの場にいた全員が結界の中に入って戦闘を開始したのだ。


「こうなったら総力戦だ! ここでドラゴンを倒すぞぉぉぉッ!」


 ミスターKが吠え、ボクシンググローブをはめた両拳で厚い胸板を叩いた。

 左右交互に力強くだ。

 ドラゴンの注意を引きつけるための【拳闘士】の《威嚇》スキルだった。


 《威嚇》スキルは相手を威嚇して怯ませる効果がある。

 発動させるには自らの胸を拳で叩く必要があり、その効果量は連続して叩く回数と強さに比例するのだ。

 ただし胸を叩く都度、自身にダメージ判定が発生するので注意しないといけない。

 現に最初に俺たちを助けたときに、ミスターKはHPが一割を切るまでスキルを使用した。


 ミスターKに応えるように、それぞれがスキルや魔法を放っていく。

 《威嚇》スキルの効果かドラゴンの動きがわずかだが鈍ったように感じられた。

 そこでヒナは俺に振り返った。

 

「タイガくん、<サングローの海底神殿>の宝物庫の銀箱から出たアイテムを覚えている?」


「海底神殿……あ……! 【生命の宝珠】!」


 そうだ俺たちには蘇生アイテムである【生命の宝珠】がある。

 今はヒナのアイテムストレージに収納されているはずだ。


「シマンを復活できる!」


 俺が言うと、ヒナは大きくうなずいた。

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