072 ルスタリオ祭 10
<悪魔の腹の中>地下一階を俺たちは進んでいた。
あれから二十分ぐらいは歩いただろうか、ここまでは一本道でモンスターも現れていない。ただ、ところどころ通路の脇に二メートルほどの窪みがあったので待ち伏せを警戒して慎重に進んで行った。
この通路の幅は三メートルで高さも同じぐらいだから、あまり派手に動き回ることはできない。注意してジャンプしないと天井に頭をぶつけそうだ。
「マップの表示がずっと一階のままだな」
「そうね。どれほどの広さかまったく想像がつかないわ」
ヒナが歩きながら周囲を見回す。
俺はヒナの視線の先を追いつつ、辺りに耳を澄ましてみる。だが時折風が吹きつける音がするぐらいで基本静まりかえっていた。
どこまで続くんだろうと思い始めたそのとき、前を歩いていたエクスさんのパーティーが急に立ち止まったのだ。
「何かあったんですか?」
「この先から微かに音がしたんだ。風の音とは違う何かの」
「えっ、本当ですか?」
エクスさんたち前を歩いていた五人は聞こえたようだが、俺たちのパーティーや最後尾を歩いていたレオナさんのパーティーには聞こえなかった。
戻ることはできないので、慎重に先に進むことにした。
すると、すぐに開けた場所に出た。直径三十メートルほどの円形状の部屋で十分な高さもあった。
しかも、そのど真ん中では大きなドラゴンが伏せて唸り声を上げていたのだ。
ド、ドラゴン!?
明らかにヤバそうなモンスターなので緊張が走る。
エクスさんのほうを見ると、怪訝な顔でドラゴンの様子を窺っている。
「戦うのかな?」
「進路が一本道だから避けては通れそうもないわね」
「ドラゴンってどのぐらいの強さなんだ?」
「戦ったこともないわ。シマンくんやロキちゃんはどう?」
「俺も初めてだ。なんかヤバそうな臭いがプンプンするぜ」
「私も見たのは初めてです」
俺のパーティー内は誰もドラゴンの情報は持っていない。エクスさんたちはどうだろう?
「あの、エクスさん。どうしましょう?」
「ん……ああ。ごめん、少し考え事をしていた」
振り返ったエクスさんは眉間にしわを寄せていた。
「どうしたんですか? そんなに危険なドラゴンなんですか?」
俺は訊ねながらエクスさんに近づいていく。エクスさんの周りにいた人たちがどいて場所を空けてくれる。
「ドラゴンがどれほどの強さかは俺も知らない。ただ、これを見てくれるか?」
エクスさんもドラゴンについては知らないらしい。もしかして<DO>初登場なのだろうか。
それよりもエクスさんは気になることがあるようだ。エクスさんが指さした箇所を注視する。
「触らないように気をつけて」
「わかりました」
エクスさんの注意を聞きながらそれに顔を近づけていく。
そこには<サングローの海底神殿>にあったような透明の膜が張ってあった。
「あ、これは見たことあります」
「本当かい?」
「はい。<サングローの海底神殿>で同じような仕掛けを見たことがあります。普通に通過できるはずですよ」
「<サングローの海底神殿>か。行ったことはないな。自由に出入りできるってことかい?」
「あれと同じならできるはずです」
そこでエクスさんは顎に手をやって考える素振りを見せた。
「エクス、どうする? 問題なく向こう側に行けるのなら、三パーティーでドラゴンと戦うかい?」
うしろからレオナさんがやって来た。
「ちょっと待ってくれ。自由に出入りできるのなら、どうしてドラゴンは動かないんだと思う? やつと俺たちとの距離は十メートルぐらいだ。あれだけ威嚇しているんだから、普通なら襲いかかって来てもおかしくはない」
確かにそうだな。この距離でドラゴンと戦闘にならないのは何かあるのか?
「俺たちが見た仕掛けとは違うかもしれません。あれはどちらからも出入りできたんで。役に立たない情報ですいません」
「いや、向こう側へ行けるかもしれないとわかっただけでも助かるよ。タイガさん、ありがとう」
「で、行くんだな?」
そう言ってレオナさんが腰の剣に手をかけた。ヒナやエクスさんが装備しているのと同じ【精霊の剣】だ。
「ああ、行こう。正面は俺たちが行く。レオナたちは右から、タイガさんは左から回ってくれ」
「任せな」
「わかりました!」
「くれぐれも無理しないように。危なくなったら下がるように」
俺たちに忠告して、エクスさんは剣を抜いて透明の膜に突っ込んだ。<サングローの海底神殿>にあったものと同じように問題なく通過できるようだ。
向こう側に入ったエクスさんが一歩下がろうとするが背中が俺たちの前で止まる。
「やはり一歩通行か。こちら側に入ったら、もうそっちには戻れないようだ。もしかしたら、あのドラゴンを倒したら仕掛けが解除されるかもしれない。みんな、行くぞ!」
「リーダーに続けッ!」
エクスさんのパーティー全員が向こう側に行った。
「あたしらも行くよ!」
すぐにレオナさんのパーティーが続く。
俺は仲間の顔を見て言う。
「俺たちも行こう!」
ヒナ、シマン、ロキが頷き、みんなで一緒に透明の膜に飛び込んだ。




