069 ルスタリオ祭 7
<DO>からの退場……!
それは累積五度目の死を迎えたことを意味する。
クランの仲間が退場になったかもしれないので、ロキの顔は青ざめている。
「その……新しいダンジョン内で……なのか?」
「彼らがダンジョンに入って、このタイミングで送信エラーによる音信不通なら間違いないでしょうね」
ん……ちょっと待てよ?
「なぁ、ヒナ。送信エラーってことは、相手にチャットメッセージを送信する手順までは問題なかったってことだろ? 要は何らかの理由で相手に届かなかっただけじゃないのか? もし相手が<DO>を退場しているなら、そもそも送信すらできないはず」
俺の疑問を聞いて、ヒナが「そうか」とでも言うように手を叩いた。
あ、俺閃いちゃったかな。
「ロキちゃん、もしかしてダンジョンの新手のギミックの可能性があるわ。外部との通信遮断」
「……でも、そんなダンジョン聞いたこともありません」
そんなことあり得ないとロキは首を横に振る。
「今までに例はないけれど、先日のアップデートや今日のルスタリオ祭でのタイミング。きっと新しいギミックが実装されてもおかしくはないわ」
「……ヒナさんに言われると、そうかもしれないと思えてきました。それに私のフレンドリストにはまだそのサブリーダーのパーティー五人の名前が表示されていますし」
「よっしゃ、まだ希望はあるな。俺たちもすぐにダンジョンに向かって、謎を解明しよう。その先行してダンジョンに潜行したというサブリーダーの手がかりを求めてな!」
シマンがロキの肩をポンと叩く。
「…………」
「あ……今のは先行して潜行したっていうダジャレじゃない……からな」
「誰もそんなこと言ってませんよ。私のクランの仲間のためにそう言ってくれるシマンさんにちょっと感動しただけです。……ですが、その発言でちょっとマイナス評価ですね」
「……そ、そうか」
ロキはクランの仲間が退場になった可能性が薄れたことで、少し気が楽になったようだ。
意図したかどうかわからないシマンのダジャレも、場を和ませてくれた。
「ですが、外部との通信遮断があるとなると準備は整えていったほうがいいですね。未だに帰還者がいないのも気になります」
「そうね。確かに危険なダンジョンかもしれないわね」
「ダンジョン付近に私のクランが集合していますので、一旦そこへ行きませんか?」
「わかった、そうしよう。ヒナもシマンもいいか?」
「ええ、私は大丈夫よ」
「俺もだ。ロキのクランか。まさかこんな形で顔合わせすることになるとは思わなかったな」
俺たちはダンジョンの近くにいるロキのクランの元へ向かった。
<エニグマの町>から二キロほど離れた荒野にそのダンジョンはあった。
大地が不自然に盛り上がり、まるで巨大なモンスターが大きく口を開いたような造形だ。土や岩の重なりがそう見えるだけで意図して造られたかは不明だ。だが酷く不気味に思えた。
しかも驚いたのはダンジョンの外観だけではなかった。
ダンジョンの付近には多くのプレイヤーたちでごった返し、周りには屋台がずらりと並んでいる。中には装備品の出張店までできていた。
「嘘だろ? ダンジョンの前で武器まで売ってるぞ?」
シマンの驚きようから、普段の<DO>では想像できない光景であることは窺い知ることができる。
「これだけ人が集まるんだから、商売にはもってこいだと判断したのね」
「なるほどな。……で、ロキ。おまえのクランの人たちはどこに?」
「あそこです」
ロキがダンジョンの傍で待機している一団を指さした。
二十人ほど集まっているように見える。その中には光沢のある白銀色で、煌びやかな装飾が施された金属鎧を着ているエルフ男と目が合った。
俺とエルフ男は一瞬視線を合わせたが、知り合いでもないのですぐにどちらからともなく目を逸らす。
「エクスさん」
ロキがエルフ男に呼びかけると、エクスと呼ばれたその男は片手を上げながらこちらに歩き出した。
「【精霊騎士】……」
思わず漏らす。
エクスさんのジョブは【精霊騎士】だとすぐにわかった。なぜならヒナと同じ鎧だったからだ。あれは防御力2,000を誇る<DO>でも現状最強クラスの【精霊の鎧】で間違いない。
「ヒナ以外で初めて見たよ」
「鎧だけじゃなくて剣も私と同じね。クラス3ジョブの【精霊騎士】かつ装備を揃えていることを考えると、レベルは私と同じぐらいかそれ以上かしらね」
だろうな。
しかも最近のヒナはレベルもたいして上がっていないから、エクスさんのほうが上の可能性は大いにある。
「やぁ、ロキ。来てくれたんだね。今日はパーティーと一緒に行動すると言っていたから、ここには来ないと思ったよ」
エクスさんは爽やかな表情で微笑む。
金髪碧眼の西洋風の顔立ちで体は割と細身だ。スタイリッシュな【精霊の鎧】が似合っている。
「神田さんのパーティーに何かあったと知って駆けつけました」
かんだ……?
おそらくサブリーダーか、そのパーティーメンバーの誰かの名前だろう。
「そうか。すまないな。……と、彼らは? ひょっとしてロキのパーティーの……?」
「あ、どうも。いちおうパーティーのリーダーをしているタイガです。こっちはメンバーのヒナとシマンです」
俺が紹介するとヒナとシマンは自らも名乗って挨拶する。
エクスさんは俺に手を差し出してきたのでその手を握ると、固い握手を交してきた。
「よろしく、タイガさん。俺はエクス。クラン、【エアリーズ】のリーダーを務めている。よろしく」
エクスさんは爽やかな微笑みを添えて言った。




