068 ルスタリオ祭 6
竜車から降りる。
まだ深夜だというのにルスサイということもあってか、<エニグマの町>の通りは魔法の光で照らされ、並んだ屋台は多くの人で賑わっていた。
現実世界の縁日の夜店のように、プレイヤーたちは手に焼きそばやリンゴ飴などを手にしている。
一番最初に降りた商人の二人は興奮冷めやらぬ様子で屋台のほうへ走って行った。
竜車内の位置的に俺たちが最後に降りるとばかり思っていたが、【鋼糸使い】と戦士風の男が立ち上がろうとしなかったのだ。
<エニグマの町>にまで来てまだ絡むかと心配になったが、シマンに「もう放っておけ」と言われたので先に竜車から降りる。
俺たちのあとからすぐに【鋼糸使い】と、その後ろから戦士風の男が出てきたので何事もなかったようだ。
しかし戦士風の男はさっきのことをまだ根に持っているのか、すれ違いざまに威嚇するような視線を送ってきた。
よほど俺に注意されたことがムカついたみたいだ。
戦士風の男の連れが迎えに来ていたようで、プレイヤーとおぼしき集団がいた。
「エニグマ地方へようこそ、ナルカミ!」
どうやら戦士風の男はナルカミという名前らしい。そして俺と同じくエニグマ地方に初めて来たみたいだ。
もしここへ来たことがあるなら、ゲートを使っていただろう。わざわざ仲間を待たせることはしないはずだ。
集団の中心にいたゴリラの獣人が両手で、ナルカミの肩を叩いた。その両手にはボクシングのグローブのようなものをはめている。
クラス2ジョブに【拳闘士】というのがあるが、それ系のジョブで間違いないだろう。
他には【戦士】や【重騎士】などの近接戦闘職や魔法職の者もいることが窺える。
「痛いっすよ、リーダー」
ゴリラの人がリーダーのようだ。
「ようし、ナルカミが来て我がクランも全員揃ったな」
「待っててもらって申し訳ないっす。俺はいつでも大丈夫なんで、例の新しく出現したっつうダンジョンへ行きましょう」
会話の様子からして同じクランらしい。
というか、ゴリラの人のクランも俺たちと同じダンジョンへ行くのか。
「ダンジョン内で遭遇するかもな」
俺が漏らした言葉にシマンが反応する。
「んあ? それはねぇよ。一緒のタイミングで突入するんならともかく、時間がズレればダンジョン内では絶対に遭遇することはないぞ。<サングローの海底神殿>のときにヒナちゃんが説明してくれただろ?」
「あ、そうだった」
ダンジョンは入る度に構造が変化し、中で他のプレイヤーと遭遇することはない仕様だ。例外としてスタート地点で一緒にいた場合、別パーティーでも同じ構造のダンジョンを一緒に進むことになる……だったな。
確かにシマンの言うとおり、少しでも時間がズレればゴリラの人のクランと俺たちのパーティーはダンジョン内で会うことはない。
それにしても今日出たばっかりじゃ攻略サイトにも情報はないだろうし、推奨レベルもわからないな。
「推奨レベルってどのぐらいなんだろうな」
「情報がないから予測になるのだけれど、エニグマ地方に出現するぐらいだから、それほど高難度ではないと思うわ」
「だよね。これがエメリンやマキュラリウスに出現したんなら、さすがに躊躇するもんな」
「ヒナもシマンも同じ考えか。ロキはどう?」
「私もヒナさんと同じです。出現した地方から考えてエニグマ地方レベルのモンスターか、強くても一区画先のモンテン地方レベルじゃないですか」
「そっか。それなら俺たちでも大丈夫ってことだよな?」
「あたりまえだろ。俺だってもうすぐレベル50だし、ヒナちゃんやロキは50越えてるんだからよ。一番低いタイガでも楽勝レベルだろ」
「お、おう。おまえがそう言うなら信じるよ」
俺たちが話していると、ゴリラの人が率いるクランはさっそくダンジョンに向かうようで去って行った。
いつの間にか【鋼糸使い】もどこかに消えている。ダンジョンへ向かったのか、それとも祭りを楽しみに来たのかはわからない。
「それよか俺たちも早く行こうぜ。なぁロキ、おまえも俺たちと行くだろ?」
「ちょっと待ってください。ウチのリーダーに確認だけ取ります」
ロキがメニュー画面を操作している。クランメンバーにメッセージを送っているようだ。
そう言えば、ロキの所属しているクランもこのエニグマ地方に集まっているんだったか。
「えっ…………?」
ロキが小さな声を漏らす。そして何かに驚いたような表情だ。
「ロキ、どうしたんだ?」
「リーダーとチャットしたんですが、三人いるサブリーダーの一人が率いるパーティーが先行してダンジョンに突入したそうなんですが、三時間経った今もまだ出てきていないそうなんです。しかも連絡が途絶えているみたいで……」
「ロキちゃん、どういうことかしら?」
「チャットメッセージがエラーで送信できないそうなんです」
「ダンジョンの中と外でメッセージが遮断される仕様なのか?」
「いや、そんなダンジョン今までなかった。というより、エラーで送信できないってのは……」
「シマンさん、それ以上不吉なことを言わないでください」
シマンは何かに気づいたようだが、ロキが怒ってキツめの口調で咎める。
「ヒナ、どういうことだ?」
小声でヒナに問いかける。
シマンが気づいているならヒナも当然気づいているだろう。
「……ええ。考えられるパターンとして、エラーで送信できないってことは相手が<DO>に存在しないからよ」
「それってつまり?」
「……<DO>から退場してるってことよ」
な……なんだって?




