066 ルスタリオ祭 5
「え……っと、あの人が倒したんだよな?」
俺は剣を収めながらヒナに近づいた。
「ええ、十匹同時に倒したわ」
「同時……?」
確かに俺にも同時に攻撃がヒットしたように見えた。複数の……しかも十匹の対象に同時攻撃?
一匹二匹ならともかく十匹同時なんて、そんなことが可能なのか?
「スキル……いや、魔法か何かか?」
「魔法ではないですね。魔法発動時に必ず発生する発光エフェクトがありませんでした」
ロキがやって来る。
確かに魔法を使ったときのような光の輝きはなかった。
その後ろからシマンも駆け寄って来る。
「あれは【鋼糸使い】だな」
「こうし……使い? シマン、知っているのか?」
「ああ、実際に見たのは初めてだけどな。というかこの間のアップデートで実装されたばかりのクラス3ジョブだぞ」
「新しいジョブ……か」
さすがシマン。新しく実装されたジョブまで調べていたようだ。
どおりで俺が知らないわけだ。クラス3ジョブなんてまだ先の話だから、そこまでチェックしていなかったのだ。
ヒナとロキは名称だけは知っていたという反応だった。
シマンによると、【鋼糸】という強靱な糸を武器とし戦う者だそうだ。【鋼糸】は極細で視界に捉えにくく、鋭利な刃物のように切れ味がある。その斬撃をもって射程内に入った敵を斬り刻むのだ。
しかも専用武器の【鋼糸】がモンスターからのドロップでしか手に入らないため、【鋼糸使い】の取得が一層困難になっている原因でもあるらしい。
実装直後のため、ジョブとして有用かどうかはまだ結論が出ていないようだ。
だけど見た目はカッコよかったな。音で表現するならシュバッって感じで、一瞬でファイアウルフ・Eをバラバラにしたんだから。腕を交差する仕草も強者感を醸し出していた。
「あ、竜車に入った」
俺たちの会話が聞こえていたのかいないのか、旅装の客もとい【鋼糸使い】は何事もなかったかのように竜車の中へと戻って行った。
「俺たちも戻るか。もうエニグマ地方には入っているから、町まではすぐだしな」
「あ、やっぱりエニグマ地方だったのか。どうりでサングロー地方とは雰囲気が違うと思ったんだよ」
「そうね。南国風から一転して荒野だものね」
俺たちは<エニグマの町>に向かうべく竜車に戻った。
竜車の中では御者と商人たちが「助かったぁ~」と安堵していた。【鋼糸使い】は一番奥の定位置で座っていた。
「凄いっす! あんなスキル初めて見たっす!」
戦闘に参加しなかった戦士風の男が興奮した様子で【鋼糸使い】に話しかけていた。
「あの武器ドロップ品っすよね! 見せてもらっていいっすか?」
「…………」
「……あのぉ~、【鋼糸】を見たいっす!」
「…………」
「……はん、無視っすか。もしかして、【鋼糸使い】を自慢するために【鋼糸】を使ったんっすか?」
【鋼糸使い】が返事をしないので、戦士風の男は無視されたと腹が立ったのか悪態をつき始めた。
「あの……、そのへんにしておいたらどうかな」
たまりかねた俺は戦士風の男に声をかけた。隣にいたシマンが口を開きかけていたので、俺が言わなければ彼が同じことを言ったに違いない。
「……なんすか?」
戦士風の男は睨みつけるような表情で俺に振り返った。
「誰だって他人にジョブや装備をむやみに詮索されたら嫌だと思うし、逆の立場だったら君もうんざりするだろ?」
「はぁ……。なんだ一番弱そうなあんたにそう言われてもなぁ」
「……ん?」
なんだか……軽く馬鹿にされたな。まぁ、それぐらいで腹を立てることでもないが。
どうやら俺たちの戦い振りを竜車の中から窺っていたようだ。それで俺が一番ファイアウルフ・Eに手間取っていたのを見ていたのだろう。実際に倒した数も俺が一番少ないしな。
「そっちの【精霊騎士】のお姉さんはクラス3ジョブに見合った活躍だったし、【侍】の兄さんも効率的に立ち回ってたっす。【魔法使い】の彼女も範囲魔法でモンスターを蹴散らしていたっすけど、あんたはレベルが低いのか一匹ずつしか戦ってなかったっすね」
「おい、ちょっと待てよ。タイガのレベルが低いとかそんなことより、そっちこそ竜車を守りもせずに中にいただけだろ。そこまで言われる筋合いはねぇぞ」
カチンときたのか、シマンが俺の前に出て戦士風の男と視線を交す。
「……あ、いやそんなつもりで言ったんじゃないっす」
睨みを利かせるシマンにビビったのか、簡単に戦士風の男は引き下がった。そして壁際に戻り腰を下ろす。そのとき目が合ったが俺には鋭い眼差しを向けてきた。
シマンには逆らえないが、弱い俺に注意されたことは納得していないって様子だ。
なんにしても喧嘩なんかのトラブルにならなくてよかった。
俺は【鋼糸使い】のほうを見る。【鋼糸使い】は目の前のことに興味がないとでもいうように、膝を抱えるようにして座っている。フードを目深に被り俯いているので、その表情も読めない。
そのあと御者が近づいて来てお礼を言われた。少ないですがと金銭を提示されたが、タダで竜車に乗せてもらっているので断った。
傍で見ていた戦士風の男はそれが気に入らなかったのか舌打ちをしていたが、俺たちがそれにいちいち反応することはなかった。
それから竜車に揺られること五分。
俺たちは<エニグマの町>に辿り着いた。




