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064 ルスタリオ祭 3

「モンスターが出たぞっ!」


 ドラゴンの手綱を握っていた御者の声で、俺はハッとして顔を上げた。アイテムストレージの整理をしていたのだが、いつの間にか居眠りしていたらしい。


 寝ぼけまなこを擦りつつ声のしたほうへ視線を向ける。ヒナやロキは竜車の幌を捲り上げて顔を外に出している。シマンは御者の肩に手をかけた。


「竜車を止めてくれ。モンスターは俺たちが倒す」


 そう言ったシマンは振り返って俺に視線を送る。俺が頷き返すと、シマンは腰の刀に手をかけながら竜車から飛び降りた。


「ヒナ、ロキ、俺たちも行こう!」


 二人に声をかけて、俺もシマンを追って竜車から飛び出した。後ろからヒナの返事が聞こえたので、すぐに出てくるだろう。


「な……なんだこの数は!?」


 竜車が止まった場所は荒野だった。南国風のサングロー地方とはガラリと雰囲気が変わっていたので、もうエニグマ地方に入っているのかもしれない。

 驚いたのは目の前に広がる光景だ。

 ウルフの群れが立ち塞がっていたのだ。


「百匹はいるぞ! 気をつけろよ、タイガ」


「ひゃ、百!? でも所詮はウルフだろ? 数は多いが俺たちなら問題ないだろう?」


「ウルフはウルフでも、あれはファイアウルフ・Eですね」


 後ろから近づいて来たロキが俺の隣に並ぶ。

 ファイアウルフ、ウルフの上位種で火属性のモンスターだ。情報は知っているが実際に目にするのは初めてだった。


「ファイアウルフ……しかもエヴォリューションのほうか!」


「ファイアウルフ・Eのレベルは25前後よ。少数ならまったく問題ないのだけれど、数が多すぎるわ。囲まれないように注意して!」


 ヒナが剣を抜きながら俺たちに警告する。

 しかし、そうはさせまいという感じでファイアウルフ・Eは左右に展開し始めた。


「タイガくんは私から離れないようにすれば大丈夫よ。ファイアウルフ・Eの攻撃力じゃどうあがいても私にダメージを与えるのは無理だもの。私が盾になるから、タイガくんは無理しないで」


「お、おう。ちなみにファイアウルフ・Eの攻撃力ってどのぐらいなんだ?」


「個体差にもよるけれど、500後半から800ほどね」


 その程度か。レベルどおりってとこだな。

 ヒナの防御力はパーティー随一の2,000越えだ。確かにヒナの言うとおり、ファイアウルフ・Eは彼女に傷一つつけることはできないだろう。例外はクリティカルが発生したときだけだが、それでもダメージは1でかすり傷にもならない。


 一方で俺の防御力は装備が貧相なおかげでたった80しかない。せめて花シリーズの【桔梗の鎧】をゲットできていればと思うが、今後悔しても仕方がない。

 その俺がまともに攻撃を受けると、最大で700以上のダメージを負うことになる。現在の最大HPが5,022なので7回ほど攻撃されれば死んでしまうだろう。

 ヒナはそこまで計算して自分から離れるなと言ったのだ。


「ヒナ、今の俺がファイアウルフ・Eを一撃で倒すことは可能なのか?」


「ええ、タイガくんが装備している【珊瑚の剣】があれば可能よ」


「そっか……あいつは火属性のモンスターだから、水属性の【珊瑚の剣】が有効なのか。確かダメージが50%アップだったな」


「そうよ。だから【珊瑚の剣】があれば通常攻撃でも一撃で倒せるはずよ」


 <サングローの海底神殿>に行っておいてよかった。普通の武器なら《ヘヴィクラッシュ》を使っても一撃で倒せるか微妙だもんな。

 ヒナとシマンに改めて感謝だな。

 そのシマンのほうを見る。


 シマンの防御力は500ほどだったはずだ。なので、シマンでさえ攻撃を受け続けると危ない。最大HPは8,394とパーティーの中では最大で、一度で200ぐらいのダメージを受けると考えると四十回は耐えれる計算だが、なにしろ敵の数が多すぎる。


 そして俺の隣にいるロキは、なんと焦りさえ見せない余裕の表情だ。左手には黒猫の環を抱いている。その環は呑気に欠伸などしていた。


「なぁ、ロキ。環に言って俺にチートバフをかけてもらうってのはどうだ?」


「頼むなら自分で言ってください。もっとも彼女が素直にお願いを聞いてくれるかはわかりませんが」


 彼女……環はメスだったか。

 それよりも、環にチャットメッセージを送ってみよう。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 たまき バフ プリーズ



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 ちゃんと文章を打っている暇はない。簡潔だがこれで意味は伝わるだろう。

 だが、環はプイとそっぽを向いた。


「た、環っ!」


「ぷっ。気分じゃないようですね」


 ロキに鼻で笑われる。


「仕方ない。どうせダメ元だったし、やっぱり自力でいくか」


 ファイアウルフ・Eは円を形成して、俺たちが乗ってきた竜車を中心に囲むようにしている。

 中心からフェイアウルフ・Eまでは三十メートルほどだろうか。

 竜車から出てきたのは俺たち四人と一匹だけだ。商人の二人と戦士風の男も旅装の客も中に籠もったままだ。

 御者も竜車の中に隠れている。


 戦闘向きじゃない商人はともかく、明らかに戦闘職である戦士風の男が出てこないのは意外だった。それに出発時に竜車に跳び乗った身のこなしから、ただ者ではないと思った旅装の客も中から出て来る様子はない。


 仮に俺たちが全滅したら、竜車なんかはひとたまりもないというのに……。

 まぁ俺たちが全滅というのはヒナがいる以上あり得ないんだけど、彼らは俺たちの強さなんて知るはずもないし、心配じゃないんだろうか?


「向こうは襲いかかってくる気配がないが、どうなってるんだ?」


「わからないわ。何かを警戒しているのかしら?」


 ファイアウルフ・Eは唸り声を上げているが、こちらに接近する気配は見せない。


「あっちが動かないなら、こっちから斬り込むか」


 そう言ったシマンの刀がスキル発動にともなう光を纏った。

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