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063 ルスタリオ祭 2

 船に乗り<マリンの町>から<アクアの町>に着いた俺たちは、そのまま町を素通りし街道に出た。

 ここからは街道沿いに真っ直ぐ進むらしい。


「この街道に沿って進むと途中で二つの町があるわ。ここからだと三つ目の町がエニグマ地方の<エニグマの町>よ」


「出現したダンジョンは<エニグマの町>から二キロも離れていないそうです」


 クランメンバーとチャットメッセージを交しているロキは、逐一情報を教えてくれる。

 クラン内でやり取りしている情報を同じパーティーとはいえクラン外メンバーの俺たちに教えていいのか気になったが、このぐらいの内容は問題ないらしい。


「さすがに内密の情報までは話しませんよ」


「だよな」


 まずは次の町を徒歩で目指す。<アクアの町>には馬車や竜車がないので、それらに乗車するには次の町へ行かないといけないのだ。


 道中でモンスターに遭遇するが、無駄に足を止めたくないオーラがバシバシ出ているシマンを筆頭にヒナやロキが率先して倒してくれる。

 いやぁ、レベル的には俺でも勝てるモンスターなんだが、高レベルの三人が戦うことで一切立ち止まることなく進める。

 最後尾を早足で歩く俺はこれでいいのだろうか……。




 二時間ほどで町に辿り着いた俺たちは、さっそく竜車の停留所へ向かう。

 幸いなことに順番待ちの列はなかったので、すぐに乗れそうだ。竜車に乗れなければ、速度の落ちる馬車で行こうと考えていたが杞憂だったようだ。


 俺のように未だにエニグマ地方に辿り着いていなくて、急いで向かいたいプレイヤーは少ないのだろうか。

 でも考えて見ると、謎のダンジョン出現の情報を入手するプレイヤーはエニグマ地方以降に到達しているほうが多いのか。

 だったら彼らはゲートを利用して移動するほうが早いからそうするか。


 シマンが先頭で駆け出して、ヒナが俺に振り返った。


「すぐに竜車に乗車できそうよ。ほら、タイガくん、行きましょ」


「ああ」


 俺はヒナとロキに続いて竜車に乗り込んだ。

 竜車とは文字どおり竜――小型のドラゴン――が引く車だ。車には大きく幅の広い車輪が左右合わせて六つ取り付けられている。

 ドラゴンのサイズはゾウぐらいの大きさだ。ドラゴン種の中では気性は穏やかで、人間にも扱いやすいという。


 竜車の中は十人ほどが座れるスペースがあった。床に直接座る形式のようだ。俺はみんなと同じように開いている場所に腰を下ろした。

 俺たち四人と一匹の他には、三人の乗客がいた。うち二人は仲間のようで、商人のような恰好をしている。見た目からはプレイヤーかNPCかは判断できない。

 もう一人は鎧を纏った戦士風の青年だった。


 二人いる竜車の御者が「出発するぞー」と合図をする。

 ガタンと竜車が揺れて動き出す。

 そのとき、竜車入口が開いて新たな客が跳び乗ってきた。


「おわっ! びっくりしたー!」


 シマンが大袈裟に声を上げる。俺も少し驚いていた。

 竜車が動き出してから入って来た客は旅装に包まれていた。首から下はマントに覆われていて、フードを目深に被っているため顔も見えない。僅かに顎がチラチラと見える程度だ。


 旅装の客はシマンに向かって軽く会釈する。驚かせてすまないとでも言ったところか。

 そのまま俺たちを通り過ぎて開いている場所に腰を落ち着けた。


「なんか映画のワンシーンみたいだったな」


 俺は隣のシマンに小声で言った。


「そうだな。というか、走り出した竜車に乗れるって初めて知ったぞ」


「そうなのか? おまえなら試したことありそうだと思ったんだけど」


「んなもん試すかよ。普通、馬車や竜車が走り出すのが見えたら『間に合わなかった~!』って諦めて次の便を待つだろ」


「確かにな」


「でも、ギリギリに跳び乗るってなんか恰好よかったから、俺も今度やってみようかな」


「それ一人のときにしてくださいね。知り合いだと思われるのが恥ずかしいので」


 ロキが嫌そうな顔で言ったので、俺とヒナは同時に吹き出してしまった。


「ところで、どのぐらいで次の町に着くんだ?」


「徒歩ならさっきのペースで進んでも<エニグマの町>まで三時間はかかるはずよ。竜車なら一時間もかからないと思うわ」


「そんなに早く着くのか。本当にタダで乗れてよかったよ」


 乗り心地もそんなに悪くない。地面の起伏に沿って車体が上下に揺れるが、竜車の床にはマットのようなものが敷かれているので、ケツが痛くなることもない。


 ヒナとロキは何やら楽しく会話をしている。隣のシマンはメニュー画面を開いて、忙しなく操作をしている。アイテムの整理か、スキルの確認でもしているのだろう。

 俺もアイテムストレージ内の整理でもして時間を潰そうかと考えていると、旅装の客もシマンと同じようにメニュー画面を操作しているのが目に入った。


 普段なら何も気になることはなかっただろう。

 だが俺の視線は、メニュー画面を操作している右手を追っていた。

 その右手の甲には何かの模様が刻まれていたのだ。


 なんの模様だろう。瞳のようなマークだ。手の甲に瞳が一つ描かれていた。

 タトゥーかペイントだろうか。タトゥーは九十日、ペイントは一日絵柄が保つと前にヒナが教えてくれていたな。


 瞳と言えば、俺は<サングローの海底神殿>で見た眼球や、<ポルカの町>で感じた視線を思い出した。

 瞳のタトゥーとは無関係なのだろうが、気になってまじまじと眺めてしまった。

 相変わらず旅装の客の顔は目深に被ったフードのため窺い知ることはできない。今も微かに顎が見えるぐらいだ。男か女かも判断できない。


「……えっ」


 一瞬、口元まで見えて笑っていたように見えた。

 しかし、もうフードで隠れて確認のしようがない。

 なんだ……?


 しばらく眺めていたが、そのうち操作をやめて旅装の客は膝に顔をうずめて休息を取るかのような姿勢になった。

 それを機に俺も視線を外し、アイテムストレージの整理を始めるのだった。

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