062 ルスタリオ祭 1
「「「「四! 三――」」」」
周りの声に合わせて、俺たちも声を揃えてカウントダウンを始める。
「「「「ゼロ!」」」」
『ルスタリオ暦2436年 1月1日 午前0:00』
日付が変わると同時に港の上空に大きな花火が上がる。空気が振動するように、爆発音が辺りに響き渡る。
まるで本物の花火大会の会場にいるような臨場感だ。
「これは……絶景だな」
思わず漏れる。現実と遜色のないクオリティで再現されている花火に、俺たちはしばし言葉を失った。
我に返ったのは、十発ほどの花火が上がった直後だった。
「えっ、エニグマに……!?」
ロキがメニュー画面を操作しながら驚いた表情をしている。誰かからチャットメッセージが届いていたようだ。
「ロキちゃん、どうしたの?」
ヒナが首を傾げてロキに訊ねる。
「あっ……、同じクランに所属するパーティーからメッセージが届いたんですが、エニグマに謎のダンジョンが出現したそうです」
「マジか! 限定イベントきたーっ!」
割って入ったのはシマンだ。これがルスサイ限定のイベントかと、待ってましたとばかりに興奮している。
ロキの話では、このサングロー地方の先にあるエニグマ地方に突如としてダンジョンが出現したらしい。今まで何もなかった荒野に突然だ。
<エニグマの町>で<DO>の新年を迎えたプレイヤーたちが、カウントダウンのときを待っていたところ、轟音が鳴り響いたそうだ。直後、花火が上がったが、それどころではなかったらしい。
「イベントだ、イベントだ! さぁ、俺たちも行こうぜ!」
「すみませんが、クランの招集がかかったので私はそっちに向かいます」
「なんだよ、だったら一緒に行こうぜ。俺たちもどうせ行くし」
シマンが言うが、ロキは視線を俺に移動した。
もちろん、ロキが言いたいことはわかっている。
「ごめん、俺はゲートでエニグマ地方以降には行けないから、もし行くんなら俺抜きで行ってもらって大丈夫だから……」
せっかくの限定イベントを俺のせいで潰すのは忍びない。みんなには楽しんでもらいたい。それに現実世界では三ヶ月に一度と、そう長いタームでもないし、また次回があるだろうからな。
「なぁに言ってんだよ。一緒に行くに決まってんだろ」
「えっ、でも俺はゲートで先の地方へは行けないし……」
「ああ、だったら正規ルートでエニグマ入りすればいい。な、ヒナちゃん?」
そう言ってシマンがヒナに顔を向ける。
「ここからだとエニグマ地方までは町を三つ経由するのが最短ルートよ。距離で言うと三十キロほどね」
「三十キロ……。いや、それは……。スムーズに進んでも六時間ぐらいはかかるんじゃないのか?」
俺以外の面子はこの<マリンの町>にあるゲートを使えば、一気に<エニグマの町>まで移動できる。
時間にして五分から十分もあれば移動可能だ。だけど、俺と一緒に行くことで六時間はロスする計算になる。
「私やシマンくん、それにロキちゃんがいれば道中は立ち止まらずにモンスターを蹴散らせることができるわ」
ロキのほうに目をやると「うっ……」という声を漏らしていた。この様子だとクランの仲間と合流するべくゲートに向かう気だったに違いない。
というかロキは悪くない。
しかし、ヒナに言われると断りづらいのか、ロキは否定の意見を述べなかった。
「……わかりました。ヒナさんがそう言うなら、私もみなさんに同行します」
「えっ、いいのか?」
「ええ、クランからの招集は強制ではありませんので、不参加の連絡を入れておけば問題はありません」
ヒナやシマンはともかく、ロキまで俺に付き合ってくれるという。
「よっしゃ、そうと決まれば善は急げだ! さっそく、運河を越えるぜ!」
シマンは対岸に見える町を指さした。目の前の川を挟んだそこには<マリンの町>と同じような港町が見える。
そこへ行くには船に乗らないといけない。しかも、事前に調べた情報だと船賃は10,000Gもかかるのだ。
ここでの支払いもお金を貯めている俺にとってはネックだった。<マリンの町>に来たときに、さも当然のようにシマンが「こういう失費も考えてたからカジノへ誘ったんだぞ」などと調子のいいことを言っていたのを思い出す。
「タイガ、大丈夫だ。金の心配は不要だぞ」
「えっ……?」
「ルスサイは<DO>でも特別な一日だ。今日だけは船などの公共交通機関はもとより、馬車や竜車なんかも無料となる。つまり向こう岸へ渡る船にタダで乗れるし、竜車に空きがあれば大幅に時間を短縮できるんだ!」
「えっ、本当か!?」
「おうよ!」
シマンは自分で言ってテンションが上がってきたのか、俺の首に手を回してガッチリとホールドしてくる。
「痛い痛い、痛くないけど痛いから」
それにしても、船や竜車にタダで乗れるとは驚きだ。竜車にしたって五十キロで10,000Gを下らないぐらいの乗車賃だったはずだ。
シマンの興奮も頷ける。乗るなら今日しかない。
俺たちは港へ向かいタダで船に乗り、対岸の町へと渡った。




