059 キャラクタークリエイト 裏
――時は現実時間で一ヶ月前に遡る。
<DO>内では七月三日、午前四時の出来事だ。
「私は女神イリス。ようこそ、<Daydream Online>の世界へ」
「うるせぇよ。なんだ、ここは?」
「あら、初めてではないでしょう?」
「そんなことを言ってるんじゃねぇ! なんで俺がまだ<DO>にログインできてんだってことだッ! しかも、なんだぁ? ここはキャラクリエイトの場所じゃねぇか」
「はい。ここでは簡単な設定と、この世界で貴方自身となるキャラクターをクリエイトします」
「質問に答えろ。なんなんだこの茶番は?」
「はい。まず最初に出自を決めます」
「おい! 無視すんじゃ……!」
女神イリスは頷いて右腕を肩の高さまで上げると、その腕を伸ばして手を広げた。その手が光った瞬間、男の目の前にウィンドウが現れて出自の内容を示す文字が表示された。
文字は常に目まぐるしく変化している。
「お好きなタイミングで止めてください」
「ちっ」
男は苛立った様子を見せながらも、目まぐるしく変化する出自にゆっくりと手を伸ばしタップする。
出自が一つずつ切り替わる。やがて、表示は固定された。
『出自:平民』
「決まりました。貴方の出自は平民です」
「……いい加減に答えろや。俺は五度死んだ。<DO>から永久退場だ。違うのか?」
「これで貴方はこの世界に再び生を受けました。次に種族を決めます」
「あん? なんだって?」
男は耳を疑った。
「五度の死を迎えた際、特別な条件を満たした貴方には、次の四種類の種族を選べます」
「おい……これは!?」
提示された種族は動物、モンスター、魔神、神の四種類だ。
四種族の男女合わせて八つのキャラクターが表示されている。それは猫、ゴブリン、筋骨隆々な鬼のような姿、目の前の女神のような風貌。
「おい、マジか? くっくっく……ははははははッ!」
男は感極まったのか天を仰いで豪快に笑い出した。
「まさか、こんな裏モードがあったなんてなッ! こいつは最高じゃねぇか!」
「お気に召していただけたようで幸いです。さぁ、どの種族にしますか?」
「説明ぐらいしろや。どれも、なかなか魅力的な種族じゃねぇか」
「動物は……そうですね。【使い魔】というレアな職業に就くことができます。支援専門ですがプレイヤーに同行し、強力な魔法やスキルでその補助をします。モンスターは言わずもがな、プレイヤーと敵対する存在です。表示はゴブリンですが、他のモンスターも選択可能です。モンスターはプレイヤーにない様々なスキルを有していますし、特性として他のモンスターのスキルを覚えることができます。ですので極端な話、最強のゴブリンを目指すこともできます。魔神はボス級のモンスターと考えてください。ボス級だけあって非常に強力ですが、モンスターにあったスキルを覚える特性はありません。最後に神ですが、女性なら私のような女神に、男性なら男神になれます」
「ステータスを見せろ。外見なんぞどうでもいい」
「はい。では、こちらがそれぞれの種族の補正値とステータスです」
「支援専門の動物なんか論外だぜ。………………ほう、魔神と神はかなり強いな。ゲームバランスぶっ壊れてるんじゃねぇのか?」
「いえいえ、ご心配なく。ちゃんとバランスは取れていますよ」
「じゃあ、神だ。この力でプレイヤーを全員ぶっ殺してやるぜ」
「残念ですが、現在の環境では神は下界に直接干渉はできないのです」
「あぁ? それはどういうこった? じゃあ、神は何をすればいいんだよ?」
「そうですね。神に与えられた役割は、私のようにキャラクタークリエイトをしたり、手が空いたときは下界を俯瞰して眺めることぐらいです」
「はぁああああ?」
神に与えられた役割とは運営側に近いものであった。
新規プレイヤーのキャラクタークリエイトや、時折下界を眺めてほくそ笑む。
男には苦痛に思えた。
「アホか。なら、魔神だ」
「わかりました。貴方の種族は魔神に決定です」
「次は名前を決めます。お好きな名前をどうぞ」
文字数は十文字まで。初回ログイン時と同じ仕様であったが、男は迷わず即答した。
「ザックス」
「あら、前と同じでよろしいのですか?」
「あぁ? 悪いのか?」
「いえいえ、構いませんよ。それではアバターの造形に入ります」
「前と同じにしろ。無理なら獣人ベースで適当に作る」
獣人ではないので以前のザックスを再現するには至らなかったが、百獣の王ライオンに似せた風貌の魔神が造形される。
「他に質問がなければ、これでキャラクタークリエイトは完了です」
「問題ない。……いや、ちょっと待て。デスペナはどうなってる? 五度死んでもまたこれを繰り返せるのか?」
「それはありません。次こそ永久退場です。そもそも、五度の死で永久退場になるところを、貴方は特別な条件を満たしたため、ここへ来ただけなのです」
「その条件ってのはなんだ?」
「秘密です」
「ちっ」
「それとくれぐれもここでのことはご内密にお願いします。外部にこの情報を漏らした場合、貴方のアカウントは即座に消去させてもらいます」
「わかった。じゃあ、ゲームを始めるぜ」
女神イリスがこくりと頷いた途端、足下から俺を取り囲むように円柱状の光が放出された。
ザックスにとっては二度目の経験。
「それでは<Daydream Online>をお楽しみください」
「ああ、俺様の虐殺を鑑賞してやがれ」
ザックスは中指を立てる。
それを見て女神イリスは苦笑する。
「それでは、貴方の夢に幸あらんことを」
ザックスの体は光に包まれた。
【殺戮者】ザックス、リスタート!




