055 俺たちはクエストをしているだけです
「イカサマだー!」
誰かが叫んだ。
俺たちがいたテーブルは一気に注目を浴びる。周囲の視線は俺と腕を掴まれている男に向けられた。
「て、てめぇ!」
男の背後にいた五人の仲間が狼狽えた様子で言った。
俺の横からシマンが一歩踏み出して、イカサマ集団に顔を近づけた。
「ここで暴れる気か? だとしたら俺は全力で阻止するぜ?」
シマンは頭上の簡易ステータスを公開状態にした。そこにはレベル48としっかり刻まれている。
それを目にしたイカサマ集団は、観念したのかガクリと膝をついた。この反応から彼らのレベルがシマンより下だと判断できる。実力行使では敵わないと、向こうも判断したようだ。
店の誰かが連絡したのだろう。すぐに自警団が駆けつけてイカサマ集団を捕縛し連行していった。
「いやぁ、本当に助かりました。まさかイカサマの現場を取り押さえていただけるなんて、思いもしませんでした」
モスさんが俺の手を握って頭を下げた。
「あの……店は大丈夫ですか?」
イカサマ集団の逮捕に店内が騒然としていたので、まずはそっちを優先してもらうことにする。
言われたモスさんはハッとしてから頭をかき、すぐさま部下に指示を飛ばして場の収拾に奔走する。
残された俺たちは状況が落ち着くまで待つことにする。
「なんとか解決してよかった。咄嗟に相手の腕を掴んだけど、その先は何も考えてなかったからな。助かったよシマン」
「えっ……考えなしだったのかよ? てっきり、あいつらのレベルがたいしたことないってわかって行動したのかと思ったぞ?」
「そこまで考えてなかったよ。シマンが自分の簡易ステータスを晒したときの反応でやっと気づいたぐらいだからな」
「おいおい、マジか?」
シマンは呆れていた。てっきり俺がそこまで読んで行動したと思っていたようだ。さすが、【向こう見ずな男】だなと言われてしまう。
俺は気づかなかったが、シマンはイカサマ集団のレベルが低いことは見抜いていたそうだ。
「まず、ディーラーや周囲の目がありながら堂々とイカサマを可能とするスピードから、やつらのレベルは最低でも25から30ぐらいだと想像がついた」
「ああ、それは俺もわかってた。でもシマンより下かどうかなんてわからないだろ?」
俺が訊くと、シマンは腰の刀に手をかけて抜く素振りを見せた。
「お、おい! 店の中で何してるんだよ!」
慌てて止めつつ周囲を確認するが、幸い辺りにいる人たちには気づかれていないようだった。
ホッと息を吐く俺を見て、シマンはニヤリと笑う。
「今この場で俺の動きを追えたのはタイガだけだ。意味がわかるか?」
「えっ……?」
それは単純に店内にいる人たちとシマンのレベル差だろう。だが俺とシマンのレベル差は8だ。したがって動きを視界に捉えることぐらいはできる。
「察しが悪いな。つまり、俺はイカサマ連中をあえて睨みつけながら今の行動をしたんだよ」
「あ……まさか……!」
「やつらは俺より10以上レベルが低いから俺の動きが見えなかった。もし見えていたら一触即発の場面だったろうよ」
「……な、なるほど。それでシマンはやつらのレベルが48より10以上低いと判断したのか」
「まぁな。最後は念押しでステータス公開して諦めさせたってわけよ。抵抗しても無駄だぞってな」
「そうだったのか。まぁ、なんにせよ解決してよかったよ」
シマンと話していると、そこへモスさんがやって来た。
店内の雰囲気は元の状態に戻ったようだ。
モスさんは何度も俺たちに頭を下げて礼を述べた。
「ありがとうございます! 冒険者ギルドに預けてある報酬とは別に、私からも心ばかりですがこちらをお渡しさせていただきます」
モスさんが合図すると部下のスタッフが飛んできた。手にしたトレイにはチップが積まれている。
すべて黄色のチップで、百枚ぐらいはあるように見えた。
「シマン、黄色のチップっていくらだっけ……?」
「せ……1,000Gだ」
「少ないですが、ぜひ受け取ってください。百枚ずつ用意させていただきました。そのまま換金していただくもよし、ここで遊んでいただくのもよし、自由に使ってください」
モスさんがにこやかに言う。
1,000Gのチップが百枚……つまり100,000G分だ。それが俺とシマンに手渡された。
チップが入ったトレイを持ったまま立ち尽くす俺たちに一礼すると、モスさんは部下をつれてその場をあとにした。
「タイガ、これ……どうする?」
「どうするって……どうしよう?」
「100,000Gものチップがあるんだぜ? クエストの報酬として遊んでいいよな? な?」
「俺に確認して巻き込もうとするなよ。おまえが自分のチップをどう使おうと自由だし」
「だよな。わかった、じゃあ一旦ここで解散しよう。二時間後にここに集合だ」
そう言ってシマンはルーレットのテーブルに向かっていった。
俺も俺で何もしないで待つのは退屈だったので、ポーカーのテーブルでゲームに参加していた。
だが、二時間も待つことはなかった。三十分もしないうちに100,000Gものチップを使い切ったシマンが肩を落として戻ってきたのだ。
「タイガ……チップ30,000G貸してくれないか?」
「え……」
俺にはまだ95,000Gものチップが残っている。シマンに貸してやることもできるが、彼の様子からするとギャンブルにのめり込むタイプのようだ。これはシマンのためにならないだろう。
可哀想だがシマンの要求は断ろう。こいつのためでもある。
「タイガ~!」
そう思ったのだが、シマンが泣きそうな顔で俺の腕にしがみついてくる。周りからはクスクスと失笑が聞こえる。恥ずかしくなった俺は30,000G貸してやった。
喜んだシマンは「倍にして返すぜ!」と意気揚々にブラックジャックのテーブルへ向かって行った。
しかし、そう上手くいくはずもなく、三度同じことを繰り返す。
「タイガ~! 1,000G貸してくれ! 次こそツキが回って来そうなんだよ!」
「……いや、もう90,000G渡したんだぞ。それに俺もちょうどチップを使い切ったところだ」
「そ、そんなぁ~!」
ったく、俺が泣きたいよ。
モスさんに追加報酬としてもらったチップは俺が10,000G使って、シマンは俺の分と合わせて190,000Gすべて溶かしてしまった。
「タイガ、今日のことはヒナちゃんには内緒な」
「……もちろん」
俺たちは揃って深いため息を吐き、肩を落としてカジノをあとにした。




