054 イカサマ集団
別室に通された俺たちは、五番カジノのオーナーであるモスさんと対面していた。
ここはオーナー室だそうだ。高価そうな調度品が並んでいる。俺とシマンは緊張の面持ちでソファに座っている。
向かい側に座っているモスさんは部下の人に飲み物を持って来させると、俺たちに勧めてくれた。
コップに注がれたコーヒーを俺が一口飲むと、モスさんは話を切り出した。
「プロである私たちがイカサマを見抜けないとは情けない限りです。なので、私たちより目が確かな冒険者の方々にお願いしたのです」
モスさんの話をまとめるとこうだ。
二週間ほど前から五番カジノの各店でイカサマの疑いが持たれている者が出没しだしたという。しかし、決定的な証拠は掴めていないらしく、こちらをあざ笑うかのように荒稼ぎを繰り返しているという。
「単にギャンブルに強かった……とかいう話ではないんですか?」
「私も最初はそう思いました。しかし、日が経つにつれヤツらは仲間を増やし、勝ちを重ねていきました。何かしらのイカサマをしているのは確かなんですが上手くやっているようで、現場を押さえられない私どもは為す術もないのです」
モスさんは頭を抱えて左右に振る。
イカサマ集団は全員で十人ほどのグループだそうだ。年齢は様々で十代から五十代までと幅広い。<DO>にはギャンブルに年齢制限は存在しないので、十代の少年がいてもおかしくはない。
身なりも種族もてんでバラバラで、中には冒険者の姿もあったという。
しかも、イカサマ集団のうちの一人は、元々この五番カジノでディーラーをしていた男らしい。勤務態度が悪くクビにされたのを逆恨みしているのだろうとモスさんは言う。そして、今その男は競合店である六番カジノで働いているそうだ。
「六番カジノで?」
隣でシマンが怪訝な顔をして顎に手をやった。
オーナーのモスさんの話は辻褄があっている。五番カジノをクビになった男が嫌がらせをしている。それが自分の復讐のためなのか、新たな勤務先である六番カジノの指示かどうかはわからない。
しかし、六番カジノか……。確か六番カジノ以降のオーナーはプレイヤーかもって話だったな。
なんだかきな臭いことになってきたぞ。
あとは……モスさんを疑うわけじゃないが、他の人の話も聞きたいな。
俺たちはモスさんの許可を得て、スタッフに聞き込みを始めた。同時に、イカサマ集団のうちの一人が来店していたので警戒も怠らない。
男の風貌は二十代半ばぐらいの一般人だ。冒険者でもなく観光客っぽくもないので、身なりからして普通にこの町の住人だと判断する。
今はおかしな動きは見受けられない。おとなしくポーカーに興じている。
聞き込みと言っても、さすがにディーラーなどテーブルでゲームを仕切っているスタッフに声をかけることはできないので、フロアですれ違う者だけに限定している。
すでに五人から話を聞いたが、モスさんの証言と一致している。特に口裏を合わせたとか、そんな風には微塵も感じられない。
「あの……どんな感じでしょうか?」
フロアを巡回していたモスさんがやって来た。
「今のところ、おかしな動きはないですね。ポーカーで細かい勝ちを重ねているようですが、イカサマではないと思いますよ」
「そうですか……」
この店ではお金をチップに交換することで、各テーブルで行われているゲーム参加することができる。
チップは金額に応じて色分けされている。
青…1G
赤…5G
緑…25G
黒…100G
紫…500G
黄…1,000G
茶…5,000G
橙…25,000G
男は紫色のチップ20枚――つまり10,000G分だ――からスタートして、一時間で大体50,000Gまで増やしている。途中、何度か負けを挟んでいるがトータルでチップを五倍にしていた。
俺やシマンが見たところ男にイカサマをしているような動きは見受けられない。
しかし、直後にピリついた空気を感じた。
男がポーカーをしているテーブルに五人の男が集まってきたのだ。
「ヤツの仲間です」
モスさんが耳打ちしてくれる。
イカサマ集団が一気に六人に増えた。何かを仕掛けてくるのだろうか。
そのとき、警戒していた男が妙な動きを見せた。
「タイガ、今の見えたか?」
「ああ。ちゃんと見た」
俺はモスさんのほうへ視線を送り、同じものが見えたか確認する。だが、モスさんは申し訳なさそうに首を横に振った。
モスさんには見えていない。
だが、俺とシマンには見えていた。あの男は今まさに、イカサマをしたのだ。
男は特殊な技能を使ったわけでもなく、ましてやスキルではない。ただの素早い動きだ。
周りに気づかれないスピードで、手元のカードと服の内側に隠し持っていたカードをすり替えたのだ。
モスさんのレベルは15という話だ。俺の40やシマンの48には遠く及ばない。おそらくこの店のスタッフも冒険者じゃないことから、レベルは低いと思われた。
イカサマ集団はそこを突いて単純に周りが把握できないスピードでイカサマを繰り返していたのだろう。
このことからイカサマ集団――少なくともポーカーをしている男――のレベルは35を越えているだろう。
レベル差が10ぐらいなら、正確には捉えられないにしても不審な動きには気づけたはずだ。
これが20も差がつくと、相手が何をしているのか把握は難しいだろう。
俺とシマンは顔を見合わせて頷くと、ゆっくりとテーブルに近づいていく。
俺たちが五番カジノのオーナーであるモスさんと一緒にいることで、ヤツらも警戒はしているはずだ。
しかし、何もできないとでも思っているのか、イカサマ集団は不敵に笑うと睨めつけるような視線を送ってきた。
次の勝負が始まり、男がまたイカサマをしようと懐に手を入れた。
その瞬間――
「そこまでだ。しっかり見えてるぞ」
俺は男の右手首を掴んでいた。
男は目を大きく見開いた。そして、その手から一枚のカードがこぼれ落ちた。




