051 サングローの海底神殿 6
「わぁ……! すごい綺麗ね! まるで水族館みたいだわ!」
辿り着いたのはさっきと同じぐらいの広い部屋だった。いや、部屋と言っていいのだろうか。ドーム状に展開される透明の膜、その外側は海底だった。床以外のどの方向を見回しても深海を泳ぐ魚の群れが見える。泳ぐ魚の種類も大小様々だ。
ヒナが言うようにそこはまさしく、水族館のようだった。
「海底神殿の最後にこんなご褒美があったなんてな。レベルは上がらなかったけど、なんか辿り着いた達成感をしみじみ感じるなぁ。あまり活躍できなかった俺が言うことじゃないんだけどさ」
「タイガ、マップを開いてみろよ」
「えっ、なんで?」
シマンの意図がわからないまま、渋々マップを開く。すると『<サングローの海底神殿>地下五階 宝物庫』となっている。
「……宝物庫?」
「そうだ、ダンジョンの奥にはお宝があるのが相場だって言ったろ?」
シマンが二箇所を指さした。周りの光景が圧巻過ぎて気づかなかったが、そこには宝箱らしい箱が置かれていた。
俺たちは宝箱に近づいて行く。それは銀色に輝く宝箱だった。シマンが開けて見ろと言うのでそのとおりにする。
「おおっ……!」
宝箱自体に鍵はかかっていなく、すんなり開けることができた。驚いたのはその中身だった。俺たちプレイヤーが所持しているアイテムストレージのような空間が渦巻いていた。中には真珠のような珠が見えた。しかしその大きさは野球の硬式球ぐらいある。
「おっ、銀箱だけあってレアなアイテムが入っているな」
俺の背後から覗き込んでいたシマンが言う。
「レアアイテム? ……銀箱って?」
「宝箱には三種類あって、いいものから順に金箱、銀箱、銅箱なんて呼ばれてるんだ。銅箱には店売りされているようなアイテムや装備品が、銀箱にはちょっと先に進まないと手に入らない装備品やレアなアイテムが入っている。そして、金箱には超レアなアイテムか装備品が入っている……らしい」
「らしい……って?」
「はっはっは、実は金箱だけはこの目で見たことがない」
金、銀、銅か。まるでメダルみたいだな。まぁ、覚えやすいしいいか。
銀箱と銅箱は中身がランダムで、同じダンジョンの同じ場所で発見されたとしても中身は違うらしい。
一方で金箱は中身は固定のようだ。
「タイガくん、アイテムが見えたなら名称も表示されているはずよ。何が書いてあるのか教えてくれる?」
「ああ、えっと……【生命の宝珠】って書いてある」
……どこかで聞いたことのあるアイテムだな。はて、どこだったか……。
「えっ、本当!?」
ヒナは驚いている。よほどレアなアイテムなんだろう。
そして確認の意味も込めてだろう、シマンのほうを見る。すると、シマンは頷いた。
「本当だよ、ヒナちゃん。マジで【生命の宝珠】だ。このレベルのダンジョンにしちゃ破格の報酬だよ」
思い出した。確かPK野郎のザックスが狙ったプレイヤーを何度も蘇生させてPKすると言っていた。そうか、これが【生命の宝珠】か。
【生命の宝珠とは死者を蘇生する貴重なアイテムのようだ。死亡後の四分間の蘇生時間内に使用すると対象者を復活させることができる。もちろん、死のカウントはされるのでデスペナからは逃れることはできない。
それでもレアアイテムと言われるだけあって、入手手段は限られるし重宝されるアイテムらしい。
ちなみにヒナもシマンも一つも所持していない。
俺は宝箱から【生命の宝珠】を取り出した。すると、宝箱はすっと消えていった。
「あっ、消えた」
<DO>の発売当初、宝箱の仕様が金、銀、銅に分かれていることから、空になった宝箱を売ればお金になるんじゃないかと考えた者も少なからずいたようだ。だが実際には中身を取り出した時点で自動で消滅する仕様になっている。
手に入れた【生命の宝珠】は、相談した結果ヒナのアイテムストレージに収納することになった。
一番死にやすい俺が持っていても使えないしな。
「じゃあ、メインディッシュをいただくか!」
シマンが顎で示したもう一つの宝箱は、まばゆいばかりに金色に輝いていた。
俺たちは金箱の前にやって来た。ヒナとシマンが開けていいと言うので、俺が開けることになる。
シマンでさえ初めて見るという金箱にはいったい何が入っているのか。
両手を添えゆっくり蓋を持ち上げると、中の異空間に見えたのは淡いピンク色をした珊瑚の一部だった。
「……【珊瑚】?」
表示されているアイテム名も、見た目どおり【珊瑚】だ。
「マジか」と驚いているのはシマンだった。ヒナはその様子から金箱の中身を知っていたようだった。攻略サイトで見ていたのだろう。
「【珊瑚】は特殊な武器を作るために必要な加工素材よ。きっとタイガくんの役に立つと思うの」
「俺の役に……?」
「ははん、そういうことか。ヒナちゃんが海底神殿に来たがったわけがこれか。未だ花シリーズの【菫の剣】をドロップできないタイガのために、確実に同等の武器を入手できるこの<サングローの海底神殿>を選んだってわけだな」
「そ、そうだったのか」
ヒナははにかみながら頷いた。
「それはタイガくんが受け取って」
素材アイテム【珊瑚】を使って、【珊瑚の剣】という武器を作ることができるそうだ。
<ヌオン平原>のステゴサウルスがドロップする花シリーズと呼ばれる【菫の剣】と比べても遜色ない攻撃力を誇る。
強化はできないが無凸状態の【菫の剣】と同じ攻撃力+300で、必要STRは20多い120に設定されている。おまけに水属性が付与されているので、火属性のモンスターには絶大な威力が期待できるらしい。
未だに店売りの装備に甘んじている俺に、ヒナが気を遣ってくれたのだろう。
しかし以前、俺はヒナが譲ってくれるとしていた【菫の剣+2】を丁重に断っている。
<ハリザラ山>で山賊やザックスと戦ったときは一時的に拝借したが、そのあとちゃんと返している。
「いや……俺がもらっていいのか?」
「私には【精霊の剣】があるもの」
「【侍】や【剣豪】は刀系しか装備できないからな。タイガがもらうのが妥当だろう」
「それにダンジョンボスであるウンディーネを倒せたんだから、タイガくんも受け取る資格はあるはずよ」
二人に背中を押される形で、俺は金箱から【珊瑚】を取り出した。




