050 サングローの海底神殿 5
長い通路を抜けると、また透明の膜があった。その先は魚が泳いでいることから水中だとわかる。
【空気の実】を口に入れると、俺たちは膜を通過して先へ進んだ。
辿り着いたのは広い部屋だった。
マップには『<サングローの海底神殿>地下五階 最奥』と表示されている。
このダンジョンの最深部だった。
「最奥と表示されているってことは……あれがこのダンジョンのボスなのか?」
十メートルほど先、部屋の奥には小さな何かが飛び交っている。目を凝らすとそれが少女の姿をしているとわかる。手のひらぐらいのサイズだろう。水で形成されていているので半透明だった。
「ええ、そうよ。十体いるわ」
ヒナが言うとおり、数えると十体いた。それぞれの個体の上に『ウンディーネ』と表示されている。
そういえば、ボスの名前はウンディーネだとヒナが言っていたな。
「ウンディーネと言えば、ヒナの【精霊騎士】のスキルに《エレメンタルソード・ウンディーネ》ってあったよな? 何か関係があるのか?」
「もちろん、目の前のウンディーネに関係あるわ。【精霊騎士】のスキルは精霊の力を武器に宿して戦うの。火の精霊サラマンダーや、風の精霊シルフなんかがそうね。《エレメンタルソード・ウンディーネ》は水の精霊ウンディーネの力を借りて戦うスキルだから、今は使えないわね」
「えっ、どうして?」
「ウンディーネが仲間のウンディーネと私、どちらに味方をするかと言えば当然前者になるわ。だから、この場では《エレメンタルソード・ウンディーネ》は使えないと思ったほうがいいわね。それに相性でいうなら、水の精霊ウンディーネに対抗するなら地の精霊ノームね」
ヒナが説明を終えたところで、シマンが俺の肩に手を置いた。
「よし、じゃあ配分は五、四、一でいくか」
「そうね。相性の関係もあるから、私はそれで構わないわ」
シマンが言った配分とは、十体のウンディーネに対して俺たちがそれぞれ何体を受け持つかという数だ。
ウンディーネに対しての有利属性での攻撃手段を持つヒナが五体、シマンが四体、そして俺が一体を受け持つというシマンの提案だ。
「わかった。それでいこう」
これまでの流れからしても、俺に反対意見を言えるだけの実績はないので従うことにする。
この距離ではウンディーネはまだ襲いかかってこない。
どのぐらいの強さかはわからないが、ヒナやシマンが一人で倒すと言わないあたり、ちょっと手強そうな感じがする。
見た目自体は可愛らしいものだが、油断はできないということだ。
「じゃあ、行くわよ!」
「ああ!」
「おっしゃ!」
三人が走り出す。
最初にウンディーネと接触したのはヒナだ。
「《エレメンタルソード・ノーム》ッ!」
ヒナがスキル名を発声すると、地の精霊ノーム――手のひらサイズで粘土でできたドワーフみたい――が現れて、彼女の剣を覆うように土でコーティングしていく。
弱点である地属性の《エレメンタルソード・ノーム》を撃ち込まれたウンディーネは霧散し、HPバーは一撃で0になった。
「レベル38! タイガくんなら勝てるわ!」
ウンディーネを倒したことでレベルとHPを可視化できるようになったヒナが、俺に向けて安心しろと告げる。
レベル38ということは俺より格下だ。推奨レベル35のダンジョンボスにしては妥当なのだろうが、今の俺なら油断さえしなければ大丈夫だとヒナも思ったのだろう。
「わかった!」
俺の返事と同時に、ヒナは二体目も撃破していた。俺も負けてはいられない。
床を蹴って一番近くにいたウンディーネと対峙する。
「《ヘヴィクラッシュ》!」
【木剣】から放たれた【重騎士】スキルはウンディーネを直撃する。HPは四割減ってところだ。
スキルの性能の差もあるが攻撃力に大きく影響を及ぼすSTRの値が、ヒナやシマンに比べて決定的に足りていない。
俺の300に対してヒナは371で、しかもウンディーネの弱点である地属性の攻撃によって与ダメージは五割増しになっている。
シマンに至ってはSTRは400だ。獣人のステータス補正であるSTR+19%はやはり大きい。
スキルの一撃でウンディーネを倒せるヒナ、ギリギリ一撃では届かないが確実に二撃で仕留めていくシマン。
俺だと三回当てないと駄目か。
「うわっ!」
ヒナやシマンを気にしすぎていた俺は、迂闊にもウンディーネが口から吐き出した水の攻撃を受けてしまった。
見た目こそ水鉄砲みたいな感じだが、俺のHPは5,022から3,580まで減少した。三割ほど削られた。
レベルこそ俺のほうが上だが、ダンジョンボスだけあって油断はできないようだ。
その証拠に俺とウンディーネの戦いは先に三回攻撃を当てたほうが勝者となる接戦だ。
受け持ったのが一体でよかった。この相手を同時に複数体は無理だ。それをやってのけるヒナやシマンにはまだまだ及ばないなと、改めて痛感させられた。
俺の三度目の《ヘヴィクラッシュ》が水で形成されたウンディーネの体を四散させた。
振り返るとヒナが五体目を、シマンが四体目を倒したのとほとんど同時だったようだ。
「やったわね、タイガくん!」
「やるじゃん、でもHPが三分の一まで減ってるぞ」
「おまえたちと違ってこっちは結構苦戦したんだよ。あと一発受けたらヤバかったな」
言いながら俺が【ポーション】を取り出そうとすると、ヒナが「《ヒール》するわ」とHPを回復してくれた。
「ありがと」
「どういたしまして」
ダンジョンボスであるウンディーネは倒した。そして、奥の壁が開き新たな通路が現れた。
「えっ、まだ続くのか?」
ウンディーネを倒したからもう終わりだと思っていたが、まだダンジョンには先があるようだ。
「ダンジョンボスは倒した。だからこの先に待っているのはモンスターじゃないって」
シマンが意味ありげに顔を綻ばせながら、俺の肩を叩いた。
「え、それって?」
「なんだよ、察しが悪いなぁ。お宝だよお宝。ダンジョンの最後には宝箱があるって相場なんだよ」
宝……ダンジョンをクリアした報酬ってことか。
シマンがそう言うなら間違いではないだろう。ヒナも否定はしなかったし。
「さあ、行きましょ」
ヒナが言うと、俺とシマンは頷いて通路の奥へと進んでいった。




