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048 サングローの海底神殿 3

 コカトリスはくちばしを突き出して俺の顔面を狙ってきた。


「危なっ……!」


 俺は左に頭を振ってやり過ごす。くちばしに触れるとヤバいと思ったら、少し恐くなった。

 空振りしたコカトリスから距離を取るように左に移動する。


 ここからだと、コカトリス越しにシマンの戦いが見える。

 シマンの【木刀(小)】が輝き、コカトリスの頭部を痛烈に叩いた。たった一撃でコカトリスは倒れた。さらに反対の手に持った刀で残った一体の胴に攻撃を叩き込んだ。

 まさに瞬殺だった。


 シマンがこの調子なら、背後で戦っているヒナも当然軽く終わらせているだろう。

 俺もこうしちゃいられない。

 剣を振り上げてコカトリスとの距離を一気に詰めた。


 俺の攻撃がまともにヒットし、コカトリスのHPバーが七割減少した。

 こいつも攻撃二回で倒せるな。

 厄介なのはくちばしの攻撃だけだ。

 そうとわかれば、俺はくちばしに注意を払いつつも勇猛果敢に責め立てる。二度連続で首を振って躱されたが、頭部狙いから体面積の大きい胴体への攻撃に切り替えると、あっさり当たった。


 コカトリスがズシンと音を立てて倒れる。そして粒子となって消えていった。


「ふぅ、ちょっと焦ったな。冷静に対処すれば全然勝てる相手だったよ」


「そりゃそうだろ。ちょっと見た目はアレだけどな」


「石化攻撃をもらわなくてよかったわ。でも油断しちゃ駄目よ? そういうときに限って気が緩んで、状態異常に陥ってゲームオーバーってパターンもあるんだから」


「わかった、気をつけるよ」


 確かにソロで石化なんか食らったらヤバいもんな。

 まだ遭遇していないのはスキュラだけか。水中にいるという話だが……。


「モンスターも複数体で出現することが増えてきたな」


「四人パーティーで攻略する前提でダンジョンが存在しているからだと思うわ」


 今はモンスターとのレベル差があるから数的不利でも戦えているが、今後同レベル帯のモンスターと戦うときは注意が必要だな。


 コカトリスがいた部屋を抜けると、同じような部屋に出た。床には四つの穴があった。もちろん、そのどれもが水で満たされている。

 ここで進行ルートが四つに分岐か。


「そろそろスキュラあたりが出てきそうだな。タイガ、水中戦について説明してやるよ」


「あ、ああ。何か違いがあるのか?」


「大ありだ。水中じゃ水の抵抗があるから陸地と同じ動きができないだろ?」


「確かにそうだな。じゃあ、どうするんだ?」


「そこで重要になってくるのがスキルだ。陸地ほどのスピードは出ないが、水中で戦うならスキルを使うしかない。通常攻撃なんかもっての他だぞ、クソの役にも立たないからな」


 水中では剣を振っても水の抵抗を受けて、本来の動きが出せない。だが、スキルなら戦えるという。

 ただ、水中でスキル名を発声することはできないので、メニュー画面からスキルを選択して使用しなければならないから注意が必要だとヒナが補足してくれた。


 シマンの説明を聞き終えたとき、その背後にある穴から何かが現れた。


「シマン! うしろっ!」


 咄嗟に叫ぶと、シマンもヒナも武器を構えて臨戦態勢に入った。


 穴から姿を現わしたのは人間の女の人だった。濡れた長い金髪が頬に張りついている。鎖骨のあたりまで水の上に出ていて、穴の縁に両手をかけている。

 水中から顔を出した女性は青い瞳で、こちらを見ている。なんだかホラー映画に出てきそうな不気味な絵面だった。


「スキュラだ!」


「タイガくん、水中戦は最終手段よ! 水中に引きずり込まれないように気をつけて!」


「わ、わかった!」


 なんと目の前の女性は人間ではなくモンスターのスキュラだった。

 そうだよな、ダンジョンに俺たち以外のプレイヤーがいるわけないもんな。


 しかし、スキュラは一体だけではなかった。

 残りの三つの穴からもスキュラが姿を見せたのだ。内一体は水中から這い出してその全身を露わにしていた。


 上半身は人間の女性そのものだ、胸には豊かな起伏が丸出しになっている。だが、その下半身には六つの犬の頭がついていて、その下には足はなく代わりに蛇のような尻尾がいくつも生えている。


 俺はその見た目に一瞬怯んでしまった。


「四体いるわ! 《エレメンタルソード・ノーム》ッ!」


 ヒナの【木剣】がスキルの輝きを纏い、スキュラの胸を強打した。HPは一気に0になり一体を倒した。


「わっ……!?」


「タイガくん!」


 スキュラの尻尾がスルスルと伸びてきて、俺の足を払った。不意を突かれた俺は転倒する。

 別の尻尾が二本伸びてきて俺の両足に巻き付く。抵抗しようともがく度に、スキュラのほうへと引っ張られる。


「タイガ! すぐ行く!」


 背後からシマンの声が聞こえるが、俺はまんまと水中に引きずり込まれてしまった。

 水面までは二メートルといったところだ。両足を絡み取られたままなので、俺はスキュラ密着した状態だ。うげぇ……!


 しかも【空気の実】を準備する間もなかったので非常にピンチだ。

 まずはこいつを引き剥がさないと、このまま深いところまで連れていかれたらマズい。


 俺は【木剣】でスキュラの顔面を狙って振るう。


「ば……! ごぼぼっ……!」


 しまった! いつもの調子で攻撃してしまった。当然、水の抵抗によって俺の剣は精彩を欠いた緩慢な動きでスキュラの頬に触れた。

 やはりHPは一ミリたりとも減っていない。


 俺の行動を見てスキュラがニヤリと不気味な笑みを浮かべる。

 こいつ……!


 スキュラの腹部についた犬の牙が、俺の腹に噛みついた。透き通った海水が俺の血で赤く濁る。

 腹に食いつく犬の頭を左手で押し返していると、尻尾が首に巻きついてくる。


 これはヤバい!

 俺は慌てながらもメニュー画面を開いて、スキルを選択する。選んだのは《ヘヴィクラッシュ》だ。

 【木剣】が光り輝き、さっきとは段違いのスピードでスキュラを攻撃した。


 ヒナの言ったとおり、スキルなら戦える!


 《ヘヴィクラッシュ》を受けたスキュラは顔を歪めて、首に巻き付いた尻尾を引っ込めた。

 そこへ、俺を助けるべく水中に飛び込んだであろうヒナがやってきた。


 ヒナ……!

 綺麗なフォームで方向転換して俺のほうへ近づいたヒナは、左手を俺の顔に押しつけた。


「ごぼっ! ぼぼぼぉぼ……ぼぉぼぼ……!」


 いったい、何を!? ヒナの行動に一瞬戸惑うが、口の中に異物が放り込まれたのに気づく。

 【空気の実】だ。

 ヒナは俺の口に【空気の実】を入れたのだ。これで俺には十五分間の水中呼吸が約束される。さっきのスキュラのダメージからして、十五分もかかるまい。


 冷静さを取り戻した俺は、スキュラに向かって《ヘヴィクラッシュ》を放った。

 HPが尽きたスキュラは文字どおり海の藻屑と消えた。


「ぶはっ……!」


 水面から顔を出すと、しゃがんで穴を覗いているシマンと目が合った。


「おおっ! 大丈夫だったか、タイガ!」


「ま……なんとかな」


「とりあえず、一旦上がりましょ」


 ヒナの言葉に頷いて、俺たちは穴から這い上がった。


「油断したよ。ヒナが【空気の実】を使ってくれたから、落ち着いて対処できた」


「どういたしまして」


 ヒナが笑顔で答える。

 他のスキュラはシマンが片付けてくれたようだ。

 なんにせよ、初めての水中戦になんとか勝利することができた。

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