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045 海底神殿へ行こう

 <サングローの海底神殿>。

 ダンジョンとされるからには当然モンスターもいるだろう。

 しかもヒナとシマンの話によると、装備の制限があるらしい。


「えっ、鎧を装備できないのか?」


「そうなの。鎧だけじゃなくて、剣なんかの武器も金属製のものはすべて装備不可なのよ」


「あー、そう言えば特殊条件ありのダンジョンだったな。それでか、ヒナちゃんが水着を買い換えろって言ったのは」


 どうやら、そういう話らしい。

 正確には<サングローの海底神殿>内で装備できる防具は水着だけらしいのだ。もちろん、金属製が多いアクセも装備できない。


「なんで、そんな条件があるんだ?」


「<サングローの海底神殿>の場合は、海底神殿を建造した人物がそういう仕掛けを施したからってお話よ」


「いわゆるストーリー上の設定ってやつだ。まぁ、本音は簡単にクリアして欲しくないってところじゃないか?」


 なるほど。そういう背景があったのか。


 ようやく、ヒナが一人だと不安だと言った意味がわかった。

 通常より弱い装備になる上に、状態異常を防ぐアクセなどが身につけられない。

 これってかなり危険じゃないのか?


「俺も行くこと考えたことなかったから、詳しく知らないんだよな。モンスターもどんなのが出るのかまったく把握してないし」


「モンスターはサングロー地方の中ではレベルが低めに設定されているわ。きっと装備制限によるプレイヤーの弱体化を考慮しているのね」


「そうなのか。でもヒナが来たがってたってことは、何かいいことがあるんだろう?」


「ふふっ、それは<サングローの海底神殿>をクリアしたときのお楽しみよ」


 お、なんだ? これは報酬が期待できるのか?


「何なに? ヒナちゃん、ヒントだけでも教えてよ」


「秘密よ。だから三人で協力してクリアしましょ」


 結局、ヒナは最後まで教えてくれなかった。

 ならば、楽しみにしておこう。


「あ、でも武器はどうするんだ?」


 俺の所持している武器や防具は装備しているものがほぼすべてだと、パーティーを組んでいる二人とも知っているはずだ。

 逆にヒナやシマンみたいに<DO>に慣れているプレイヤーは、状況に応じて装備を変更するのでそういった武器は持っているだろう。


「それはこの無人島で調達できるわ」


「俺とヒナちゃんに任せておけって」


「……え?」


 この無人島は全長一キロほどの小さな島だ。外周から中心に向かうに従って多種多様の木々が茂っていた。<サングローの町>にあった南国風のヤシの木から<ハリザラ山>で見たような樹木まで、中には木の実をつけたものもある。


 <サングローの海底神殿>に向かうには準備が必要だ。その準備はすべてこの無人島で賄えるという。

 武器の素材は木材になる。と言ってもそのままでは使えない。そこで、切った木を加工できるジョブ【木工師】の出番だ。

 金属加工なら【鍛冶師】、木材加工なら【木工師】っていう具合だ。

 当然、シマンもヒナもクラス2であるこのジョブを取得済みだった。


 シマンは木を切り倒すと、それを削って【木刀(小)】を作成した。そして、残った木材をヒナに渡す。受け取ったヒナは俺の【木剣】を作ってくれた。


「ヒナ、ありがとう。握った感じしっくりくるよ」


「どういたしまして。タイガくんも少し余裕ができたら【木工師】を取ってみたらいいわ」


「ああ、そうするよ。結構、便利そうだ。ところで、シマンはそんな短い刀でいいのか?」


 シマンの【木刀(小)】は通常時装備の【無銘】や愛刀【星辰刀】に比べると随分短い。


「じゃーん。見てみろ」


 シマンの左右の手にはそれぞれ【木刀(小)】が握られていた。二振りの【木刀(小)】。

 まさか、二刀流……?


「二刀流だぜ」


 あ、やっぱりそうか。


 ちなみに防具に関しても調達可能で、大きな葉っぱを加工して水着を作るという。シマンが簡単に作ってくれたが、色んな意味で防御力に不安が残る形状だった。

 ヒナが水着を買うようにいってくれて本当に助かった。


 <サングローの海底神殿>はこの無人島の真下にあるらしい。深海百メートル。潜ったその先にそのダンジョンはあるという。

 だが、そこまで息が保つのか? そもそも<サングローの海底神殿>内で息はできるのかと気になった。

 疑問を投げるとヒナが即答してくれた。

 無人島になっている木の実だ。この木の実は【空気の実】というアイテムらしく、水中で十五分間の呼吸が可能になるそうだ。

 なるほど、便利なアイテムだ。


 途中で【空気の実】がなくなったらどうなるのか訊いたら、呼吸が継続できなくなった時点からHPの減少が始まるらしい。つまり、HPが0になれば死んでしまう。

 それは避けないとな。【空気の実】を大量に確保しておくか。

 そんな俺の考えを察したのか、ヒナが必要な分だけでいいという。


 いちおう、切った木や採った【空気の実】も時間が経てば、新しいものができる。現実世界よりかなり早い成長速度でだ。なので、プレイヤーが大挙して故意に乱獲しなければ枯渇することはほぼないという。


 事前にヒナは攻略サイトからの情報で、【空気の実】の最低確保量は八個だと調べていたようだ。

 八個だと二時間分か。念のためとヒナは各自十個採るように言った。


「じゃあ、行くわよ?」


 そう言ってヒナは【空気の実】を口に放り込むと、水中に潜った。


「よし、俺たちも行こう」


 俺も同じように【空気の実】を口に含んであとに続く。同時にシマンも水中に潜行した。

 【空気の実】は口の中で転がっている。まるで飴玉のように少しずつ溶けて小さくなっている気がする。もちろん味はない。

 だけど、これを舐めている間は口内に空気が発生して、呼吸ができる。不思議な感覚だった。


 俺の隣にはシマンが並んで進んでいる。ほぼ真下に向かって潜っていく。


 あ……!

 俺は今さらながら気づいてしまう。


 ヒナを先行させる形になったが、これはマズい。本当に目のやり場に困る。

 あれ……? シマンのやつどこ行ったんだ?

 さっきまで俺の隣にいたシマンがいない。

 もしやと思い振り返ると、真顔のシマンがいた。

 いや、おまえ恐いよ!


 しかも、こんなときに限って綺麗な平泳ぎのフォームだ。


「ぶぼぼっ……!」


 俺はシマンの脇腹に蹴りを入れて、進行ルートを強制変更した。

 シマンが口から盛大に空気を漏らした音に反応したヒナがこちらを振り返る。

 そして、俺たちの様子を見て「馬鹿なことやっていないで、先に行くわよ」的なジェスチャーをする。

 概ね合っているだろう。

 もうヒナとも二ヶ月近くの付き合いだ。大体わかる。


 俺は全力で水を蹴って、ヒナの隣に並んだ。



 しばらく潜ると海底に沈んだ古代遺跡のようなものが見えた。これが深海二百メートルか。

 視界はかなり薄暗くなっていて不気味な雰囲気を醸し出しているが、この辺りの海にはモンスターは出ないらしいので、遭遇するのは小魚や深海魚の群れだけだった。


 こうして俺たちは<サングローの海底神殿>に辿り着いた。

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