042 世界の広がり
俺たちは今サングロー地方にいる。
スタート地点の<ハオリオの町>があったハオリオ地方から数えて三つ目の地方にあたる。
一つの地方はだいたい同じくらいの面積で、これを仮に一区画とすると、現在のマップは西から東に二十一区画、北から南に二十一区画。つまり四百四十一区画で構成されている。
ちなみに<ハオリオの町>はその中心に位置している。
俺たちはずっと南に進んできたわけだ。
ハオリオ地方の四百四十一倍と考えれば、<DO>がいかに広大な世界を有しているかわかるだろう。
二週間前までは東西と南北にそれぞれ十五区画で、合計で二百二十五区画だったのだが、今回のアップデートで二百十六区画増えた。
ほぼ二倍に世界が広がった計算だ。
しかも驚くことにここはアジアからログインしているプレイヤーが中心の世界だということ。
他にも同じような世界が六つも存在している。
基本的には日本からログインするのとアメリカからログインしたのでは、そもそもスタート地点となる世界が別のようだ。
だがまったくの別世界というわけではなく、いずれ七つの世界は繋がるという。
現在はその世界同士を隔てている世界が実装されていないという状態らしい。
そして今俺たちがいる世界は、基本的にはアジアからログインしたプレイヤーが中心なのだが、例外もあるらしくアメリカやヨーロッパのプレイヤーも少ないが存在している。
そのあたりの初期スタート地点の割り振りを運営がどのように割り振っているのかは明言されていない。
サービス開始初期には国ごとに決まっていると思われていたが、その条件が解明されないまま現在に至る。
<DO>内の言語は共通化されているので、仮に外国人相手であろうと会話に困ることはない。自動的にログインした国の言語に翻訳されているようだ。
俺たちはサングロー地方の最初の町、<サングローの町>を歩いていた。
ヒナや<ウルカタイの迷宮>があるマキュラリウス地方まで到達しているし、シマンもその一歩手前のエメリン地方まで進んでいる。
なので、新しい大地を踏みしめる興奮覚めやらぬ俺と違い、二人ともいたって落ち着いていた。
「なんか、急に雰囲気が変わったな。南国風というか」
周りを見渡すと常夏の国を思わせるヤシの木のような樹木が並んでいた。
東へ向かうと海が見えるらしく、泳ぐこともできるらしい。
そのせいか建ち並ぶ店では水着なんかも売っていた。
ヒナやシマンも初めてサングロー地方に訪れたときは、海で泳いだらしい。現実世界で泳ぎが苦手であっても、ここに辿り着くレベルなら身体能力がかなり強化されているので水泳選手並の泳ぎが可能らしい。
実際カナヅチのシマンでさえ、海の向こうに浮かぶ四キロ先の無人島までクロールで泳ぎ切ったと自慢していた。
海にモンスターはいないのかと訊いたが、この近海では出没した例はなく、珊瑚や小さな魚がいるくらいだという。
「ふふっ、ここまで辿り着いたプレイヤーへのご褒美かもしれないわね」
「運営も粋なことするよなー。海に潜って魚や珊瑚を鑑賞することもできるんだから。現実なら俺は絶対無理だもんよ」
シマンはその当時のことを思い出したのか、楽しそうに語る。
「あ、それに次の町にはカジノがあるんだ。タイガ、どうだ? 俺と一緒に一攫千金を狙わないか?」
「カジノ? マジか! 気にはなるけど、大負けする未来しか見えないな……。そう言うからには、シマンは行ったことあるんだろ?」
「ま、まぁな。いい経験をしたぜ」
感慨深げに腕を組み、晴天の空を見つめるシマン。
こいつ……格好付けてるがきっと大負けしたんだろうな。そのリベンジとか考えてるんじゃないだろうな。
「ヒナも行ったことあるのか?」
「カジノへ? まさか。私はギャンブルはしないわ」
ヒナは呆れたように肩を竦めた。
「えー! カジノ楽しいって。それにカジノでしか入手できないアイテムや装備品もあるし。ヒナちゃんも行ったらハマるって!」
いや、ハマると駄目だろう……。
そこまでして行きたいならソロでやるときに行けばいいと思うのだが、シマンは三人で行きたいと力説した。
一人より三人だそうだ。
結局、ヒナが首を縦に振ることはなかった。
俺はカジノでしか入手できないアイテムなどは気になったが、特に重要なアイテムではないらしい。
「だったらさ、ちょっと息抜きがてらに海へ行かないか?」
シマンが海で泳ごうと提案する。
カジノが駄目なら海か。
そう言えば、今年の夏は海どころかプールにさえ行っていない。姉貴は大学の友達と何度か出かけていたみたいで、見たくもない新規購入した水着を見せられたのを思い出して少しげんなりした。
当然、ヒナも断ると思ったのだが……。
顎に手をあてて考える素振りを見せると、意外にも「シマンくんの言うように息抜きも必要かもね」なんて言い出した。
「やったー! 行こう行こう!」
シマンは大喜びだ。
夏休みも残り少ない。現実世界で海にも行けなかったから、せめてゲームの中でその気分を味わえるのなら悪くはない。しかも<DO>ほどリアルなら、実際に泳いだ感覚に近いのではなかろうか。
俺たちは水着を売っている店に向かった。
現実世界と同じく多種多様の水着が所狭しと陳列されていた。
ヒナは店内にはいってすぐに、女性用の水着売り場に歩いて行った。
「おお、意外と種類多いな」
「だろー? 俺はもう持ってるから、タイガはそのへんのやつ適当に決めればいいよ。安いヤツで十分だし」
「おう。俺も水着にそんなに金をかけるつもりはないからな。着れればそれでいい」
俺が適当に手近にあった棚を物色していると、店員のお姉さんが近づいて来た。二十代前半くらいの、いかにも現実世界にもいそうな店員だ。NPC、プレイヤーどちらとも判別がつかない。
「どういったデザインのものをお探しでしょう?」
「あ、いや……デザインとかは特に気にしてないんで、できるだけ安いヤツで探しています」
「でしたら、こちらなどいかがでしょう? 今年のトレンドで、お値段も比較的お手頃ですよ」
<DO>内でも流行の水着とかあるのか……。
本当に着れたらなんでもいいんだが。
「こっちのほうが安いから、これにしとけよ」
シマンがデザインの欠片もない、紺色の海パンを持ってきた。
「すいません、これにします」
俺は店員のお姉さんに愛想笑いを返しながら、シマンが持ってきた水着を差し出した。
店員のお姉さんは嫌な顔ひとつせず、それを受け取るとレジに案内してくれた。
精算を済ませ、店の入口付近でヒナを待つ。
男二人で女性の水着売り場に入っていくのは少し憚られる。シマンと会話しながら待つことにするが、そっちの売り場が気になるようでチラチラと目を向けている。
「シマン、さっきから見過ぎだぞ。俺まで恥ずかしいだろ」
「い、いや、でも気になるじゃん。おまえだってホントは見たいんだろ?」
シマンが肘で俺の脇腹を突いてくる。
「あ、ヒナ来たぞ」
「お待たせ」
「ヒナちゃん、水着決まった?」
「ええ、以前に買った物があるんだけれど、他のを見たら欲しくなっちゃって買っちゃった」
ヒナは薄く笑って答えた。
シマンが小さくガッツポーズしたのを俺は見逃さなかった。やっぱり、それ目当てかよ。
こうして水着を購入した俺たちは、海へ向かうこととなった。




