041 あれから一ヶ月
俺がザックスを倒して現実時間で一ヶ月が過ぎた。
俺たちが周りに話さなかったこともあり、攻略サイトにすらザックスがいなくなったことは記載されていない。
ただ、最近見なくなったので<DO>から引退したのかもなんて掲示板には書かれてあった。
誰もザックスが負けるなんて想像もつかないのだろう。ましてや、五度目の死を迎え<DO>のアカウント削除、つまり永久退場になったなどとは夢にも思わないだろう。
<ハリザラ山>には山賊の目撃情報はパッタリとなくなった。狩りの旨味がなくなったので、拠点を移したなどと噂されている。
山賊を仕切っていたボスはザックスのPKにより<DO>を去ったようなので、ナンバーツーのドワーフが跡を継がなければ、山賊団は事実上の解散となるのだろう。
あのドワーフや他の山賊たちがどうなったかは俺たちが知る由もなかった。
山賊騒ぎが収束したことで、封鎖されていた<ハリザラ山>の山道が通れるようになった。
俺は<ハリザラ山>を越えコンリス地方へと足を踏み入れた。
特に苦戦することもなく――ヒナやシマンがいたおかげだろうが、コンリス地方を突破し、新たな地へと到達できた。
「苦戦することもなかったけど、時間は意外とかかったな」
俺は正直な感想を述べた。
「馬鹿野郎。タイガが安全にクリアできるように、ヒナちゃんが進路や時間配分なんかを配慮してくれてたからだぞ。何も考えずに最短距離を突き進んでたら、もっと早くここまで来れたかも知らねぇが、デスペナ食らってた可能性もあるんだからな」
「えっ!? そうだったのか?」
マップに従って直進しないと思ったら、ヒナはそこまで考えてくれていたのか。
俺は道がわからないから、確かにヒナに任せるよとは言ったが……。
「ええ、でも私やシマンくんがいるから最悪の事態は避けられるとは思うのだけれど、念には念を入れてね……」
「そうか、PK……」
ハオリオ地方よりは手強いといっても、コンリス地方に今の俺が苦戦するようなモンスターはいなかった。
ヒナやシマンが警戒していたのはPKだ。
だが、この一ヶ月PKには一度も遭っていない。
運が良かっただけなのか、それとも最初がたまたま多かっただけなのか。
その疑問はシマンが解消してくれた。
「普段はプレイしてても一ヶ月に一回あるかどうかって頻度だったな」
「私もそうね。だけどその一回でとんでもない目に遭うこともあるわ」
先月のザックスがいい例だ。
そして二週間前に実施されたアップデートで、レベルの上限が100まで解放された。
極端な話、レベル100のPKが現れても不思議ではないのだ。
つまり、今後はヒナやシマンよりも格上のプレイヤーに狙われるってことも視野に入れておかなければならない。
あれ以降、俺とヒナのパーティーにシマンが加わるようになった。基本は毎日、二時間ほど三人でログインしている。
シマンはその後もソロでプレイを続けている。たまに俺も付き合うこともあった。
なので、プレイ時間的にはシマン>俺>ヒナって感じだ。
これがそのままレベルの上昇率に比例した。
現在のレベルは俺が40、ヒナが53、シマンが48。
もちろん一番プレイ時間の少ないヒナは、レベルの上がり方が緩やかだ。近いうちにシマンに抜かれるだろう。このままのペースだと俺たち三人の中でレベル100にいち早く到達するのは間違いなくシマンだ。
「二週間前のアップデートでどのくらいマップが広がったんだろうな」
ハオリオ地方とコンリス地方、序盤の二つの地方しか経験していない俺にとって、一言で世界が広がったと言われてもピンとこない。
「攻略サイトに出てたぞ。まだ、チェックしてないのか?」
「いや、俺からしたらまだまだ先の地方だし。目先の地方しかチェックしてないよ」
攻略サイトにマップ情報が記載されていたのは知っていた。だけど、何ヶ月先に訪れることになる場所なんて気にならなかった。
ただ、一つだけ調べた場所があった。
<ウルカタイの迷宮>。
ヒナのお兄さん――竜胆虎徹――が待つというダンジョンだ。ここから五つも先の地方にある。
今は世界が広がったが、二週間前までは最前線だった場所だ。
だが、未だに攻略されたという情報は入っていない。
「正直、今は攻略サイトまでチェックする余裕はないよ」
毎日二時間。
高校生の俺にとっては結構な時間だ。
シマンは俺以上にプレイしていて、なおかつ攻略サイトまでしっかり目を通しているようだ。
学生の本分は学業。それが疎かにならなければいいが……。
かといって俺も<DO>以外の時間を勉強に充てているかといえば、そんなことはないのだが。そこのところ、ヒナはしっかりしている。夏休みの課題はもう終わらせたらしい。
シマンなど課題はほぼ白紙状態に違いない。もちろん、俺もだが。
あれから、ヒナのお兄さんから特別なメッセージは届いていない。
表情や口には出さないが、ヒナも内心は逸る気持ちもあるだろう。
足を引っ張っているのは俺だ。少しでも早くヒナのレベルに追いつこうと思った。




