036 シマン&ヒナVSザックス
ザックスは顎に手をやって考える素振りを見せた。
「あー、あー思い出したぜ。兄ちゃん、あれだな。確か<マクイナの森>で会った……。そういや、あんとき【精霊騎士】の姉ちゃんがいたな、あー完全に思い出したわ、悪い悪いアホほどPKやってからよ、すぐにピンとこなかったぜ」
どうやら本当に俺たちのことを忘れていたようだ。
ザックスは俺とヒナを交互に見て、それから後ろを振り返った。
「ようやくお目覚めか?」
「キツい一撃もらっちまったな。だけどまだ死んでねぇ。それより、俺のことも忘れてたんじゃねぇだろうな?」
意識を取り戻したのか、シマンがようやく立ち上がってきていた。
簡易ステータスを見るとHPもほぼ最大値まで回復している。立ち上がる前に回復していたようだ。当然、気絶状態を示すアイコンは消えている。
「あぁ? あんときおまえもいたってのか? いいや……違うな。どっかで会ったか?」
「ふざけんな! 自分がPKした相手の顔なんざいちいち覚えてないってか?」
「……なーるほど。俺様にPKされたやつか。悪いな、こちとら千人以上PKしてんだ、その全員の顔を覚えてるわきゃねぇだろ」
ザックスが挑発するようにシマンに笑いかける。
「……! そうかよ、だけど俺は負けねぇ!」
シマンが刀を構える。
「面白れぇ、同じ獣人で同系統のジョブか。【明星の甲冑】を装備しているところからして、おまえクラス2の【侍】だな。だがな、俺様はクラス3の【剣豪】だぜ? 俺様はサブに【侍】があるからよぉ、おまえの使えるスキルは俺様も使えるってことを忘れんな。万に一つもおまえに勝ち目はねぇよ」
「【剣豪】は優秀な攻撃スキルや《見切り》があるが、鎧を装備できないのが欠点だ。その【七曜装束】じゃ防御力は心許ないだろう。俺の攻撃でも十分通用するはずだ」
ザックスの着ている和服は【七曜装束】というようだ。
「ふん、当たればな。【暗黒騎士】もよかったが、この【剣豪】も気に入ってるんだぜ。まぁ、PKするのには【暗黒騎士】のほうが気分が乗るんだが、血の雨を降らせる【剣豪】も悪くねぇ」
「まったく……、初めて見た【剣豪】のプレイヤーがおまえみたいなヤツだったってのは、あんまりだぜ。はっきり言ってがっかりだ。【剣豪】のイメージが凄ぇマイナスだ」
「ふん、だからどうした?」
「だからよ、俺がおまえに引導を渡して、きっちり<DO>から永久退場させてやるぜ。そして、いつか俺が【剣豪】になって、そのイメージを払拭してやる」
「おまえにできんのか? えぇ?」
ザックスが刀を構えながら素早く移動する。
ヒナとシマンに挟まれる形だったが、両者と相対できる位置になる。
「やってやるッ! ――《断骨斬》ッ!」
先に仕掛けたのはシマンだった。
回避は発動しなかったのか、ザックスは刀で受けた。
「おまえも【星辰刀】か。どこまで強化した?」
「無凸だ! 悪いか!」
「ふん、冗談だろ? それで俺様に挑むってんだから笑えてくるぜ。俺様のは三凸だ、おまえよっぽど運が悪いんじゃねぇのか?」
「なんだと……!?」
ザックスの刀もシマンと同じ【星辰刀】か。しかも無凸のシマンに対して三凸……つまり限界まで強化した【星辰刀+3】だ。すなわち、低確率のドロップ装備を四つも集めたことになる。無凸のシマンに対し攻撃力にして150もの差がある。
そしてシマンの運が悪いと言ったが、これは運の一言で片付く話じゃない。実際、俺はステゴサウルスからは一本も【菫の剣】をドロップできなかったし、確かに運もあるのだろう。だが対象モンスターと繰り返し戦闘するために相当な時間が必要だったことは想像に難くない。おそらく、ヒナやシマンの比ではないだろう。
ザックスのやつ、いったいどれだけの時間プレイしているんだ。
「シマンくん下がって!」
「お、おう!」
シマンが下がり、入れ替わるようにヒナが前へと出る。
「《エレメンタルソード・サラマンダー》!」
「《二ノ太刀・青竜》!」
ヒナが放った《エレメンタルソード・サラマンダー》を《二ノ太刀・青竜》で消し飛ばすザックス。
《二ノ太刀・青竜》には確率で猛毒が付与されるが、ヒナがそれを受ける可能性は低いと思われる。ヒナのほうがレベルが上だし、毒への抵抗力をアップする【抵抗の指輪】を装備しているからだ。
いや、ちょっと待てよ。ヒナの【抵抗の指輪】や俺の【中和の指輪】って毒に対する抵抗力はアップするが、猛毒に対してはどうなんだろう?
いや、今はそんなことより……!
幸いヒナは猛毒状態になった様子はない。スキルを放ったあとはすぐに後ろへと下がり、代わりにシマンが飛び出した。
二人だとこういう戦いができるのか。ヒナとシマンが交互にスキルを繰り出す。息つく暇も与えないとはこういうことを言うのだろう。
形成が逆転した……かもしれない。ヒナとシマン二人ならザックスを押し切ることができるはずだ。
「《エレメンタルソード・ノーム》!」
「《三の太刀・玄武》!」
「きゃっ……!」
そう判断した俺だったが、直後その結論をひっくり返すこととなった。
ヒナのスキルがザックスに弾かれる。その力が強かったのか、ヒナはバランスを崩した。
それを逃すザックスではない!
「ヒナちゃん! くそっ、《燕返し》ッ!」
「《一ノ太刀・白虎》!」
「うおっ……!」
間一髪でシマンがフォローに入るが、ザックスは回避して反撃した。思わず飛び退くシマン。直撃は免れたようだ。さっきはこの《一ノ太刀・白虎》で気絶をもらってるだけに、心底胆が冷えただろう。
さっきはヒナと一対一で接戦だったザックスが、今は二人を相手に押している!
いったい……どうしてっ!?
「なんて人なの……! さっきまで、手を抜いていたなんて……!」
えっ!?
「……ホントに嫌な野郎だな、ヒナちゃんの言うとおりみたいだ!」
シマンが頷いた。
手を抜いていた……?
ヒナは確かにそう言った。
シマンは目を見開いている、俺も同じだ。そして、ザックスはそれが正解だと言わんばかりに豪快に笑った。
「あぁ? なんだ、もうバレたか? 俺様の演技力も落ちたなぁ、あとからバラして絶望させてやるつもりだったんだがなぁ」
なんだって!
今まで手を抜いて戦っていたのか……!
ヒナは悔しさを噛みしめるような表情だ。それでも攻撃の手を休めない、HPの減り以上にSPが尽きかけている。このままではスキル自体が撃てなくなる、そうなればザックスの猛攻が待っているだろう。
シマンも必死にスキルを放つが、こちらもSPが大きく減っていた。
ザックスの残りSPはわからないが、あの笑みからしてまだ十分余裕があるか、対策があるんだろう。
助けに行きたいが、俺が参加するとザックスはそこを狙うだろう。そしたら、ヒナやシマンは俺をフォローするために、さらに余計な気を遣うことになる。
なんていうジレンマだ!
俺はザックスという強敵を前に自分自身の無力さを痛感する。
俺はその光景を見守るしかできなかった。
「《二ノ太刀・青竜》!」
「うっ……!」
ザックスのスキルがシマンを斬り裂いた。シマンがその場に倒れる。
ついにシマンは力尽きた。
満身創痍、文字どおりシマンの体はもう限界だ。
ヒナも立っているのがやっとだろう。
二人とも回復に専念しないと、本当に危ない。
ザックスと目が合った。
「兄ちゃん、次はおまえだぜ?」
俺は言葉を返さず、ただザックスを睨みつけた。




