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034 剣豪ザックス

 ザックスで間違いない!


 しかし、その風貌は前に見たときと違っていた。

 以前は真っ黒な鎧を身に纏っていたはずだが、今は着物?みたいな和装だった。しかも素材は防御力の弱そうな布っぽい。

 まぁ、見た目で装備の強さは計れないが、以前のほうが強そうに見えた。


「……ザックス!」


「あぁ?」


 ザックスは特に動じもせず、俺とヒナを交互に眺める。

 まさか、こんなところでザックスに遭遇するなんて思ってもみなかった。だけど山賊ドワーフがこの<ハリザラ山>でザックスを探していたんだから、この付近にいる可能性はあったのだ。迂闊だった。


「なんだぁ、おまえらは? ここは山賊どもの溜まり場だぜ、ここで何してる?」


 俺たちのことを覚えてないのか?

 前回去り際に、俺とヒナの顔を覚えたと言っておきながら、ザックスの記憶には残っていないらしい。


「おいおい、だんまりか? 返事しねぇと敵と見なすぜ?」


 ザックスはこちらに向かって一歩踏み出した。

 咄嗟に俺は、腰の剣に手をかける。


「なんだ兄ちゃん、俺様とやる気か? ……っていうかなんで俺様の名前を知ってる? まだステータスを公開してないんだがな」


 歩みを止めてザックスは訝しむように俺を凝視した。


「たまたまここでレベル上げしていただけよ。効率のいい場所を探して山道から外れて奥に入ってきたところで、この小屋を見つけたの」


 ヒナが適当に話をでっちあげる。ザックスの出方を見るのか? ここはヒナに任せてみるか。


「そいつは期待外れだったな。<ハリザラ山>は山道から離れるほどモンスターの出現率が落ちる。効率重視なら山道を往復するほうがよっぽどいいぜ」


「そうみたいね。私たちもこれから引き返そうと思っていたところよ」


 ヒナが俺の腕を掴んで、ザックスから離れようとする。

 横目で見ると、ザックスはその場で腕を組んだまま俺たちのほうを眺めていた。

 俺たちはザックスに背を向けて小屋から遠ざかる。


 シマンはまだ小屋の中だ……ヒナはどうするつもりだ?

 緊迫した空気の中、一歩、二歩と歩みを進める。


「――待ちな」


 ザックスに呼び止められ、俺たちは足を止めた。

 一瞬ヒナと目を合わせ、俺たちは同時に振り返った。


「ここらは山賊の縄張りだ。この小屋は山賊どもの溜まり場になってるから近づかねぇほうがいいぜ。命が惜しかったら、大人しく山道だけ歩いてろ」


「忠告ありがとう、そうさせてもらうわ」


 ちょうどそのタイミングで、小屋の扉が開いた。その音で気づかれるかとヒヤヒヤしたが、ザックスは俺たちのほうを見ていて気づいていない。

 小屋から出てきたシマンは一瞬ギョッとした顔をしたが、すぐに状況を把握したのか落ち着きを取り戻したように見える。

 おそらく状況に気づいたシマンは《隠遁》を使ったはずだ。

 このままザックスが振り向かなければ、隠し通せるかもしれない。


「どうした? 行かねぇのか?」


「ええ、もう行くわ」


 今、ザックスに振り向かれたらシマンが見つかってしまう。俺たちを見逃そうとしているように、シマンも見逃してくれる保証はない。

 あと十秒は時間を稼がないと……! 十秒もあれば、シマンは向こう側の森に隠れられるだろう。


「あ、あのさ。あんたのジョブは、その装備からして【侍】なのか?」


「あぁ? 俺様のジョブ? これはクラス3の【剣豪】だ。兄ちゃん、興味あるのか?」


 【剣豪】か。今日は【暗黒騎士】ではないらしい。どうりで見た目が全然違うはずだ。

 シマンが【剣豪】を目指していたのもあり、俺は攻略サイトで【剣豪】のスキルには目を通していた。

 【侍】の上級職だけあって攻撃は似たようなスキルが多い。特筆すべきは【見切り】という回避率を上げるスキルだ。パッシブスキルで常時回避率に+7%もの補正が入る。

 その代わり【侍】のときに装備できた重い甲冑などは装備不可となる。


 シマンはようやく小屋から遠ざかり始めた。こちらの様子を探りながら、俺たちとは反対側の森に進んでいる。音を立てないようにゆっくりとした動作だ。


「少しだけな。まだ取得するかわからないけど。【侍】系ジョブの使い勝手はどうなのかなって思って」


「……使い勝手ねぇ。試してみるか、なぁ?」


「えっ……?」


 ザックスがおもむろに腰の刀を抜いた。

 しまった! 会話の進め方をミスったか!?


「今日の予定は山賊の残党狩りだけだったんだがな。メインディッシュの前に軽く腹ごしらえするかぁ」


「タイガくん、失敗したわね」


 ヒナはザックスを見据えたまま、小声で言った。


「……やっぱり?」


 ザックスが俺たちに向かって近づいてくる。値踏みするようにゆっくりとだ。

 今日の予定は山賊の残党狩り……だって? やはりドワーフが言ってたとおり、山賊とザックスは揉めてたんだな。山賊のボスをザックスが永久退場に追い込んだって話だったな。


「そういや、返答をもらってなかったな?」


「……なんのだ?」


「なんで俺様の名前を知ってるのかって質問だ。もしかして、俺様と会ったことあるか? なぁ、兄ちゃん」


 これはマズいぞ……。ザックスは俺たちを警戒し始めた。


 ザックスから遠ざかろうとしていたシマンが踵を返す。俺たちを助けようとしているのか、刀を抜いてこちらに向かって歩き出す。


 シマン……!?

 こうなったら、腹を決めてザックスと戦うしかないのか?

 正直、山賊と遭遇したなら戦うつもりでいた。そのために俺にできる万全の準備をした。

 だが、目の前にいるのはザックスだ。遭遇しました、戦います。という思考には至らない。いくら俺でもザックスと事を構えるのは時期尚早だとわかる。


「どうなんだ? 黙ってねぇで、なんとか言えよ」


 ザックスはやる気だ!

 今から走って逃げたところで、追いつかれてしまうだろう。

 ならば、先手必勝か……だけど俺の攻撃力ではおそらくダメージは通らない。しかも【狂戦士】をメインジョブにしているせいで、今の俺の攻撃力補正は-50%だ。


 ああでもない、こうでもないと頭の中を思考が駆け巡り、俺はすぐには動けなかった。

 これじゃあ、ヘビに睨まれたカエルだ。

 それを察してか、先に動いたのはヒナだった。


「はああっ!」


 瞬時に剣を抜き、そのままザックスに斬りつけた。

 しかしザックスは皮一枚でそれを躱す!


「っと、危ねぇ!」


「……《見切り》ね!」


 ザックスは【剣豪】のスキル《見切り》を使って、ヒナの攻撃を回避したようだ。

 回避率の数値自体は詳細ステータスにも表示されない隠しステータスだが、回避率7%アップというのはかなり有用みたいだ。

 今ザックスは防御する姿勢すら取らなかった。回避が失敗したらヒナの攻撃をまともに受けることになるのにだ。

 ヒナの動きに反応できなかった? いや、多分違う。前回の遭遇でヒナの攻撃力は予測できたはずなのに、避ける自信があったんだ。


「いいぜ、やるんだな? 今さら待ったはなしだぜ?」


 ザックスが刀を振るう!

 ヒナは振り下ろされた刀を、自らの剣で弾き返した。


「タイガくん、離れて!」


「逃がすかよッ!」


 ザックスは二度ヒナに斬りつけたあと、すぐに進行方向を俺へと向けた。

 ヒナはザックスの攻撃を防いだが、少しバランスを崩していた。仮にヒナが《庇う》を使って俺を助けようにも、もう間に合わない。


「タイガ! 伏せろ!」


 そこへ躍り出たのはシマンだった。

 ザックスの後方五メートルまで近づいていたシマンは、刀を振り上げた。その刀はさっき見せてもらった【星辰刀】だ。


「なんだぁ! 他にも仲間がいたのかッ!」


 ザックスは慌てたようにシマンに振り返った。


「ここで会ったが百年目ッ! ザックス、借りは返させてもらうぜッ!」


 シマンの刀がスキル発動のエフェクトで光り輝く。


「オラァ! 《断骨斬》ッ!」 


 しかし、シマンの《断骨斬》は虚しく空を斬った。

 ――また、回避!?

 シマンの奇襲さえ、ザックスは《見切り》で回避した。


「へっ、こいつはいいウォーミングアップになりそうだぜ!」


 ザックスは獰猛な顔に笑みを浮かべた。獲物を見つけたときの顔だ。俺はザックスの称号【殺戮者】を思い出した。称号の獲得条件はプレイヤーを千人以上殺害すること。

 それを再確認した瞬間、俺の背筋に冷たい汗が流れた。


「シマン! 避けろぉぉぉぉッ!」


 俺の叫びと同時に、ザックスがスキルを放った。


「死ねや! 《一ノ太刀・白虎》!」


 ザックスの刀が描いた軌跡が、シマンの土手っ腹を斬り裂いた!


「うおおおおっ! くっ……!」


「シマン!」


「シマンくん!」


 シマンがザックスの攻撃をまともに浴び、血を巻き散らせながら吹っ飛んだ!


「まず、一人」


 ザックスが口角を吊り上げた。

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