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033 山賊の小屋

 俺は【職石】を使いメインジョブを【狂戦士】に、そして【重戦士】をサブに変更した。

 これといって効果音やエフェクトはない。


「タイガくん、くれぐれも無理はしないでね」


「ああ、わかってる」


 ヒナが心配して声をかけてくれる。だが俺がどんな戦法をとるか、【狂戦士】をメインジョブにしたことで察しているはずだ。


 肉を斬らせて骨を断つ。

 《底力》の恩恵を得るにはHPを49%以下にするとことが前提だ。50%以上だと逆に攻撃力が落ちてしまう。

 かといって、山賊の攻撃をまともに受けてしまうとHPを調整できずに死んでしまう可能性もある。その見極めが重要だ。


「んじゃ、行くか」


 シマンが眼前の小屋を顎で指した。


「そうね、様子を見た感じでは周囲に人の気配はないわ。問題は小屋の中に何人いるかね。でも、おかしいわね……」


「どうしたんだ?」


 ヒナが首を傾げたので、俺は訊いてみた。


「話し声や物音がしないのよ。誰もいないのかしら」


「中に一人しかいないとか、こちらに気づいて息を潜めてるってパターンもあるな」


 ヒナの懸念にシマンが可能性を語る。


「後者だとしたら、私たちはもう罠に嵌まってしまっているかもしれないわね……」


「だけど、ここで考えていても答えは出そうにないな。タイガ、どうする?」


 シマンがもう少し様子を見るか、突入するかの決定を俺に委ねる。元々は俺が言い出した山賊退治だ。シマンは俺の決定に従ってくれるみたいだ。

 ヒナも俺の顔を見つめている。シマンと同じ気持ちのようだ。


「小屋に近づいてみよう。もし、危険を感じたら教えてくれると助かる」


「もちろんだ。よし、俺が先頭で進むから、その後ろにヒナちゃん、最後尾にタイガの順でついてきてくれ」


「わかったわ」


「了解」


 シマンを先頭に俺たちは小屋の傍まで接近した。シマンが壁に背中を張りつけて、小屋の中へ聞き耳を立てる。

 ヒナが後ろにいた俺を手で制して、歩みを止めた。


 シマンがこっちへ来いみたいな手振りをしたので、俺とヒナは素早く壁際に移動した。


「中からは物音一つ聞こえないな。そこに窓があるから、中を覗いてみる。ヒナちゃんは周囲を警戒していてくれ」


「ええ」


 この辺は俺にできる役割はない。何もしないのもアレなので、ヒナと一緒に視線を周囲の森に向ける。

 俺のサブジョブである【狩人】には《遠目》というスキルがある。視力が強化されるだけのパッシブスキルだが、こういう場面では重宝する。

 まぁ、俺の視界に何かが入っていても、それに気づけるかどうかは別問題だ。


 目の前に広がる森には何も変化はない。ヒナに反応がないところを見ると山賊に囲まれているなんてことはないようだ。


「窓から見える範囲じゃ、誰もいないな。奥に部屋がありそうだが、ここからじゃ様子はわからないな」


 窓から中の様子を窺っていたシマンが言う。


「中に入ってみるか」


「大丈夫なのか?」


「ああ、俺のサブジョブ【密偵】のスキル《隠遁》を使えば、見つかる可能性を下げられる。もちろん俺だけだけどな」


「《隠遁》……!」


 以前ヒナから教えてもらったスキルだ。

 <マクイナの森>でザックスが俺たちに近づく際に使用したスキルだ。

 あのときはレベル差のおかげでヒナは気づけた。


「それって、《気配感知》や《看破》を使われたら見つかるんじゃないのか?」


「よく勉強してるじゃん、タイガ」


「前にそういった状況があったのよ。ね、タイガくん」


「実はそうなんだ。もちろん二人が口酸っぱく言うように、あれから攻略サイトにも目を通してるよ」


「口酸っぱくて悪かったわねー」


 ヒナが頬を膨らませた。

 シマンが俺とヒナのやり取りをジッと眺めている。


「え……、なんだよ?」


「……いや、あのよ。俺の杞憂ならいいんだが、タイガとヒナちゃん仲良すぎじゃね?」


「「え……!」」


 シマンに疑惑の目を向けられて、思わず二人して同時に声を上げてしまう。


「……おいおいおいっ! タイガ、俺に隠し事なんてないよな? な?」


「あの……シマンくん?」


「ちょっと待て、シマン。変な勘ぐりは止めてくれ」


「ヒナちゃん、ちょっとごめんね」


 そう言ってシマンは俺の肩に手を回し、ヒナから少し距離を取った。

 そして、小声で俺に問いかける。


「おい、タイガ。おまえ、ヒナちゃんと付き合ってるとかないよな?」


「はぁああぁ? おま、な、何言ってんだよ!」


「なんで動揺した? う、嘘だろ? なぁ、嘘だと言ってくれ」


 シマンの腕に力が入る。

 痛い痛い、痛くないけど痛いって!

 シマンの圧が凄い。


「誤解だ誤解。落ち着けって、俺たちはそんな関係じゃないから」


「……本当だな? 俺は親友を信じていいんだな?」


「ああ、信じてくれ親友を」


 しばしシマンと見つめ合う。


「わかった、俺はタイガを信じる」


「お、おう」


「俺たち彼女いない同盟の掟は絶対だ。いいか、抜け駆けはなしだぜ?」


 そんな同盟は初めて聞いたが、俺はシマンの迫力に押されて頷いた。

 シマンがにっこり笑い、俺の背中をバシバシと叩く。


「あまり大きな音を立てないで、中に山賊がいたら気づかれるわよ」


 ヒナが唇を尖らせたので、俺とシマンは揃って頭を掻いた。


「おまえのせいだぞ、シマン」


「悪い悪い。じゃ、ちょっくら中の様子を見てくるぜ」


 シマンはニヤけた顔を引き締めると、小屋の入口に向かって歩き出した。

 俺とヒナは壁を背にして、窓を挟むように位置取った。二人して窓から中を覗くと、入口の扉を開けてシマンが入ってきた。

 泥棒が人の家に忍び込むように、獣人の巨体を縮こませて抜き足差し足で移動するシマンの姿は滑稽だった。


 俺たちと目が合うとシマンは親指を立てて頷く。そして奥にあるであろう部屋に足を向けた。


「ここからじゃ見えないが、やっぱり奥にも部屋があるんだな」


「そうみたいね。あとはシマンくんに任せましょ」


「ああ、そうだな」


 ここに山賊はいるのだろうか?

 俺とヒナはシマンの見えなくなった小屋の中を見つめていた。


 そのとき、窓に何かが反射した。


 慌てて振り向くと、俺たちの後方五メートルほどの草むらが眩しいほど光り輝いていた。

 この光が窓に映っていたのだ。

 しかもこの光、俺は何度か見ている。当然、ヒナもこの光が何を意味するか知っている。


 プレイヤーがログインしてくるときのエフェクトだ。つまり、前回この場所でログアウトしたプレイヤーが今まさに、ログインしようとしているのだ。


「お、おい……ちょっと待て! 誰かログインしてくるぞ!」


 誰かって……山賊以外に考えられないのだが、俺は予想外の展開に混乱してしまった。


 光が徐々に実体化する。ほんの五秒ほどのことだが、俺には途轍もなく長く感じた。

 そのシルエットに見覚えがあったからだ。


「最悪のパターンね……!」


「マジか!? くっ、ここでだと……!」


 ヒナも気づいている!

 誰がログインしてくるのかを……!


「……ザックス!」


 俺は目の前に現れたライオン頭の獣人の名を口にしていた。

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