029 現れたのは
ドワーフが息つく暇もなく激しい攻撃を繰り出した。
バフの効いているうちに俺とヒナ、どちらかを倒すと宣言した。
そして攻撃対象は目の前のヒナに決まったようだ。俺を狙えば倒すことは容易いはずだ。だが、【魔神茸】の持続時間があるので、少し距離のある俺ではなくヒナを標的にしたのだろう。もっとも、俺を狙おうにもヒナがそうさせないのもある。
ヒナは防戦一方だが、ドワーフの剣を上手く捌いている。バフが切れれば、ドワーフの奥の手はなくなる。これを凌げば俺たちに俄然有利になるはずだ。
しかし気になるのは、ドワーフの視線だ。さっきからチラチラと俺を見ている。
俺をけん制している? マルを倒したことから、俺をヒナと同格だと判断して警戒しているのか。俺が黒猫のバフを受けていたことは知らないだろうから無理はない。
そう思ってくれるならこっちとしては好都合だ。その分ヒナへの意識が削がれるはずだ。
【魔神茸】の三十秒だから、あと五秒ほどでバフの効果は切れる。そのときが勝負だ!
あと三秒!
「うっ……!」
その瞬間、俺の体が硬直した!
既視感を覚える。
俺の呻きに反応したヒナが振り向かずに叫ぶ。
「タイガくん!」
《影縛り》ッ!?
俺はまんまとドワーフの《影縛り》にかかってしまった。
ドワーフの口角が上がる。俺に向かって左手で何かを投げた。
先端の尖った武器だった。
当然、身動きの取れない俺に躱す術はない。それは吸い込まれるように俺の胸へと深々と突き刺さった。
「あああぁああああぁあッ!」
俺のHPは3,852から1,380まで減少。一気に六割以上減る大ダメージだ。
同じ攻撃を受けたら俺は死ぬ。
「くっ……! まだ……動けないッ!」
「《ブレイクソード》ッ!」
ドワーフは剣を振り下ろしヒナに強烈な一撃を叩き込んだ。
ヒナがその重そうな一撃を両手で握った剣でかろうじて防ぐ。その隙にドワーフは、標的をヒナから俺に変更した。
すでに【魔神茸】の効果は切れている。俺のHPの減り具合からこちらのレベルは露呈したはずだ。動けない俺を仕留められると判断したのだろう。
「女は手強いがお前はそうじゃないみたいだなぁ! 《投擲》でそれだけダメージがあるなら、所詮は雑魚だッ! どうやってマルを倒したか知らないが、お前も同じ目に遭わせてやるぞッ!」
ドワーフの剣が光を帯びる。スキルを発動する気だ。
身動きの取れない俺は、胸に刺さった武器を抜くことさえできない。
万事休す!
死を覚悟したとき、俺とドワーフの間にヒナが割って入る。
スキル《庇う》だった。
またしても俺の代わりにドワーフの攻撃を受けるヒナ。
「きゃあぁっ!」
「うわっ!」
攻撃を受けた勢いでヒナが俺に倒れてきた。二人して地面に倒れる。俺はヒナの下敷きになっている。
今ので《影縛り》は解けたが、目の前には剣を振り上げているドワーフがいた。
ヒナのHPはもう二割ほどしかない。俺もヒナも一撃でももらったら終わりだ。
クソっ! 結局俺は足手まといなのかよっ!
「ちょっと待ったあああぁッ!」
ドワーフの背後から聞き覚えのある声がした。
「チッ、なんだぁ?」
ドワーフが苛立ったように手を止めた。
すかさずヒナは【ポーション】を取り出しHPを回復させる。俺も同じ行動をとった。
同時に胸に刺さった武器を抜いて、地面に投げ捨てる。
ドワーフは俺たちから距離をとって声をしたほうへ振り返る。
俺とヒナも立ち上がって同じ方向に目をやった。
そこでは、女の子と山賊が対峙しているはずだった。だが今、二人の山賊は地面に倒れている。その体は半透明になっていることから倒したのは間違いない。
女の子が倒したのか……?
いや、あいつか!
女の子と山賊の間に立っていた男は、手にしていた刀をこちらに向けた。
「助けにきたぜ! タイガ!」
女の子と戦っていた山賊を倒したのは、甲冑を纏ったヒョウ頭の獣人――シマンだった。
キザっぽく斜に構え、刀でドワーフを指してポーズを決めている。
「えっ……!? なんであいつがここに……!」
「お前らの仲間か! クソ、こいつは分が悪いな……!」
ドワーフは苦い顔をすると、地面に何かを投げつけた。
途端、辺りが白煙に包まれる。
「げほっ、げほっ! なっ……毒ガスか!?」
煙を大きく吸い込んでしまい、俺はむせかえった。
いちおうケンタウロスの毒矢対策で毒への抵抗力を上げる【中和の指輪】を装備しているので、毒に対しての不安はそれほどない。
だが、さっきの《影縛り》といい、ドワーフは戦闘に慣れている様子だ。この煙幕も何か意味があるに違いないと考えた。
「ただの煙幕で害はないわ。でも私のそばから離れては駄目よ、あの山賊が狙っているかもしれないわ!」
ただの煙幕……目くらましか!
急に目の前にドワーフが現れてもおかしくない状況だ。
「わ、わかった! げほっ……」
「タイガ! 大丈夫か!」
シマンが俺を心配して声をかける。
しばらくして煙はおさまった。
そこにはもうドワーフの姿はなかった。
「……逃げたみたいね」
「え、逃げたのか?」
「仲間を五人失った上に、相手の援軍が現れたんですもの。それが賢明だわ。ところで、彼は知り合いかしら?」
ヒナがシマンを見て俺に訊いてきた。
「あ……」
そうだ、ヒナはシマンの姿を知らない。あいつのアバターは現実世界の島本とは似ても似つかぬヒョウ頭の獣人なのだ。
これは……どうしよう。
まさかの鉢合わせ……これは想定外だ。
誤魔化しても意味はない、正直に話すしかないだろう。
「ヒナ……ごめん、あいつはシマンだ」
「え……?」
ヒナは大きく目を見開いた。それから俺のほうを見て、
「あの獣人が……シマンくん……なの?」
と確認してきた。
「まぁ、その……そうなんだ」
俺は顔を引きつらせながら笑うしかなかった。




