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028 山賊ドワーフ吠える

 まさか、猫とパーティーを組むとは思わなかった。

 アイコンが消えたことから、俺に付与されていた強力なバフはその効果を終えているのはわかるが、試しにステータスを確認したところ、やはり元の状態に戻っていた。

 おっと、こんなことをしている場合じゃない。ヒナを助けにいかないと。


 正直、俺が加勢したところで……という懸念はある。

 だけど、もう一度あのバフをかけてもらえばあのドワーフと互角以上に戦えそうな気がしてきた。

 俺は走りながら、チャットメッセージを送った。黒猫にもう一度バフを要請したのだ。



『無理。戦闘中に一度しか使えない』



 返ってきた答えは期待外れのものだった。

 確かに強力なバフだったからな。制限があっても不思議じゃない。

 というか、さっきは目の前にマルが迫っていたからスルーしていたが、この黒猫は人間の言葉が話せるようだ。事実、チャットに表示されているのは日本語だった。

 種族が動物ということは100%NPCで間違いないのだが、まさか<DO(ディーオー)>の世界の猫は一緒に戦ったり喋ったりする……のだろうか?


 それにしても、ヒナとドワーフの戦いはさすが高レベル同士の攻防だ。

 互いの攻撃がまともに当たれば、数回の攻撃で決着がつきそうな気もするが、躱したり弾いたりでどちらもまともに被弾していない。

 それでも僅かにHPは減っているが、このままでは勝負が決するのは時間がかかりそうだ。

 しかし、時間が経てば経つほど集中力は低下するだろう。どちらかが集中力を切らせたら、一気に形成が傾くかもしれない。


「ヒナに加勢したいけど、どうすればいいんだ……」


 俺にできることはなんだ?

 今の俺が割って入る隙なんかない。

 その向こうでは女の子が山賊二人の剣を華麗に躱していた。足下では俺の新しいパーティーメンバーである黒猫が忙しなく動き回っている。女の子をサポートしているのだろうか。


「うわっ!」


 目の前で派手なエフェクトが炸裂した。

 ヒナとドワーフが互いに強力なスキルを繰り出したようだ。威力は相殺されたのか、二人は大きく距離をとった。


「ヒナ、大丈夫か!」


「タイガくん!?」


 ヒナが肩越しにこちらを見た。


「三人の山賊はどうしたの!?」


「ああ、倒した」


「ホントに!? どうやって……?」


「パーティーメンバーが一人増えてるだろ? あの黒猫だ。(たまき)って

名前らしい。あの黒猫がバフをかけてくれてステータスが軒並み上がって、一瞬チート状態になった」


 俺が三人を退けたところを見ていなかったようだ。俺が勝てると思わなかったのだろう、ヒナは驚いているようだった。


「そ、そうなの……? え、使い魔? そう……あの猫ちゃん、使い魔なの!?」


 ヒナは黒猫の簡易ステータスを見て、何か思うところがあったようだ。

 それにしても、ヒナがパーティーメンバーが増えたことに気づかなかったり、俺を気にする余裕がなかったことから考えて、あのドワーフは相当厄介な相手らしい。


「それより、あのドワーフ強いみたいだな?」


「ええ、そうね。タイガくんは危ないから下がっていて!」


 やっぱり俺は足手まといか。

 そりゃそうだろう。ヒナが苦戦する相手に俺がつけいる隙なんて皆無だ。


 ドワーフは忌々しそうにヒナと俺を交互に見た。


「マルがやられたか……! 本当にこんなことをしてる場合じゃないってのによぉ」


 そう言ってアイテムストレージから見た目が毒々しいキノコを取り出した。


「【魔神茸】……!」


 ヒナが言うので、俺は訊いてみた。


「なんだそれは? なんに使うアイテムなんだ?」


「一時的にステータスを強化するアイテムよ。店には売っていないドロップ品の一つよ」


「マジか……!」


 ヒナと互角のドワーフがそれを使ったらヤバいんじゃないのか?

 俺の頬を冷たい汗が流れた。


「まさか、こいつを使うはめになるとはな……。ザックスと戦うときのために取っておきたかったんだが、仕方がない。俺たちはこんなところで死んでる場合じゃねぇからな」


「え……ザックス?」


 思いも寄らない名前がドワーフの口から飛び出した。

 なんでここでPK野郎のザックスの名前が出てくるんだ。


 ドワーフの言葉からして、山賊とザックスが仲間という懸念は払拭された。

 だけど……ザックスと戦う?

 この山賊たちもザックスと何か因縁めいたものがあるのだろうか。


「ザックスを知っているのか?」


「あぁ? なんだ急に?」


 ドワーフは俺の口から飛び出した名前に反応して、訝しそうにこちらを見た。


「お前たちのボスはザックスだと思っていたんだが、どうやら違うようだな」


「おいっ! ふざけんなッ! ザックスなんかと一緒にするんじゃねぇ!」


 気に障ったのか、ドワーフは怒鳴った。


「俺らのボスがザックスにやられたんだよ! フレンドリストからボスの名前が消えてるから、引退まで追い込まれたはずだ! あのクソ野郎は、俺がぶっ殺してやらねぇと気が収まらねぇ! だから、お前らなんぞに構ってる暇はねぇ!」


 なるほど。

 こいつら山賊はザックスと敵対しているらしい。しかも、ボスがザックスにやられたようだ。

 このドワーフは山賊のナンバーツーらしいから、こいつを倒せばほぼ壊滅させたも同然か。

 にしても、ザックスは相手が山賊でもPKしてるんだな。本当に手当たり次第って感じだ。


 こいつらはボスの仇を討つべくザックスを探していたところ、俺たちに遭遇したといった具合か。

 ここはひとまず山賊と共闘してザックスを……いや、それはないな。すでに山賊はPKを繰り返し、善良なプレイヤーに被害が出ている。そんな悪党を手を組むなんてできるはずがない。


「タイガくん、下がって! 【魔神茸】を使われたらタイガくんを守る余裕はないわ!」


 ヒナが言い終えると同時に、ドワーフは【魔神茸】にかぶりついた。そしてゆっくりと咀嚼して嚥下する。


 なんだ……?

 何が起こるんだ?


「ふふっ! はははっははははは! 滾るッ! 滾るぞおおぉッ!」


「タイガくん、巻き添えを食うといけないわ! もっと下がって!」


「いや、でもっ……!」


 元々筋肉質だったドワーフの体が、一回り大きくなったように見えた。その体からは湯気のような煙があがっている。


「うおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 ドワーフが吠えた。


「来るわ!」


 ヒナは剣を構えて迎える準備を整える。

 ドワーフはヒナに向かって駆け出した。だが、途中で進路を変える。


「俺狙いか……!」


 ドワーフはヒナではなく、確実に仕留められるであろう俺を標的に据えた。

 俺にドワーフの攻撃に耐えるだけの力があるのか? いや、ないだろう。ドワーフもそう判断したに違いなかった。


「タイガくん!」


 ヒナが俺に向かって走り出す。

 ドワーフとヒナ、二人が俺に向かって全速力で駆けてくる。しかし、ドワーフのほうが僅かに距離が近い。このままではヒナのフォローは間に合わない。


「もらったあああぁぁああッ! 《ブレイクソード》ッ!」


 目前に迫ったドワーフのスキルが発動する。

 ドワーフの後方三メートルにまで追従していたヒナのフォローは間に合わない。

 俺のレベルじゃ、ドワーフの攻撃を躱せない。それなら、万に一つの可能性にかけて剣で防ぐしかない。まともに食らうよりHPの減りは少ないはずだ。


「タイガくん! くっ……!」


 その瞬間、ヒナの体が俺とドワーフの間に滑り込んだ。そして、俺の代わりにドワーフのスキルをまともに浴びる。

 ヒナがスキル<庇う>を発動させたのだ。

 ヒナのHPが6,930から3,974へ一気に四割近く減少した。ヒナの物理防御力は3,514。そのヒナに3,000近いダメージを与えたことから考えて、ドワーフの攻撃力は6,500以上もあったはずだ。

 物理防御力844の俺では5,600ものダメージになっていただろう。HPが3,852の俺は間違いなく即死だった。


「タイガくん、大丈夫?」


「俺はなんともない! それより俺のせいでごめん!」


「気にしないで! 【魔神茸】で彼のSTRは50%アップしているはずだわ! 持続時間は三十秒よ! その間は何があっても近づいちゃ駄目!」


 ヒナは俺の胸を手で押して下がらせる。

 ドワーフの攻撃は止まらない。【魔神茸】の効果は長くは保たないから、俺だけを執拗に狙うわけにはいかない。今はより近いヒナを標的に定めただろう。


「バフが効いてるうちに、どっちか片方はやらせてもらうぞッ!」


 ドワーフが耳をつんざくような大声で叫んだ。

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