027 バフ
「三人も……!」
俺はヒナと背中合わせになる。
「ヒナ、三人増えた!」
「マズいわね……!」
「マル、そのガキを頼む。その間、この【精霊騎士】は俺が相手する」
マルと呼ばれた山賊は凄まじい早さで近づいてくる!
「こんなところで何してんだよッ! こんなことしてる場合じゃないだろう!」
「すまんな。マルが近くにいて助かった。ここに長居したくねぇ、さっさと終わらせるぞ!」
「そのつもりだ!」
振り下ろされるマルの剣を俺はなんとか受けきった。
背中に触れていたヒナが離れた。ヒナもドワーフと交戦に入ったのだ。
俺は目の前の三人に集中するしかないッ!
「うああああああっ! 《ヘヴィクラッシュ》ッ!」
同時に、マルと一緒にいた二人の山賊が俺の剣に自らの剣を振り下ろした。
「「《ウェポンブレイク》!」」
山賊二人の声が見事にハモった。二人の剣は俺の剣を挟み込んだ形だ。三本の剣が交錯する。
剣を握っていた俺の腕が痺れた。
「てめぇの武器をぶっ壊してやるよッ!」
「ひゃっはー! いつまで保つかな?」
「おい、マル! そいつらに遊ばすな! とっとと始末しろ!」
背後からドワーフの声が聞こえる。
「何をそんなに慌ててる。六対三だぞ? 負けるわけがないだろう」
マルが余裕の笑みを浮かべる。
こいつらは数的優位だから油断している。仕掛けるなら今しかない!
俺は眼前のマルに体当たりを強行した。
「こいつ……!」
俺の肩がマルの胸を打った。金属鎧同士がぶつかる。
直後、俺は剣を横に薙いだ。
「《ヘヴィクラッシュ》ッ!」
狙ったのはマルではなく、傍にいた山賊の一人だった。
不意を突かれた山賊は、俺の《ヘヴィクラッシュ》をまともに浴びた。
HPバーが三割ほど減少したのを視界に入れつつ、俺は二撃目を繰り出した。
相手はまさか自分が攻撃されると思わなかったのだろう。反応が遅れていた。
「このっ……野郎ッ!」
《ヘヴィクラッシュ》を連続で受けた山賊のHPは四割まで減った。
あと二撃で倒せるッ!
そして追い打ちをかけると見せかけて、背後に迫るマルに向かって《ヘヴィクラッシュ》を放った。
「ちっ、ガキが!」
マルは剣で受ける。
背後では山賊が剣を振り下ろしたようだが、マルに向き直ったおかげで上手く回避できたようだ。
俺は地面を蹴って後ろに跳んだ。全体重をかけた体当たりだ。
「ぶはっ!」
次の瞬間、俺の背中に衝撃が走った。
山賊の顔面にでもぶつかったのだろう。
そのまま、山賊ともども地面に倒れる。
「《ヘヴィクラッシュ》ッ!」
俺は半身を起こした体勢で、下敷きになっている山賊の肩に攻撃した。しかし、剣は光らず通常攻撃になった。変な体勢でスキルを使ったため、正しく発動しなかったようだ。
それでも二割は削れてる。残るHPは二割近くまでなっていた。
俺は体当たりでダメージを負ったのか僅かにHPが減った程度だ。
「調子に乗るんじゃないッ!」
マルが目の前に迫ったので、俺は慌てて飛び退いた。
振り下ろしたマルの剣が山賊の胸を斬り裂いた。
「くそっ!」
俺が避けたため、同士討ちのような形となった。
HPを全損した山賊は半透明になる。
マルが怒りの形相で俺に詰め寄ってくる。
「ふざけた真似しやがって! こんなところで無駄死にしてる場合じゃないってのによぉ!」
「トドメを刺したのはお前だろ?」
「うるっせぇええ!」
一人減ったところで二対一、相変わらず俺が不利な状況に変わりはない。
マルの隣にはもう一人の山賊が剣を構えて様子を窺っている。
「こっちは一人やられた! あとでその分はきっちり請求するぞ! おい、聞いてん……!?」
マルがドワーフに向かって言ったが、様子がおかしい。
俺もドワーフと交戦していたはずのヒナのほうに目をやった。
「なん……だと?」
マルが目を見開いていた。
ヒナとドワーフは一進一退の攻防を見せていた。スキルの応酬。互いに一歩も譲らない。共に攻撃を受けたのかHPは少し減っていた。
レベル50のヒナと互角!?
「あいつと渡り合ってる……だと? おいおい、マジか!」
「マル、こいつらヤベぇぞ。あいつは俺たちの中じゃボスに次ぐ強さだ。あいつが苦戦しているなら、俺たちが勝てる相手じゃない!」
マルたちも驚いているようだ。
しかしあのドワーフが山賊のナンバーツーだったか。
こいつの言葉からマルたちはドワーフより格下のようだ。俺にとっては強敵だが……。
「くそ、なんなんだ! このガキをやって、あっちに加勢するぞ! こいつはさほど強くはねぇ! スキルのダメージから見て、レベル30台後半ぐらいだろう」
「そ、そうだな。レベル40の俺らのほうが有利なはずだ」
ヒナはドワーフの相手で手一杯だ。目の前の二人は俺が倒すしかない。
だが、どうする?
レベル40の相手に、レベル35の俺がどう立ち回る?
もう奇襲は通用しない。
かといって正攻法では勝ち目はない。
そう考えているとピロン、と軽妙な効果音が頭の中に鳴り響いた。
俺の視界にメッセージウィンドゥが現れる。
『環 さんからパーティー加入申請が届いています』
……え?
俺はもう一度メッセージを凝視した。
すると、馴染みのある新たなウィンドウが出現する。
『環 さんからのパーティー加入申請を受けますか? Yes/No』
たま……き?
戦闘中にパーティー申請!?
山賊が俺にパーティー申請をするとは思えない。だとしたら、あの女の子なのか?
俺が戸惑っているのも知らずに、マルは容赦なくその距離を詰めてくる。
どうしてこの状況で、あの女の子がパーティー申請を出してくるのかわからないが、無策の俺はそれにすがる他なかった。
『Yes』をタップして、承認した。
途端、メッセージウィンドゥが立て続けに現れては消えていく。
「お、おい……なんだ!?」
『STRが上昇しました』
『VITが上昇しました』
『INTが上昇しました』
『MNDが上昇しました』
『DEXが上昇しました』
『AGIが上昇しました』
俺のステータスが軒並み上昇した旨のアナウンス。
簡易ステータスの名前の横には初めて見るアイコンが並ぶ。剣のマークや楯のマークといった感じだ。八つあることから、たった今上昇したステータスを示していると思われる。
続いて、チャットメッセージが届く。
『そのバフ三十秒しか保たないから、早く片付けて』
言わずもがな、メッセージを送信した相手はあの女の子だろう。
そのメッセージを透過して、マルが剣を振り上げるのが見えた。
「くっ……!」
俺は剣を構えてマルの攻撃を――――避けた。
マルが驚いた表情で固まっているが、俺もほぼ同じ反応だ。まさか、こんなに綺麗に避けられるとは思わなかったからだ。正直、多少のダメージは覚悟していた。それが体が軽く感じて、素早く動けたのだ。
「AGIが上昇したから……?」
あの女の子が魔法かスキルで、俺のステータスを強化してくれたのか?
なんにせよ、今のマルは隙だらけだった。
「《ヘヴィクラッシュ》ッ!」
慌ててこちらに向き直るが、もう遅いッ!
「はああああああああああッ!」
俺の《ヘヴィクラッシュ》がマルを斬った。
マルの鎧を切り裂いて、その胸から血が噴き出した。
「うおおぉおおおぉおおおッ!」
マルが大きな声で悲鳴を上げる。
なんとHPバーが急速に左端に向かって減っていく。
こ、これは……!
HPバーは一ミリも残すことなく、左端に到達した。
つまり、HPは0だ。
「う、嘘だろ……?」
残った山賊が声を漏らした。
俺も同じ感想だ。このマルはさっきの山賊と同等かそれ以上だったはずだ。それを《ヘヴィクラッシュ》一撃で倒したのだ。単純計算で三倍以上のダメージを出したことになる。
「いったい、どんだけステータス上昇したんだよ?」
俺は目の前で地面に倒れて半透明になったマルを見下ろして呟いた。
ダメージが増したということは、物理攻撃力に大きく関わるSTR、DEX、AGIの値が影響しているのはわかる。
「てめぇええええぇッ!」
山賊は激高して剣を振り上げた。
その動作が酷く緩慢に見える。
俺は左に避けると、山賊の腹を剣で薙いだ。
またもや一撃。山賊のHPが全損し、俺の足元には三つの死体が転がっていた。
ちょうど、俺の簡易ステータスに表示されていたアイコンが消滅する。
視界の端にあるパーティーのステータスを見ると、女の子――環のそれが表示されている。
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環
動物
レベル:50
職業: 使い魔
職業レベル:168
HP(生命力):4,380
MP(魔力):938
SP(技力):375
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え……?
種族が……動物? ジョブが【使い魔】?
まさか……あの黒猫か?
猫が俺にパーティー申請を出したってのか!
「ニャン」
俺の心を読んだかの如く、黒猫が返事をしたように聞こえた。




