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002 キャラクタークリエイト

本日2話目です。

 目を開けると――――何もない場所に俺はいた。

 視界一面に広がる真っ白な空間。そのせいで広いのか狭いのか判断がつかない。ただ白色で埋め尽くされていた。


「お待ちしておりました」


 急に背後から声をかけられて、俺は慌てて振り返った。

 そこにいたのは女性。

 映画やゲームで見るような西洋風で幻想的な装いをした女性が、笑みを浮かべて佇んでいた。

 おそらく俺に話しかけているのだろう、困惑しながら挨拶を返す。


「……どうも。…………?」


 短く言って、俺は軽く会釈した。

 女性の背丈は姉貴と同じぐらいだろう。姉貴の身長は百六十センチだ。いや、背丈だけじゃない。体型もどことなく似ているような気がした。胸も同じくらい大きい。まさか……。こいつ……姉貴か? いやいやいや、そんなわけないな。顔が全然似ていないし、第一この女性は外国人で金髪碧眼だ。何故か日本語ペラペラだが、それはゲームだからだろう。

 そんなことを考えていると、女性が語り出した。


「私は女神イリス。ようこそ、<Daydream(デイドリーム) Online(オンライン)>の世界へ。貴方は162,356,878人目の来訪者です」


「い、一億六千…………!?」


 このゲームは確か発売されて三ヶ月かそこらだったはずだ。他のゲームと比べて多いのか少ないのか俺には判別できないが、一億六千万人という数は俺を驚かせるには充分な数だった。一度だけプレイして止めた人もいるだろうし、実際のアクティブユーザーはどのくらいいるんだろう。

 そして女神を自称するイリスという女性は、本物の人間にしか見えなかった。

 女神様がお迎えか……。

 三十年以上前、異世界転生というジャンルの読み物がブームになったことがある。現実世界で死んだ人間が、異世界に転生する物語だ。そうして死んだ人間は、女神様からチート能力を与えられて例外なく異世界で活躍するのだ。

 父さんがライトノベル好きで、書斎はその手の本で埋め尽くされている。かく言う俺も幼い頃から嗜んでいた。

 まさか、それを踏襲しているのか?


「ここでは簡単な設定と、この世界で貴方自身となるキャラクターをクリエイトします」


「なるほど。そういう場所か」


「はい。まず最初に出自(しゅつじ)を決めます」


 出自……、自分の生まれか。

 女神イリスは頷いて右腕を肩の高さまで上げると、その腕を伸ばして手を広げた。その手が光ったかと思うと次の瞬間、俺の目の前にウィンドウが現れて意味不明な文字列が表示された。

 文字は常に目まぐるしく変化していて、はっきりと読み取れない。目を凝らすが、分かる範囲だと……《人》って字があるような無いような……。


「お好きなタイミングで止めてください」


「……これ、ルーレットみたいな感じなのか? 出自はランダムで決まるのか?」


「はい」 


 キャラクタークリエイトと言っておいて、いきなり運要素があるのか。ランダムだとしたら、悩んでいても仕方がない。


「え……と、これでいいのか?」


 目押しなんてできるはずもないし、ゲーム知識のない俺は出自の優劣なんて解らない。俺は高速で変化する出自にゆっくりと手を伸ばし、深く考えずにタップする。

 ランダムに表示される出自の速度が、俺のタップと同時にぐんと落ちる。本当にルーレットみたいだな。出自が一つずつ切り替わる。やがて、表示は固定された。


 『出自:平民』


「決まりました。貴方の出自は平民です」


「要するに普通の人ってことか。ちなみに他の出自にはどんなものがあるんだ?」


「そうですね。所謂(いわゆる)、レアと呼ばれるもので言えば、王族や貴族。それ以外には商人や孤児、他にも百を超える出自が用意されています。それぞれ出現率が決まっていて、平民は一番出現率が高い出自になります」


「可もなく不可もなくってやつか。なるほど。商人があるということは、この平民というのは本当にただの一般家庭の生まれっていう解釈でいいんだな?」


「はい」


 女神イリスは髪をかき上げて、薄く微笑んだ。

 ふぅん、人間らしい仕草をするんだな。

 俺との会話も人工知能とは思えない精度で、本物の人間と話している感覚に陥る。


「これで貴方はこの世界に生を受けました。次に種族を決めます」


「当然これもランダムか」


「いいえ。四種類の種族から選べます」


「そうなのか。よし、サクサク進めよう」


 提示された種族は人間、エルフ、ドワーフ、獣人(じゅうじん)の四種類だ。

 ご丁寧に四種族の男女合わせて八つのキャラクターが表示されている。人間、エルフ、ドワーフはわかる。獣人も想像どおりで男は厳つい獅子のような頭で、女は猫耳に尻尾がついている。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 <人間>

 STR+7%

 VIT+4%

 INT+18%

 LUK+1%


 <エルフ>

 VIT-8%

 INT+20%

 MND+12%

 AGI+9%


 <ドワーフ>

 STR+8%

 VIT+13%

 DEX+10%

 AGI-1%


 <獣人>

 STR+19%

 VIT+21%

 INT-22%

 AGI+14%


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 各種族ごとにステータスの補正があるらしく、項目と数値が表示されているが知識のない俺にそれの優劣をつける術はなかった。


「それぞれの初期ステータスって見られるのかな? あと種族ごとの特徴があるなら教えてくれると助かるんだけど」


「はい。レベル1だと比較しにくいと思いますので、現時点でのプレイヤーの平均レベルをお見せします。それぞれレベル32だとこうなります」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 <人間>

 レベル:32

 職業: なし

 職業レベル:0

 HP(生命力):3,225

 MP(魔力):362

 SP(技力):154

 STR(筋力):240

 VIT(体力):100

 INT(知力):76

 MND(精神力):32

 DEX(器用度):96

 AGI(敏捷度):64

 LUK(幸運度):97


 <エルフ>

 レベル:32

 職業: なし

 職業レベル:0

 HP(生命力):2,856

 MP(魔力):369

 SP(技力):154

 STR(筋力):224

 VIT(体力):88

 INT(知力):77

 MND(精神力):36

 DEX(器用度):96

 AGI(敏捷度):70

 LUK(幸運度):96


 <ドワーフ>

 レベル:32

 職業: なし

 職業レベル:0

 HP(生命力):3,501

 MP(魔力):307

 SP(技力):169

 STR(筋力):242

 VIT(体力):108

 INT(知力):64

 MND(精神力):32

 DEX(器用度):106

 AGI(敏捷度):63

 LUK(幸運度):96


 <獣人>

 レベル:32

 職業: なし

 職業レベル:0

 HP(生命力):3,747

 MP(魔力):240

 SP(技力):154

 STR(筋力):267

 VIT(体力):116

 INT(知力):50

 MND(精神力):31

 DEX(器用度):96

 AGI(敏捷度):73

 LUK(幸運度):96


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「これはあくまでも基本のステータスになります。実際はここから装備を身につけると数値は上下し、それを元に攻撃力や防御力が算出されます。種族ごとの特徴ですが、人間は万能型、エルフは魔法型、ドワーフは生産型、獣人は戦闘特化型です」


「HPとSTRの数値が高いし、獣人って強そうだな。でもMPやINTが低いのか。ドワーフが生産型ということは、このゲームは何かを作ったりできるということなのかな?」


「はい。アイテムを合成したり、武器を強化したりですね。これらにはDEXの値が重視されます。初心者の方にお勧めしているのは、やはり万能型の人間ですね。LUKに+1%の補正がありますから、モンスターからのドロップ品の獲得率が上がります」


「……たった1%だけど?」


「とんでもない。たった1%と侮るなかれ、その1%の確率を求めてプレイヤーは繰り返しモンスターと戦うのです」


 なるほど。

 といってもこれは悩めば悩むほど時間を浪費するパターンだな。姉貴の<DO(ディーオー)>を無断使用してお試しでプレイしているだけだし、ここは無難に万能型の人間でいくか。


「じゃあ、人間でいいよ」


「わかりました。貴方の種族は人間に決定です」


「うん」


 これも他にどんな要素でステータスに変化があるか訊くと、属性というものがあるらしい。詳しく訊こうとすると、女神イリスは小脇にブラックホールのような空間を出現させ、そこから分厚いハードカバーの本を取りだした。そしておもむろにページを捲ると「属性とは――」と語り始めたので、俺は慌ててストップした。


「ごめん、時間かかりそうだからまた今度で……」


「そうですか? 1時間ほどで説明できますが」


「いや、次いこう、次」


 さすがに説明だけで1時間は勘弁して欲しい。俺が<DO>を起動させたのが午後七時過ぎだったはずだ。そんなに長い時間遊ぶ気はない。


「次は名前を決めます。お好きな名前をどうぞ」


「漢字やカタカナ、英数字なんかでもいいの?」


「はい」


 名前か。文字数は十文字までらしいが、俺は顎に手をやり名前を考える。とは言っても、俺はお試しで始めただけだ。今後続けるかはわからないので、別に本名でいいかと判断した。漢字のフルネームは個人情報の観点から少し抵抗があったので、俺はカタカナで名前を決定する。


「じゃあ、カタカナでタイガで」


「はい。タイガ、ですね?」


「うん」


「ゲームが始まれば、メニューウィンドウから名前を変更することが可能です。ただし注意点として、一度名前を変更すると現実時間で九十日間は名前の変更はできません。ですので、名前を変更する際はよく考えて実行してください。また、公序良俗(こうじょりょうぞく)に反する名前には変更できません」


「あ、途中で変更できるんだ」


「はい」


 それからいよいよアバターの造形に入った。骨格から肌や瞳、毛髪の色まで本当に自由自在だ。自分の顔をベースに作れると言うので、明るめの茶髪と燃えるような深紅の瞳に変えて、あとはそのままにした。

 仮に竜胆(りんどう)がこのゲームをプレイしているという噂が本当ならば、自分の顔をベースにしたのだろう。赤の他人が一から竜胆を造形するのは、困難を極めるだろうと感じた。何日も時間をかけて作るのなら別だが。


「決定ですか?」


 髪と瞳の色を変えるだけで結構印象は変わるものだな。まるで俺が愛読しているライトノベルの主人公のようだ。これで鎧を着て剣と盾を持てば、勇者や剣聖みたいだ。しかしながら俺のアバターは裸だった。正確にはパンツだけ履いている。

 先ほど全身をモデリングするために、自身の手で体中をなぞるように触ったが、写真を撮ったかのように忠実に再現されている。百八十センチと高身長で筋肉質な俺の体は造形した顔と相まって我ながら格好よく見える。


「ああ。これで問題ない。変じゃないかな?」


「え、ええ。ぷっ……、大丈夫です。カッコイイデスヨ」


「……いや、笑ってんじゃん」


 俺の容姿がそんなにおかしいのか、女神イリスは笑いを堪えるのに必死だった。後半など完全に棒読み口調だ。

 人工知能もやけにリアルだな。本物の女の子に馬鹿にされているようで、なんだか恥ずかしいな。


「では、初回ログイン記念のアイテムをお渡し……。お渡しします」


「ん……?」


 噛んだ? いや、詰まったのか?

 先ほどのアバター造形での俺の容姿を必死に堪えていた余韻からか、淡々と話していた女神イリスが本物の人間みたいに失敗した。

 リアル描写にこだわってるなぁ。俺はこのゲームの開発会社に少し興味を持った。開発会社の名前すら知らんけど。


 初回ログイン記念のアイテムは【ポーション】が三本だった。透明な瓶に紫色の液体が入っている。連続ログインボーナスなんてのもあるらしい。まだ続けるかわからないが……。

 それとアイテムストレージなるものをもらった。さっき女神イリスが出現させたブラックホール的なものだった。


 女神イリスがメニューウィンドウの操作方法を説明してくれる。言われたとおり意識するだけで、メニューウィンドウを開くことができた。ちなみに手動でも操作可能だ。

 あとは視線の動きからカーソルを動かして、意識すると押下できる。慣れるまではちょっと戸惑いそうかな。

 今もらったアイテムストレージは、メニューウィンドウに表示されているから、そこにアイテムや武器なんかを収納できる。早速、手に入れた【ポーション】を収納しておこう。


「あ、なんか数字が出てる。600/1,000,000ってどういう意味?」


「アイテムストレージには容量があります。そのアイテムストレージには1000キログラムまで収納可能です」


「なるほど。【ポーション】一つで200グラムか。もしかして、このアイテムストレージって他にも容量が大きなものが存在する?」


「はい。お店で買うことができます。他にも入手手段はありますが、それはご自身でお探しになってください」


「了解」


「他に質問がなければ、これでキャラクタークリエイトは完了です」


「んー。今は特に質問はないんだけど、後で気になった時はヘルプ機能みたいなものはあるのかな?」


「残念ですが、ヘルプ機能は搭載されておりません。ですがスタート後にチュートリアルがありますので、まずはそれで確認することを強く勧めます。それでは、今一度確認させていただきます。このままゲームをスタートしても宜しいですか?」


 ヘルプ機能がないのか。でもチュートリアルがあるらしいから大丈夫か。まぁ、わからなければ姉貴に聞いたり攻略サイトを見ればいいか。クラスメイトに訊くという手もある。

 …………いつの間にか継続してプレイする前提で思考していた。

 俺が腕を組んで考えを巡らせているのを、女神イリスは黙って眺めている。顔はこちらを向いているが、時折視線が別の方へ動いているのが妙にリアル。このまま俺が返事をしないと怒ったりするのかな? ずっと笑みを浮かべているので彼女の怒った顔は想像できない。

 あれこれ悩んでも仕方がないか。


「いいよ。じゃあ、ゲームを始める」


 女神イリスがこくりと頷いた途端、足下から俺を取り囲むように円柱状の光が放出された。

 ああ、これで冒険の舞台へ飛ばされるんだな。俺はそう得心した。


「それでは<Daydream(デイドリーム) Online(オンライン)>をお楽しみください。チュートリアルを忘れずに」


「ああ、わかった。チュートリアルね」


 女神イリスは念押しするようにチュートリアルを勧めてくる。二度も言うのだから重要なのだろう。


「それでは、貴方の夢に幸あらんことを」


 俺の体は光に包まれた。

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