019 山賊
初めて戦うモンスターには、まず全力攻撃を仕掛ける。それがこれまでの俺のやり方だった。そうすることで、俺の攻撃がどのぐらい通じるのか把握できる。
俺はハーピーに向かって走り、その手前で大きくジャンプした。
ハーピーがいるのは俺の頭上より高い位置だが、ジャンプして剣を振るえば足には届くと考えた。
「うおおおおおッ! 届けッ! 《クラッシュ》!」
その瞬間、ハーピーが避けようとしたのか高度を上げた。しかし俺の《クラッシュ》はハーピーの足を捉えることに成功する。
「Gyaaaaaaaaaaaaa!」
鳥みたいな左足から血が噴き出し、ハーピーは甲高い悲鳴を上げた。
HPバーを見るとダメージは一割ほどだった。
「たった……一割ッ!?」
地面に着地した俺の胸目がけて、ハーピーが右足でキックする。
「うっ……!」
その衝撃で俺は後ろに三歩下がった。
今のダメージは118。現在の最大HPが1,156なので、こちらも一割ほどのダメージだ。
どうやら俺と同じぐらいの強さらしい。
「同じことを繰り返すだけだと負けるぞー。タイガの攻撃、そいつのHPの7%しか削れてないから」
「な……マジか!?」
背後からシマンが教えてくれる。シマンは俺とハーピー両方のHPを視認できるので、その指摘に間違いはないだろう。
だとしたら同じ攻防を繰り返すだけでは、先にHPが尽きるのは俺のほうか!
だが、同じ展開にはならなかった。
俺が三回攻撃する間に、ハーピーに八回も攻撃されたのだ。理由はハーピーが空を飛べることにあった。俺は空中を自由に飛び回るハーピーのいいように翻弄されていた。
現在ハーピーのHPバーは六割ほど残っている。
対して俺のHPは僅か70。つまり、あと一撃でももらったら確実に死ぬ。途端、体中から汗が噴き出した。
ハーピーは地面から五メートルの高さまで避難しているので、俺の攻撃はもう届きそうにない。
「よし、タイガ。ちょっと後ろに下がってろ。で、【ポーション】を一つだけ使え」
「あ、ああ……、わかった!」
俺はシマンの指示に従ってハーピーから距離をとると、アイテムストレージから素早く【ポーション】を取り出して飲んだ。
HPは290回復して360になった。サブジョブの【薬師】のパッシブスキル《ポーション強化》で【ポーション】の回復値に+10%されているとはいえ、心許ない回復量だ。
続けて【ポーション】を飲みたい衝動に駆られるが、シマンが一つだけと言うからには考えがあるのだろうと我慢する。
「俺があいつを空から落とすから、トドメを刺すんだ。一撃で倒せるようにハーピーのHPを削ってやる!」
「お、おう!」
ハーピーのHPはまだ六割近く残っている。
シマンはどうするつもりなのか。
「行くぜッ! 《燕返し》ッ!」
シマンが抜刀し、一閃。
振るった刀から残像のようなものが飛び出し、ハーピーを無残に切り刻んだ。
体中から血を噴き出して地面に落ちてくるハーピー。
シマンが納刀すると同時に叫ぶ。
「今だ! あと一撃で倒せるから《クラッシュ》を叩き込め!」
俺は一気に間合いを詰めた。
シマンの言ったとおりハーピーのHPバーは一ミリほどの線にしか見えない。間違いなく一撃でも当たれば勝てる!
「おおおおおッ! 《クラッシュ》ッ!」
ハーピーは諦めたのか抵抗することなく俺の《クラッシュ》を受けて、光の粒子となって消えた。
直後、レベルアップのファンファーレが頭の中に鳴り響いた。
『レベル20に上がりました』
『HPが122上がりました』
『MPが14上がりました』
『SPが6上がりました』
『STRが8上がりました』
『VITが3上がりました』
『INTが2上がりました』
『MNDが1上がりました』
『DEXが3上がりました』
『AGIが2上がりました』
『LUKが3上がりました』
「いやぁ……シマンの手柄なのに、レベルが上がってしまった。いいのかな?」
「おお、よかったじゃんか! ハーピーにトドメを刺せたから、次からはあいつのHPが可視化されるぞ」
いや、実質シマンが倒したようなものだが……。
「でも、あの技……あれは【侍】のスキルなのか?」
「ああ、そうだ。俺が《燕返し》を出す直前のハーピーのHPが1,000と少しぐらいだったんで、《峰打ち》を使ってダメージを調整したんだ。地面に落ちてきたハーピーのHPは30ぐらいの瀕死だったはずだぜ。仮にタイガがカウンターを受けても一撃には耐えられるぐらいHPは残ってたし、お前の攻撃がかすりさえすれば勝てたたからな」
シマンが使ったのは【侍】のスキル《燕返し》で、対空用のスキルだそうだ。ただ、《燕返し》だとハーピーを倒してしまうので、同時に《峰打ち》というスキルを使用して手加減したらしい。
《峰打ち》はダメージを調整できるスキルで、攻撃力を10%~40%の間で任意に調整できるようだ。
ちなみに《燕返し》のほうは、かの有名な佐々木小次郎が編み出したと言われているが、<DO>のそれは名前こそ同じだが全然別物だそうだ。
そういったスキルが他にもあるとシマンは教えてくれた。
というか、シマン強えぇ!
そこから少し歩くと、目の前の地面にどこからか飛んできた矢が刺さった。
「うわっ! この矢はどっから飛んできたんだ!?」
「あそこの木の陰からだ。見ろよ、あれがケンタウロスだ」
シマンが指した方向に目をやると、そこにモンスターがいた。
上半身は人間で下半身は馬の姿だ。こいつがケンタウロスか。
手には弓を持って、背中には矢筒を背負っている。
だが、現れたのはケンタウロスだけではなかった。
そのうしろから、顎髭を蓄えた凶悪な面構えの人間が出てきたのだ。
「おい、人もいるぞ!? どうなっているんだ?」
人間がモンスターと一緒にいる光景が、不思議で仕方なかった。
「ありゃ、山賊だな。ケンタウロスを《テイム》してやがるな」
「《テイム》?」
「話はあとだ。今はあいつらを倒すことに専念しよう。ケンタウロスの放つ矢には、稀に毒矢が混じっていることがあるから気をつけろ」
「毒……矢?」
毒攻撃を受けると毒に冒される場合がある。毒状態になると三十秒ごとにHPが1%減少するそうだ。つまり解毒しないと五十分で……死ぬ?
「安心しろ。雑魚モンスターが使う軽度の毒なら三十分で自然治癒するんだ。危険なのは猛毒だな。これは自然治癒しないから、回復しないと確実に死を迎える」
「おい、ケンタウロスの毒矢はわかったけど、山賊のほうはどうするんだ?」
俺が訊くと、シマンは刀の柄に手をかけた。
「降りかかる火の粉は払うしかないだろ? 山賊は俺がやる。タイガはケンタウロスを頼む」
シマンがそう言うからには、山賊のほうがケンタウロスより強いのだろう。
俺にあのケンタウロスを倒せるのか?
「何をこそこそ話しているッ! 俺は<ハリザラ山>を根城にしている山賊だ! 痛い目に遭いたくなかったら金と装備を置いていけ!」
山賊は剣を抜いて恫喝してきた。
対するシマンは冷静だ。自信があるのだろ……いや、そうでもなかった。
「《テイム》を使えるということはクラス3ジョブまで取得してやがるな。最悪、俺よりレベルが上の可能性もあるな」
「大丈夫なのか?」
「わからん。悪いが、ケンタウロスまで気が回らん。そっちはタイガに任せるぞッ!」
言うなり、シマンは駆け出した。




