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016 先を目指す

 ヒナのお兄さん――竜胆虎徹(りんどうこてつ)が失踪した件での警察の見解は、単なる失踪もしくはゲームで交流した誰かとトラブルになり事件に巻き込まれた。その両方で捜査は進められているらしい。

 そのこともあってヒナの両親は、彼女がゲームをすることをあまり快く思ってはいないようだ。なので<DO(ディーオー)>をプレイする時間は限られている。対して俺は、今後時間の許す限りレベル上げに徹するつもりだ。ヒナがいない時間はソロでプレイすることになるだろう。


時間が惜しいので、俺たちは次の町を目指して街道を歩きながら話をしていた。


「う~ん。シマンには何て言い訳しようかな……」


 シマンとプレイするために<ハオリオの町>に戻っている時間はないだろう。そう考えを口にすると、ヒナがいいことを教えてくれた。


「一度行った町へは<ゲート>を使えばいつでも行き来できるのよ」


「<ゲート>?」


 <ゲート>とはどの町にも存在するワープ装置みたいなもので、一度でも行ったことのある場所へは時間経過なしで瞬間的に移動できるらしい。

 これにより、俺は歩いて二時間かかる<ハオリオの町>へも瞬時に移動できる。ヒナは遠くの町にも行ったことがあるので、ここから<ゲート>を使って移動可能だ。しかし仮に俺が一緒に<ゲート>を使っても、俺が行けるのは現段階では<ハオリオの町>だけのようだ。


「そうか! だったらヒナがログインしていない時間は、シマンとパーティーを組めるのか」



 一時間後、次の町に辿り着く。

 俺たちは町を通り抜けると、反対側の門から外に出た。


「この町ではどこにも寄らないのか?」


「ええ、これといって特に真新しいものはないのよ。それに今のタイガくんのレベルじゃ、この周辺のモンスターでは物足りないと思うわ」


「そうなのか」


 この町に着くまでモンスターとの戦闘は発生していない。街道を通ってきたのでモンスターとは遭遇しなかったのだ。


「街道にはモンスターは出ないのか?」


「序盤のこの辺りだけよ。先へ進むと街道にもモンスターや野盗、山道にもなると山賊が出没することもあるの」


 なるほど。初心者に優しい仕様か。

 先に進むと街道でもモンスターが出るらしい。山には山賊まで出るのか。ということは相手はモンスターではないのか。いや、その山賊とやらはモンスター扱いなのか? それともNPC……もしくはプレイヤーだったりするのだろうか?

 俺は疑問に感じてヒナに訊ねた。


「モンスター……ではないわね。大抵は人間や獣人が山賊として姿を現わすわ。もちろん、プレイヤーもいるわよ」


「……PK? ……ザックスみたいな?」


 俺はPK野郎のザックスを思い浮かべた。


「そうね」


 ヒナは短く相づちを打つと、それ以上ザックスの話題に触れることはなかった。

 ザックスは去り際に言っていた。



『【暗黒騎士】でお前とやり合うのは、ちと分が悪いみてぇだな。わぁーった。今回は手を引いてやる。だがお前の面は覚えたからなぁ……それと男のほう。お前もだ! 俺様に傷をつけた借りはいずれきっちり返させてもらうぜ?』



 ただの捨て台詞か。それとも今後、俺たちを狙うつもりなのかはわからない。

 だけど、ザックスがPKをしているのは<マクイナの森>だったから、ヤツと遭遇することはないか……。

 いや……待てよ。

 俺はさっき、ヒナから<ゲート>について教えてもらったばかりだ。ザックスのレベルなら、もっと先の町へ到達していてもおかしくはない。

 そうなると、ザックスが<ゲート>を使い俺たちの先回りをすることも十分可能だろう。


 いずれ戦うことになるのだろうか。

 ザックスの言葉に嘘がなければ、俺たちを狙うのはあり得るな……。

 警戒だけはしておこう。

 とは言っても今の俺のレベルじゃ、ザックスには太刀打ちできないだろう。

 なんとしても早急にレベルを上げないといけないな。




 更に一時間ほど歩くと次の町に着いた。

 ここから先に進むには山を越えないと行けないようだ。大きな山ではないが順調に進んでも<DO>時間で四時間はかかるらしい。ヒナが限られたログイン時間では山越えは無理だと判断して、俺たちは時間の許す限り周辺でモンスターを狩った。

 とは言ってもヒナは戦闘に参加せず、俺の戦いを見てアドバイスをくれるような感じだ。この辺りのモンスターも今の俺には強敵とは言えず、確実に経験を積んでいく。


「これなら、俺ひとりでも山を越えられそうだな」


 俺のつぶやきが聞こえたのか、ヒナは即座に窘める。


「駄目よタイガくん。戦闘にも慣れてきたころだしこの辺りのモンスターは弱いから、そういうことを言い出すんじゃないかと思ってたら……もぅ!」


「え、駄目なのか? そのほうが次に一緒にパーティーを組むときは、先の町から始められるだろ? 時間的にもそっちのほうが効率的だよ」


「ここに来る途中で話したでしょ? もう忘れちゃったの? 山には山賊が出るのよ。相手が一人とは限らないわよ。むしろ多数で徒党を組んでいると考えるのが普通よ。タイガくんがソロで山に入るのは危険すぎるから賛成はできないわ」


「そうか……。もし向こうが俺よりレベルが低くても、大勢に囲まれたらヤバイかもしれない。……わかった。ヒナがいない間は大人しくシマンとレベル上げをしておくよ」


「ええ、それなら私も安心。私がいない間にデスペナなんてやめてよね」


 ヒナは頬を膨らませた。


「ああ、わかったよヒナ先生。危ないことはしないよ」


「……ヒナ先生? もぅ、何よそれ」


 顔を見合わせて笑う。


 ヒナ先生を怒らせないよう、いくら気が急いても危険を冒す真似はしないと誓った。

 いや……でもシマンとなら……。

 シマンのレベルは40に達している。あいつと一緒なら山越えは楽勝に思える。これはいい考えじゃないか? ヒナがいない時間はシマンと先へ進む。どちらとも時間が合わないときは、ソロで安全な場所でレベル上げに徹すれば……。


「ヒナ、一つ考えがあるんだけど。ヒナがいない時間、俺はシマンに協力してもらって先へ進もうと思ったんだけど……どうかな?」


「却下」


「へっ!? なんで?」


「それって私とシマンくんが遭遇する危険はないかしら? 私はもの凄く嫌な予感しかしないんだけれど」


 ヒナがジト目で俺を睨む。もちろん怒ってはいない。少しばかり呆れられたぐらいだろう。

 確かにヒナの言うとおり、二人が遭遇する危険はないとは言えない。しかし、そこは俺がいるのだ。そうならないように立ち回るぐらい簡単に思えた。


「大丈夫だって。そこは俺が上手くやるから。ヒナとシマンが同じ町に滞在しないように計らうよ」


「まったく……何を根拠に言うのよ。それにシマンくんがそう都合よく協力してくれるかしら?」


 ……シマンの都合を完全に考えていなかった。

 だが親友である俺の頼みを無下に断るはずもないだろう。

 俺は腐れ縁の顔を思い浮かべて苦笑した。


「ああ……シマンは今【侍】のレベル上げとやらに夢中らしいが、同時に俺のレベルも上げて早く使えるようにしたいはずなんだ。現状じゃシマンが満足するようなクエストも受けられないしな。だからアイツは俺が頼めば喜んでレベル上げに付き合ってくれると思う」


「そうなの……? シマンくんは何かタイガくんでないといけない理由があるのかしら? レベルが40もあればフレンドもたくさんいるはずだし、パーティーを組むにも事欠かないはずよ」


 そう言ってヒナは首を傾げた。


 学校ではカースト上位のグループに属するヒナが、俺やシマンの交友関係がごく狭い範囲に限定されることなど知る由もないだろう。別に“ぼっち”というわけじゃない。だけど友達の少ない俺やシマンが、<DO>内で上手に人付き合いができるとはあまり思わない。ヒナには理解し難いかもしれないが、つまりそういうことだった。


「あー……。それは察してやってくれ」

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