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015 竜胆虎徹

『<ウルカタイの迷宮>深層で待つ。 K』


 カードに書かれていたメッセージ。このKというのは虎徹(こてつ)のKか。


「じゃあ、このメッセージはお兄さんからヒナに……?」


「間違いないわ。兄からのメッセージよ」


「いったい、どんな意図が……?」


「文面のとおりよ。<ウルカタイの迷宮>……その深層で私を待っているみたいだわ」


 ヒナによると<ウルカタイの迷宮>は、現在世界の果てを目指す最前線組が攻略中のダンションのひとつだという。推奨レベルが40以上と、現段階では最難度のダンジョンだ。


 現実世界で行方不明中の竜胆虎徹は、<DO(ディーオー)>内でヒナにメッセージを残していたのだ。だがその目的はわからない。

 警察にも捜索願を出しているそうだが、依然として手がかりが掴めないという。


「まさか、ヒナが<DO>を始めたのは、お兄さんを探すためなのか?」


「実は……そうなの。兄がいなくなったとき私の机の引き出しに、これと同じカードが入っていたのよ」


「本当か!? そのカードには何て書いてあったんだ?」


「……信じられないと思うけれど……。こう書いてあったわ」



『陽菜、突然いなくなってすまない。事情は言えないが協力して欲しい。親父やお袋、警察には言わないでくれると助かる。半年後、<DO>というゲームが発売される。そのゲームにログインして、レベルを50まであげてくれ。時期が来たら再会できると思う。 虎徹』



 竜胆虎徹からの直筆のメッセージだったそうだ。

 そしてヒナは、そのカードのメッセージどおりに<DO>を始めたそうだ。お兄さんを探す手がかりを掴むために。

 元々、竜胆虎徹はゲームが好きでVR専用のヘッドギアは所有していたようだ。妙なのは、発売日に<Devil(デビル) Devil(デビル) Devil(デビル)>社から<DO>のソフトが届いたことだ。名目は懸賞に当選となっていて、名義は竜胆虎徹宛てだった。


「兄が行方不明になって、メッセージを発見したのは一週間ほどしてからだったわ。でもそのときは<DO>も発売されていなかったし、私もなんのことかさっぱりだったの」


「だよな……。急に<DO>にログインしてレベル50まで上げろって……そんなこと言われても、俺だって困惑するよ」


 しかし実際に<DO>のソフトを入手し、お兄さんの残したヘッドギアは手元にあった。藁にもすがる思いで、ヒナは<DO>にログインした。それが約三ヶ月前――<DO>発売日の四月一日のことだ。


 ヒナはメッセージの指示どおりにレベルを50まで上げることができた。そこで今回のクエストのように、報酬でカードを受け取ったらしい。そのカードに書かれていたメッセージは……。



『すまない。ちょっと立て込んでて迎えに行けそうもない。それまで、クラスメイトの九重大河がログインしたら、ある程度<DO>に慣れるまで教えてやって欲しい。そうだな、レベル15ぐらいでいいだろう。今の陽菜なら簡単なはずだ。その後の判断は陽菜に任せる。また連絡する。 K』



「は……?」


 なんで俺の名前が出てくるんだ……? 俺はヒナにお兄さんがいたことも知らなかったし、その竜胆虎徹本人に会ったことすらないんだぞ?

 しかし、これでヒナが初心者の俺に声をかけてパーティーを組んでくれた理由がわかった。お兄さんの指示だったわけだ。


「私もどうしてタイガくんの名前が出たのか不思議だったわ。そのメッセージが届いてから、<DO>内でタイガくんを探したのだけれど見つけられなかったの。だってそのときは、タイガくんはまだ<DO>を始めてなかったんだもの」


「謎……だよな? お兄さんのメッセージじゃ、俺が<DO>を始めるのがわかっていたみたいじゃないか。ありえないだろ……?」


「そう……なんだけれど……。私には兄の手がかりがそれしかなかったから……」


「それで……行くのか? その<ウルカタイの迷宮>に」


 ヒナの答えはわかっていた。だけど、俺は確認せずにはいられなかった。


「ええ。行ってみようと思っているわ」


 <ウルカタイの迷宮>は推奨レベルが40以上とされていて、未だ攻略されていないダンジョンらしい。場所もこの<ヘイムの町>からは遠く離れているそうだ。

 ヒナが行くなら……。


「わかった。じゃあ、俺も行くよ」


「えっ!? タイガくんが……? 危険過ぎるわ! 現在最難度のダンジョンなのよ?」


「お兄さんのメッセージには俺を連れて行くなとは書いてなかったんだろ? それに俺の名前が出てるんだ。どうも人ごとには思えないんだ」


「でも、今のタイガくんのレベルじゃ……」


「レベルを上げる。少なくともヒナの足手まといにならないぐらいまではな」


 ヒナは目を白黒させていた。自分の事情に俺を巻き込みたくないと思っているかもしれない。だけど、俺は俺でどうして俺の名前が出てきたのか、それを突き止めないと気持ちが悪い。

 今のレベルじゃ駄目だと言うのなら、レベルを上げるまでだ。


「俺がこの周辺でレベル上げしたら、レベル40まで上げるのにどのぐらいかかりそうかな?」


「……一ヶ月以上……いえ、二ヶ月近くはかかると思うわ」


 二ヶ月か……。俺がレベル40になるまで待ってくれと言うのは、今のヒナには酷な話だろう。逆の立場なら俺は一人で<ウルカタイの迷宮>に向かうと思う。

 それなら……。


「<ウルカタイの迷宮>に向かいつつ、俺はレベルを上げる。それでどうかな?」


「それは……」


 ヒナが即座に否定しないということは、アリだということだ。この方法なら<ウルカタイの迷宮>に着くころには、俺もレベル40までいかなくてもある程度のレベルまでは上げられるかもしれない。もちろん、レベル40まで上げきるつもりでやるが。


 果たして、ヒナは俺の提案を受け入れた。渋ってはいたが、俺と一緒に二人で進めたほうがお兄さんの所在が掴めるかもしれないと話をしたのが効いたのかもしれない。俺も自分の名前が出たことを追求したい。なので、俺に迷惑をかけると思わなくてもいいとヒナに力説したのだ。


「わかったわ。それなら……タイガくん、今後もよろしくお願いします」


 ヒナは姿勢を正して深々と頭を下げた。


「ちょ、頭なんか下げないでくれよ! これは俺にも関わることなんだから」


 俺達は顔を見合わせると、揃って苦笑した。


 さあ、なんだか大変なことになってきたな……。

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