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014 ヒナの秘密

 <ヘイムの町>の冒険者ギルドを訪れる。


「適当なクエストを探してみましょ。☆印のクエストを優先するのを忘れないでね」


「ああ、そうだったな。えっと掲示板は……あそこか」


 冒険者ギルドに入ると、脇目も振らずに掲示板のほうへ直行した。左端から依頼書を確認する。左から右にいくほど高ランクのクエストになっているからだ。

 俺が受けれるクエストはまだEランクのみ。Eランクで☆印が付いているクエストは、これまでにヒナ同行で三つ達成している。なので、残りは一つだ。あと一つ達成すれば、俺はDランクのクエストに挑戦できる。

 今は目の前のクエストを地道に積み重ねるしかない。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 【採取クエスト】☆


 クエスト: お婆ちゃんを助けて


 <オシドラの森>で【ポーション】の素材

 となるアイテムを集める。

 必要素材: 【薬草】【イヤシチョウの鱗粉】

 出現モンスター: ウルフ、ジャイアントボア


 難度:E


 僕のお婆ちゃんが怪我をしちゃった。

 怪我を治すには【ポーション】が必要だけど、

 僕にはそんなお金はなくて困っています。

 どなたか<オシドラの森>で【ポーション】の

 素材を集めてきてください。

 素材があれば【ポーション】の生成は

 僕がやります。

 クエストを受けてもいいと思った方は

 僕を訪ねてください。

 どうか、宜しくお願いします。


             五番通りのアルス


 報酬:500G


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「採取クエストか。ええと、【ポーション】の素材として【薬草】と【イヤシチョウの鱗粉】を取ってくればいいんだな。【薬草】はわかるが【イヤシチョウの鱗粉】っていうのは……名前からしてチョウチョ?」


「ええ、そうよ。【ポーション】生成に必要な基本となる素材よ。イヤシチョウはモンスターじゃなくて、ただの昆虫扱いなの」


「<マクイナの森>ではそこまで注意して見てなかったけど、虫までいるんだな」


 しかし、気になる点が一つある。

 この報酬の500Gがあれば【ポーション】が買えるだろうとツッコんでいいのだろうか。考えるに、おそらくアルスくんとやらはNPCで、こういうご都合クエストが用意されているのだろうか。

 しかし報酬はないに等しいが、☆付きである以上避けては通れないクエストだ。


 依頼主でもあるアルスくんは五番通りというところに住んでいるようだ。まずはそこへ行けということらしい。

 内容自体は完全に初心者向けだ。今まで達成した討伐クエストより簡単な気がする。こんなクエストにヒナを付き合わせるのが悪いくらいだ。

 ちなみに☆付きクエストはプレイヤーによって変化する。つまり、このクエストはすべてのプレイヤーにとって必須ではないということだ。


 冒険者ギルドでクエストを受けた時点で、マップには目標地点となる赤丸が点灯していた。俺はマップを頼りにアルスくんの家を目指した。五番通りとは冒険者ギルドのある三番通りから二つ先の大きな通りのことだった。

 苦労することもなくアルスくん――小学生くらいの子ども――と会うことができた俺は、件のクエストを引き受ける旨を伝えた。アルスくんは跳び上がって喜んでいた。いや、まだ引き受けただけだからねと心の中で思いながら、俺は苦笑した。


「よし、いってみようか」


「そうね、行きましょ」


 俺は<ヘイムの町>を出て<オシドラの森>に向かった。無駄な戦闘を避けるために、俺たちはモンスターが出没しにくい街道を歩いていた。ここでもすれ違う人は多くはない。




 <オシドラの森>に着いた俺は早速【薬草】を見つけ入手した。【薬草】は目印のように青白く淡い光を放っていたので見つけるのは容易だった。

 もう一つの素材【イヤシチョウの鱗粉】を探して森の奥に進んでいくと、ジャイアントボアに遭遇した。

 だがレベル18にもなった俺の敵ではなかった。スキルの《クラッシュ》を使うまでもない。


「はあっ!」


 剣の扱いにも慣れてきた俺は、振り下ろした一撃でジャイアントボアを斬り伏せた。ジャイアントボアから取れるのは【毛皮】や【牙】だけで、武器やアイテムの素材にはならないが、冒険者ギルドがひとつ5Gほどで引き取ってくれる。重さは50グラムほどで、自動でアイテムストレージに放り込まれる。




 都合三度、モンスターと戦闘を行った俺は二つ目の素材【イヤシチョウの鱗粉】を入手し、無事に<ヘイムの町>まで帰ってきた。その足でアルスくんに素材を渡し、目の前で【ポーション】の生成を見せてもらった。


「お兄ちゃん、ありがとう」


「どういたしまして。これでお婆ちゃんが治せるな」


 アルスくんによると、お婆さんは実の祖母ではないらしい。それ以上深く訊くのは野暮だと思ったので、「そうか」とだけ返した。


「あ、僕ご飯の時間だからログアウトしなきゃ。またママに怒られるぅ」


「……えっ!?」


「お兄ちゃん、今日はありがとう! あ、報酬は冒険者ギルドで受け取ってね! 忘れちゃ駄目だからねっ!」 


 そう言うと、アルスくんは俺の視界から瞬時に消えた。あまりの出来事に俺はしばし呆然としてしまった。


「ログアウトって……。どう解釈してもNPCの行動じゃないだろう……」


「タイガくんはアルスくんをNPCだと思っていたのね」


「えっ……ヒナは気づいてたのか?」


 ヒナがこくりと頷いた。


 ……おいおい、アルスくんはプレイヤーだったのか。


「プレイヤーが依頼を出すこともあるわ。でも、クエストの難度と報酬の相場が合ってないことも多々あるから人気はないのよねぇ。今回も500Gだったでしょ? ☆印はランダムで付くものもあるから、こればっかりは仕方ないわ」


「そうなんだよな……【ポーション】一つ分だ。報酬を用意できるなら【ポーション】を買えたはずなのにな。最初はNPCだからだと思ったけど、プレイヤーならなおのこと気づくだろ? 初心者の俺でさえわかるのに……子どもだったからわからなかったのかな?」


「ふふっ。タイガくん、NPCとプレイヤーの区別が難しいように、アバターが子どもだからって中身も子どもとは限らないわよ?」


「えっ?」


「子どものフリをするロールプレイも可能だってことよ。容姿や声なんてキャラクタークリエイトでどうにでもなるんだもの」


「アルスくんの中身がオジサンだったりするわけか? いやぁ、それはさすがにキツイだろ」


 俺は想像して苦笑いし、ヒナはそれ見て笑っていた。


「あくまでも例えばの話よ」


 結局、アルスくんがどんな意図であのクエストの依頼を出したのかわからなかった。怪我をしたというお婆さんの姿も見てないし、その人が本当に存在したのかも不明だ。ヒナがそれほど深く考えることもないと言うので、それ以上考えるのはやめた。




 クエストを達成したので俺たちは冒険者ギルドに戻った。

 報酬の受け取りを済ませたが、500Gのお金と一緒に一枚のカードを渡された。

 そのとき、効果音が鳴った。


『1件のメッセージがあります』


 メッセージを受信した効果音だった。すぐにタップして中身を見る。

 差出人はシマンだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 了解。

 今、ログインしたぞ。

 【侍】のレベル上げしてるから、

 タイガがログインしたら連絡くれ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「シマンからだった。俺が送ったフレンドメッセージの返信だよ。というか、<ハオリオの町>を出て正解だったな。危うくニアミスするところだったかも……」


「ホントそうね。このあとは引き続きクエストをする?」


「そうだな。それなら、もう少し手応えのあるモンスターと戦ってみたいな。いい場所があるかな?」


 俺はメインメニューにある【クエスト】から【達成済みクエスト一覧】を選択し、内容を確認する。

 さっきのクエストを達成したことにより、俺は次からDランクのクエストを受けられるようになった。


「ああ、その前に……。これ報酬と一緒に渡されたんだけど、どういうアイテムなんだ?」


 俺は冒険者ギルドの受付でもらったカードをヒナに見せた。

 そのカードには意味不明な文章が書かれていた。



『<ウルカタイの迷宮>深層で待つ。 K』



「<ウルカタイの迷宮>……? 名称からしてダンジョンか何か? その深層で待つ……か。最後のKってなん……」


「見せてっ!」


 俺が言い終わる前に、ヒナはカードを掴んでいた俺の右手を鷲掴みにした。

 そしてカードに書かれた文章を見て、大きく目を見開いている。


「……どういうこと……なの? アルスくん依頼の……報酬が……。まさか……そんな……だとしたら……」


 ヒナは何やら考えながら、ボソボソと呟いている。しかし答えがまとまらないのか、俺の右手を開放して俯いてしまった。


「おい、急にどうしたんだ? このカードに何かあるのか……?」


 ヒナが顔を上げた。だが、その表情は優れない。なんだか申し訳なさそうな、それでいて何か思い詰めていそうな表情だった。


「タイガくん、ごめんなさい。ここで、パーティーを解散しましょ」


 突然のパーティー解散宣言。

 俺は理解が追いつかなかった。


「ちょ、ちょっと待って! いったい何があったんだよ。このカードは……!」


「ここからは完全に私の目的のための行動になるわ。タイガくんを巻き込むのは……」


 ヒナは言うか言うまいか迷っているふうに見えた。


「困っていることがあるなら言ってくれ。俺はヒナのおかげで脱初心者と言ってもいいぐらいにはなったと思う。だから、お返しというか……俺にできることなら協力させて欲しい」


 これは俺の本心だ。ゲームに疎い俺に親切に、本当の意味でのチュートリアルをしてくれたのはヒナだ。そのヒナが困っているならなんとかしてあげたい。そう思ったのだ。


 やがて逡巡のあと、ヒナは顔を上げた。


「……竜胆虎徹(りんどうこてつ)


「えっ……?」


 名前?

 ヒナの口から出た言葉は誰かの名前だった。竜胆というからには、家族の誰かだろうか。俺はヒナの家族構成を知らないので、それが誰なのかわからない。


「私はこの<DO>で行方不明になった兄を探しているの」


「行方……不明……?」


 ヒナが言った言葉を俺は理解できなかった。

 そして、ヒナが語った話は衝撃的だった。竜胆虎徹。ヒナには三つ上の兄がいるらしい。だが<DO>発売の半年前に突如行方不明になったのだそうだ。ヒナにあるメッセージを残して…………。

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