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012 ヒナ先生の経験値講座

 翌日の日曜日は陽菜から連絡があり、午前中なら<DO>(ディーオー)にログインできると言うので、俺は一緒にプレイしようと即答した。

 昨日ログアウト時に島本とは今日も一緒にプレイしようとは特に約束はしていなかったが、もし俺を待ってくれていたら悪いと思ったので「午後から<DO>ログイン可能。協力求む」と簡潔にSNSでメッセージだけ送っておいた。もちろん、<DO>内でもフレンドメッセージを送るのを忘れない。




 午前九時。

 待ち合わせの冒険者ギルド前で、俺とヒナは一日振りに再会しパーティーを組んだ。


「えっ、タイガくん。またレベル上がった?」


「ああ、もう18になったよ。HPもやっと1,000を越えたんだ」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 タイガ

 人間

 レベル:18

 職業: 戦士

 職業レベル:17

 HP(生命力):1,041

 MP(魔力):115

 SP(技力):49

 STR(筋力):135

 VIT(体力):56

 INT(知力):42

 MND(精神力):18

 DEX(器用度):54

 AGI(敏捷度):36

 LUK(幸運度):55


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ヒナが驚くのも無理はない。一昨日ヒナとプレイしていた時点では俺のレベルは10だったのだ。昨日シマンとこなしたクエストで、俺のレベルは18まで上がっていた。

 シマンのことも言っておいたほうがいいだろう。俺はかいつまんで説明する。


「えっ……島本くんも<DO>をプレイしていたの……?」


「もちろんヒナのことは何も言ってないから安心してくれ」


「あ、うん。ありがとう」


 しかし、ヒナの顔は浮かなかった。


「どうしたの?」


「島本く……ううん、シマンくんも<DO>にログインしているなら、今日は別の町に行きましょうか」


 ヒナが言うには、同じ<ハオリオの町>にいると不意に鉢合わせになる可能性もあるからということだった。

 ヒナはヒョウ顔の獣人であるシマンの容姿を知らない。一方ヒナの容姿は金髪碧眼の外国人風だが、現実世界の竜胆陽菜(りんどうひな)を知る者ならば容易く連想できるほどの変化だ。

 おそらくクラスでの噂は、そういった目撃情報から広まっていったのだろうと思った。


「そうだな。というか、どうして今までそうしなかったんだ? クラスでも<DO>にヒナがいたって噂になっているぞ」


「……え!?」


 その顔は本当に驚いているようだった。目を大きく見開いている。まるで信じられないと言わんばかりだった。


「まさか、知らなかった……?」


 ヒナはこくこくと頷いた。その仕草が妙に可愛らしくて俺はぷっと吹きだしてしまったが、ヒナが眉間にしわを寄せたのを見て慌てて口を閉じる。

 どうしてそんな噂が広まっているのか、そもそもそんな話自体ヒナは知らなかったらしい。どうも学校でのヒナの仲良しグループ内では<DO>はおろか、ゲームの話題など微塵もないようだった。


「流行っているから学校でも<DO>のプレイヤーがいるかもしれないとは思っていたけれど、まさか何人かに目撃されていたなんて……」


 言ってヒナは俺から大きく距離をとった。


「あれ……?」


 なんで俺が避けられるの……?


「私も人のこと言えないけれど、タイガくんも自分のアバターの容姿わかってる?」


「あ……」


 俺のアバターは顔はまったくいじっていない。変えたのは髪と瞳の色くらいだ。つまり、見る人が見れば俺が九重大河(ここのえたいが)だとわかるだろう。

 ヒナの言わんとしていることはわかる。その俺と一緒にいるということは、竜胆陽菜っぽい人が本人だと確信させるには十分な決め手となってしまうからだ。


「急いで<ハオリオの町>を出ましょ」


 言うなり、ヒナは俺の腕を掴むと早足で進み出した。

 俺とパーティーを解散するという選択肢はないんだなと思って、少しうれしく思う。

 俺は頬が自然と緩むのを感じながら、ヒナに引っ張られるまま<ハオリオの町>を出た。




 俺たちが目指したのは<ハオリオの町>の南にある<ヘイムの町>というところだ。

 ここからだと歩いて二時間ほどらしい。

 <ハオリオの町>より規模は小さく、人口も一万人ほどだという。それでもプレイヤーとNPC合わせた総数とはいえ、一万人という人口には驚かされる。<ハオリオの町>はその三倍はいるらしい。


 <ヘイムの町>は普通のRPGで言えば、スタート地点の町から最初に行ける町であるようだ。そして、次の町へも比較的簡単に行けることから、プレイヤーがこの町を拠点にすることはあまりないという。ここで買える武器防具やアイテムも<ハオリオの町>や次の町で買えるからだ。クエストも<ヘイムの町>専用のものはないという。


「タイガくんが慣れるまでは私たちの拠点は<ヘイムの町>にしましょ。少なくともクラスの子たちには出会わないと思うわ」


「わかった。俺はそれでいいよ」


 街道にはモンスターは現れなかった。すれ違う人も<マクイナの森>に向かう街道よりもずっと少ない。これから向かう<ヘイムの町>は、ヒナの言うとおりあまり需要のない町のようだ。

 それなら俺たちの顔がさす心配はないので、ヒナ的にはいいのだろう。

 気になるのはシマンとプレイするときだが、そのときは俺が二時間かけて<ハオリオの町>に戻る必要がある。まるで遠距離通勤するサラリーマンだなと思った。


「あのさ、<ヘイムの町>に着いたら装備を新調したいんだけど。また見繕ってもらえるかな?」


「ええ、もちろんいいわよ。お金も結構貯まったんじゃない?」


「ああ、今で30,000Gくらいかな」


 シマンと受けたクエストの報酬は俺には1G足りとて入ってこない。シマン主体で受けたクエストだからだ。その代わりクエストの途中で見つけた素材やアイテムなんかを換金していたのだ。


「それなら二段階上の装備を揃えられるわね。ジョブも追加できるから一緒に選びましょ」


「おお、ついに二つ目のジョブをとれるのか。でも俺はまだ【戦士】のレベルを上げきってないんだけど……」


「次に取得するジョブをメインにして、【戦士】をサブにすればいいわ。サブだと獲得できる熟練度は下がるけど、スキルの《クラッシュ》はちゃんと使えるから安心して」


「うん、わかった」


「それにしても、シマンくんとのクエストは物足りなかったんじゃない?」


「え、なんでそう思ったんだ?」


「自分よりレベルの高いモンスターと戦ってもダメージはほとんど通らないし、戦ってるって感覚が身につかなかったでしょ?」


「……確かにそのとおりだよ。できたのはファーストアタックのみで、あとはシマンに倒してもらってたからな」


「結局、効率を求めるなら自分のレベルに見合ったモンスターを相手にするほうが、実入りがいいのよ」


「なるほど」


 モンスターから得られる経験値の量は、その戦闘で活躍した貢献度に比例するらしい。

 一人でモンスターを倒した場合、その経験値は全て自分のものとなる。だが二人で協力して倒した場合は、単純に二等分にはならない。貢献度によって分割されるのだ。主には与えた総ダメージ量。AとBというプレイヤーが協力してモンスターを倒した場合を考える。Aが七割、Bが三割のダメージを与えてモンスターを倒したとする。すると得られる経験値はだいたい七対三の比率になるそうだ。


「一人で倒すと経験値は総取りか」


「ええ、だけど一人では倒すのが難しいモンスターも、他のプレイヤーやNPCと協力すれば勝てたりするの」


「そうか! そうすれば経験値がより多く得られる場合もあるんだな?」


「そうよ。逆に味方が多すぎると経験値が分散して、旨味がないときもあるわ」


 他にはファーストアタックや支援魔法、治癒魔法、阻害魔法、アイテムなどの使用が貢献度に加味されるという。

 結果、効率がいいのは自分に見合ったモンスターと戦うのが一番と、ヒナは自信と経験則を持って教えてくれた。


 だがシマンのやり方もひとえに間違いではないと付け加える。それは圧倒的にレベル差のあるモンスターを相手にしたときだ。確かに俺の攻撃はリザードマンにダメージを与えることはできなかったが、ファーストアタックだけで経験値を稼げたからだ。


「あとはタイガくんが魔法やスキルで支援したり、モンスターの行動を阻害できるようになればもっと稼げるわ。例えば、スキルで《麻痺》の効果を付与する攻撃があるの。本当に低確率だけれどその《麻痺》を格上のモンスターに決められれば、得られる経験値もダメージを与える以上に多くなるわ。貢献度としては最高クラスだもの」


「へぇ……《麻痺》か」


「《麻痺》にかかると一定時間動きを完全に封じることができるから、それを利用して高難度クエストを周回するプレイヤーもいるのよ」


 《麻痺》を利用してモンスターを袋叩きにする戦法もあるようだ。しかしその場合、術者の《麻痺》の精度によっては敗北もあるので責任重大らしい。強敵モンスターに《麻痺》を決めれば英雄のようにもてはやされるが、外したときはもの凄く罵られるそうだ。


 そして、チュートリアルでのウルフ戦やPK野郎のザックス戦で、俺は奇跡的にクリティカルを発生させていたが、その発生確率の基礎値は3%だそうだ。

 クリティカルになった攻撃は、その攻撃力が+150%になるという。しかも、最低1ダメージが保証されるらしい。

 ザックスに放った俺の《クラッシュ》の攻撃力は、クリティカルをもってしてもヤツの防御力を上回れなかった。その結果として、最低保証の1ダメージを与えたわけだ。

 ヒナに説明を受けるまでは、死に物狂いで放った《クラッシュ》が俺の限界を超えた力を発揮して奇跡を起こした……なんて若干考えていた。口に出さなくてよかったと思う。


「クリティカルの発生確率を上げるためにジョブやスキル、装備の組み合わせをみんな試行錯誤しているのよ」


「考えるだけで頭が痛くなりそうだな……」


 あとは推奨されていないが、対プレイヤーや対NPCとの戦闘で得られる経験値について。基本、モンスターから獲得できる経験値の法則と変わりはないが、一つだけ明確に違うことがある。それは命のやり取りを伴った行動でしか経験値が発生しないことだ。このルールにより、仲間内での経験値加算が無効となっている。なので、俺がシマンをポカポカと殴ったところで、経験値は入らない。もしそれが可能なら謝りつつも、シマンの脳天にひたすら手刀を浴びせたかもしれない。可能でもヒナには絶対にしないが。




 道中はヒナからレクチャーを受けて、あっという間に時間は過ぎていった。

 そして、俺たちは<ヘイムの町>に辿り着いたのである。

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