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011 シマン

 翌土曜日、陽菜(ひな)は家の事情で<DO(ディーオー)>にログインできないと言うので、俺は島本に連絡した。


「おう、九重(ここのえ)。<DO>の誘いか?」


「ああ、暇なら手伝ってくれないか」


「暇じゃねーっつの。【侍】のレベル上げしなきゃなんねーんだって。朝メシ食ったらログインするつもりだったんだよ。九重がどうしてもと言うならパーティーを組むのもやぶさかではないが」


 時間は午前八時。学校も休みだというのに、俺は<DO>をやるために早めに目覚めていた。朝が苦手な俺がだ。

 三十分後に冒険者ギルドの前で待ち合わせを約束した。

 俺たちは互いにアバターの容姿を知らないので、時間と場所を決めておかないと絶対に会えない。

 まぁ、それでも特に困らないが……俺は苦笑しつつ朝食を食べることにした。




 約束した時間ぴったりにログインした。

 冒険者ギルドの前には、身長二メートルはあろうかという獣人が仁王立ちになっている。ヒョウがモチーフのようだ。その容姿はまるで戦国時代の武将のように兜や甲冑を身に纏い、腰には刀を差していた。

 そのヒョウがギロリと俺を一瞥すると、鋭い牙を見せながら豪快に笑った。

 多分、島本……かな。いちおう、確認しておいたほうがいいか。


「……島本か?」


「ばっ……リアルネームで呼ぶな。そういうお前は……アバターそのまんまなんだな。なんだその茶髪に赤眼は……まさか格好いいと思っているのか?」


 島本は胡散臭そうなものを見る目で、俺を上下に舐めるように眺めた。


「とりあえず、フレンド登録しておこうか。ほらよ」


「サンキュ。ほい、承認っと」


 フレンド登録を済ませて、互いの詳細ステータスを見せ合う。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 シマン

 獣人

 レベル:40

 職業: 侍

 職業レベル:144

 HP(生命力):5,838

 MP(魔力):374

 SP(技力):240

 STR(筋力):333

 VIT(体力):145 

 INT(知力):62

 MND(精神力):39

 DEX(器用度):120

 AGI(敏捷度):91

 LUK(幸運度):120


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 島本の名前はシマンというらしい。

 シマンのジョブ【侍】はレベルを最大まで上げるとSPに+100という効果が追加されるそうだ。【侍】の性質上、戦闘時にはスキルを多用するスタイルなのでSPに補正が付いているらしい。


 一方俺は昨日ヒナとクエストをこなして、レベル10になっていた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 タイガ

 人間

 レベル:10

 職業: 戦士

 職業レベル:9

 HP(生命力):342

 MP(魔力):35

 SP(技力):15

 STR(筋力):75

 VIT(体力):31 

 INT(知力):24

 MND(精神力):10

 DEX(器用度):30

 AGI(敏捷度):20

 LUK(幸運度):30


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「やっぱり相当な差があるなぁ」


「当たり前だろ。俺はもう三ヶ月もプレイしてるんだぜ? 三日目のタイガと一緒にするなっての。それよりフレンド第一号の俺が、お前を鍛えてやるぜ!」


「あ、悪い。実は初日にフレンドはできたんだ。だからシマンはフレンド第二号だ」


「なにぃ! 俺とお前は親友だっただろ! ……でも、別にいいか。フレンドを増やして交流する。それがオンラインゲームの醍醐味の一つだ。よかったな、ちゃんとフレンドができて」


「ああ」


 シマンはうれしそうに俺の背中をバシバシと叩いた。


「じゃあ、適当なクエストやるか」


「あ、ちょっと待ってくれ。その前に装備を買い換えたいんだけど」


「ん? タイガの所持金は?」


「えっと、4,200Gだ。昨日クエストでかなり稼いだからな」


「その金じゃ大したものは買えないから、今の装備で十分だ。20,000G貯めてからでいいぞ」


「そうなのか。早くこのクソダサ装備を変更したかったんだけどな」


「初心者が何言ってんだ。俺の装備なんか総額300,000Gを越えてるんだぜ? あ、刀は別な。この刀はドロップ品だからよ」


「300,000G!? ひゃあ~、途轍もない額だな。俺がそこまで貯めるのに何回クエストすればいいんだよ」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 【狩猟クエスト】


 クエスト: <バリルリア湖>のリザードマン



 <バリルリア湖>にいるリザードマンを五体倒す。

 出現モンスター: リザードマン


 難度:C


 最近、<ハオリオの町>の北にある<バリルリア湖>周辺にリザードマンが現れるようになった。このままでは<バリルリア湖>の生態系に影響を及ぼしてしまう。

 早急にリザードマンを退治して欲しい。



 報酬:10,000G


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「これにしようぜ」


 冒険者ギルドでシマンが選んだのは、難度Cランクの狩猟クエストだった。


「え? 俺でもCランクのクエスト受けれるのか?」


「ああ、俺が一緒だからな。パワーレベリングしてやるぜ」


「ほう。そしたら俺はどうなるんだ?」


「タイガは楽にレベル上げできるし、俺はジョブの熟練度を稼げる。俺たち二人ともにメリットがある」


「デメリットは?」


「モンスターが強いから、お前は死にやすくなる」


「おい……!」


 開始三日目でデスペナになりたくないんだけどな。


「だから気をつけろよ。まぁ、そうならないように俺が守ってやるから」


「ところで、シマンはデスペナになったことあるのか?」


「一回だけな。あんまり思い出したくねぇけど」


「よほど強いモンスターと戦ったんだな」


「いや、相手はプレイヤーだった。PKされたんだよ」


「PK!?」


「ああ、同じ獣人にな。結構噂になってんだよ、<マクイナの森>で初心者狩りをしてるってな」


 俺の脳裏にザックスが浮かんだ。

 【殺戮(さつりく)者】ザックス。プレイヤー殺害人数が千人以上のPKに与えられる称号を持つ、あのPK野郎だ。


「もしかして、ザックスってやつか?」


「おい、知ってるのか!? まさか……戦ったのか!」


「ああ、戦ったというか……絡まれて戦闘になった。向こうが退いてくれて助かったけどな」


「それは許せねぇな。タイガみたいなゲームに慣れてない超初心者を狙うなんてよ」


 シマンは怒りを露わにした。

 攻略サイトの掲示板でも名前が挙がっているらしい。厄介なプレイヤーだと噂されているようだ。




 シマンと一緒に<バリルリア湖>に向かった。

 <ハオリオの町>から三十分もかかった。


「結構歩くんだな」


「これでも全然近いほうだぞ。世界の果てを目指してるやつらなんか、毎日十時間くらい歩いてるらしいぞ。あ、現実時間でな」


「<DO>内の時間で40時間だぞ!? そいつらの目的はなんなんだよ」


「この<DO>ってさ、アプデの度に世界を拡張してんだよ。一体どこまで広げんだよってくらいにな。今のところ陸地の移動手段は歩きか、馬に乗るくらいだから大変だよ。船を作ったやつもいるらしいから、海路はそれで移動するみたいだ。やつらの目的は新大陸を誰よりも早く発見して優越感に浸ったり、自分たちの国を作ることだな。あとは世界の果てには何かあるって考察していたりだな」


「ふぅん。色んな楽しみ方があるんだな。自分で国を作るっていうのは聞いたことがあるよ」


 <バリルリア湖>に着くと、その周辺にはリザードマンが複数いた。

 文字どおり二足歩行のトカゲ人間みたいなモンスターで、右手には剣を左手には円形の盾を持っている。シマンの説明によると、一対一で戦闘になっても俺に勝ち目はないという。


「依頼書では五体倒せばクエスト達成となっていたけど、どう見ても五体以上いるぞ?」


「ああ、クエスト自体は五体でOKだが、レベル上げも兼ねて全滅させる。タイガはガンガン《クラッシュ》を使っていけ。攻撃したら下がる。基本はその繰り返しで大丈夫だ。どうしてもヤバイと感じたら、背を向けて全力疾走だ。リザードマンはそんなに速く走れないから、タイガでも十分逃げられるはずだ」


「そうなのか。わかった。とりあえずやってみるよ」


 俺たちは手近なリザードマンに忍び寄り、シマンの合図で俺は死角から飛び出した。


「《クラッシュ》!」


 リザードマンは盾で防ぐのもままならず、俺の《クラッシュ》をまともに受ける。しかし攻撃を受けたはずのリザードマンの胸には傷などついていなかった。

 HPバーは一ミリも減った様子はない。


「おい、シマン! 効いていないぞ!? 大丈夫なのか?」


「今のタイガのレベルじゃ攻撃力が足りてないんだから当然だ。ファーストアタックってのがあってな、最初に攻撃を当てたやつには経験値が入る。それ狙いだ。安心しろ、俺が倒してやる。そらっ、《断骨斬》!」


 シマンは手にした刀でリザードマンを袈裟斬りにした。骨を断つ――まさにそのスキル名のとおり、シマンの《断骨斬》はリザードマンの盾ごとその体を斬ったのだ。


「Gyaaaaaaaaaaaaaaaaa!」


 リザードマンの断末魔が響き渡る。HPバーは一気に減少し僅か一秒で0になって、リザードマンはその場から消滅した。

 俺が《クラッシュ》で1ダメージも与えられなかった相手をたった一撃で屠ってしまったのだから、開いた口が塞がらない。

 シマンは肩越しに俺のほうを見て、ニヒルに笑う。


「そら、次のが来たぞ。今みたいに《クラッシュ》を放ってから、すぐ下がるんだ」


「お、おう! わかった!」




 五分後、十体のリザードマンを倒したシマンは刀を鞘に収めた。

 結局俺はその内七体にファーストアタックを決めることができた。与えたダメージはすべて0だったが……。シマンによると運良くクリティカルが出れば、それでも1ダメージは与えられるという。そうすれば経験値も大きく加算されるようだ。

 俺は一度だけリザードマンの剣を受けてしまっていた。たった一撃だがHPを大きく減らした。162ものダメージだ。もう一度受ければ死んでいたかもしれない。


「滅茶苦茶強かったな……」


「だろ? どうよ俺のスキルは」


 シマンがドヤ顔で腕を組んだ。


「いや、リザードマンがだよ」


「そのリザードマンを軽く倒した俺の力をもっと褒めろって!」


「……まぁ、そうだな。シマンも強いよ。このリザードマンってレベル的にはどのくらいなんだ?」


「個体差もあるけどレベル17~20くらいだな。HPが高いので1,800くらいだけど、俺の《断骨斬》で4,000以上のダメージが出るからな。俺にとっちゃ雑魚みたいなもんだよ」


「そうか……桁が違うな。俺はファーストアタックしかできなかったけど、レベルは1上がったぞ」


「おっ、よかったじゃん! この調子で湖の向こう側に回って、もう一稼ぎしようぜ」


 <バリルリア湖>の対岸にはまだリザードマンがいるようだ。複数の人影がこちらからでも確認できた。

 俺たちは<バリルリア湖>を迂回して、リザードマン狩りに向かった。




 リザードマンのクエストを達成した俺たちは一度<ハオリオの町>に戻り、それからいくつかのクエストを受けた。

 相変わらず俺の攻撃でダメージを与えることはできなかったが、格上のモンスターへのファーストアタックのおかげで経験値は貯まっていった。

 八時間ほど共闘した俺たちは、宿で休息を取ることにした。

 シマン曰く、これ以上連続して戦うと徐々にステータスへマイナスの影響を及ぼすそうだ。

 宿で寝て起きると八時間経っていた。既に<DO>内で十六時間、すなわち現実時間では四時間経過したことになる。

 そのあと一件だけクエストをして、


「なぁ、タイガ。一旦ログアウトして昼メシ食ってから、またやろうぜ。どうせ今日は目一杯プレイするつもりなんだろ?」


 シマンが昼食休憩を提案してきた。


「そうか、もう昼過ぎだもんな。だけど、ちょっとレベルを上げたいし……」


「よっしゃ! じゃあ、現実時間で一時間休憩してからログインでいいな?」


「ああ」


 シマンがログアウトして、俺は<ハオリオの町>の冒険者ギルドの前に取り残された。

 俺は少し物足りなさを感じていた。

 シマンのおかげで俺は効率よくレベル上げができているのかもしれない。しかしヒナと一緒のときのような楽しさはない。これは女の子と一緒のほうが楽しいとか、そういうことじゃなく。単純にモンスターと戦っている感覚が持てないからだ。今日戦ったモンスターは例外なくすべてシマンが仕留めている。


「もうちょっとレベル低くてもいいから、俺自身がモンスターと戦いたいな」


 その点ヒナは俺のレベルに合わせて狩り場を選んでくれていた。

 再開後はそれをシマンに提案しようと考えながら、俺はログアウトしたのだった。

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