続・しょんべん
鉄也に肩を叩かれた翌朝、僕は朝一番の小便をしようと便座の前に立った。
やっぱり、長渕は反省したのか、もう「あらしょっ!」と叫んで登場する様子はない。
ジョボジョボと音を立てて真っ黄色のあかんたれしょんべんが落ちて行く。
こんな時、いつも僕の脳裏には長渕が浮かんでいたっけ。
すると、便座の裏から微かな声が聞こえて来た。
「しょんべ……」
!!
僕は床に飛び散る小便をもろともせず、便器の裏側を覗いた。
すると、涙を流しながらタンクトップを噛み締める長渕が目に映った。
「しょん……べ?」
「そうだよ!しょんべっ!だよ、長渕!」
「あらよっ……?」
「ほらしょっ!」
「せいやっ!」
「しょんべっ!」
「あらよっ!SAY!しょんべっ!都会のなきっつらに、しょんべぶっかけりゃ!そらっ!しょんべっ!」
「しょんべ!!」
あー。やっぱりこうでなきゃ!
長渕が歌う。僕は踊る。舞台はいつも便器の前さ。オーディエンスがジョボジョボと喚いてやがる。
これこそ、しょんべっ!
すると、僕は突然肩を叩かれた。
背後に立つ鉄也はもう、微笑んですらいなかった。
「兄さん、一度腹据えて話しませんか?もう、流したらどうです……?」
イチモツを見ると、もうとっくにしょんべは止まっていた。
泡立つ便座の中に視線を落とし、僕は震えている。
鉄也はそれを見て、少し微笑んだ。
「水の泡、言うヤツですわ。ほな、行きましょか」
振り返るとそこにはもう、長渕の姿は無かった。