ここがハウスね
ちょっと短いです。
涼香
ゴールデンウィーク初日。
私は観月の家が経営しているというアパートの前にまで来ていた。
ここは先生も住んでいるというアパートだ。
今日は、観月の家に遊びに来たのだけれど、上に先生がいると思うと正直、緊張する。
観月の家に遊びに行くことになったのは、もちろん先生が関係しているからだ。先生がどこに住んでいるのかは、ずっと知りたかった情報だ。
だから、と言って押しかけたりはしないけれど。もしかしたら、ちょっとした散歩の時に出会えるかもしれないし。
けれども、「もしかして」と言う可能性を踏まえて、いつもよりも私服には気合を入れてきた。
白のワンピースに、デニム生地のジャケット、少し目立たない程度に化粧をしてきた。来る途中に何度も鏡で自分の姿を確認した。
今も手鏡で髪が乱れていないのかを確認し終える。
「よし!」
観月の家は一階がまるごと自宅だ。2階がアパートになっていると聞いている。
部屋は全部で3つ。 そのうちの1つに先生の部屋もあるのだろう。
ピンポーン
インターフォンを押すと、ありふれた音が響く。
少し待つと扉が開いた。
「いらっしゃーい、迷わずにこれたみたいだね」
観月が私を迎えてくれる。
今日は家にいるけれど、きっちりと人に見られてもいいような恰好をしている。
――でも、ちょっとスカート短すぎない?
ベルト付きツイード調ツインワンピースのスカート部分は挑発的なまでに短い。
――いつもそんな服着て、先生の所に行っているわけじゃないよね。
「思ってたより近かったわ」
私は、そんな動揺を表に出さず、観月の話に合わせる。
「なら、今度は涼香の家だね~」
「アハハ……」
そう言われると私は黙ってしまう。
私の家に正直見られたくなものがたくさんある、主にお母さんの趣味《BL》というか副業《同人誌》というか。
――あんなものがあるから、家に友達を呼べないんだよっ!
家の一部がすごいことになっているのは、幼馴染の夕葵くらい。
小学校の頃は、何とか誤魔化せていたけれど中学生になってからは、とうとうばれた。
店の本棚には自分の店だというのをいいことに、至る所に教材《BL本》が仕込まれている。
少しでも興味を持てば後は、お母さんが耳元で誘惑するだけ。
教育というより、もう洗脳の類に近い。
その甲斐あってか客層は、そう言った方面のお客様が非常に多い。
「とりあえず上がってよ。ママも昼過ぎには仕事に行っちゃうから」
入室を促されると、部屋には観月ともう1人のハイヒールしかないから、まだカレンは来ていないみたい。
「あなたが涼香ちゃん?」
私を出迎えてくれたのは前下がりに切りそろえられた髪型、意志の強さを感じるスーツ。
けれど、女性らしさを失わないスカートの丈、自立したカッコいい女性という印象を受ける。この人が観月のお母さんなんだ。
「うわ~かわいい子ね。あと一人ももうじき来るの?」
「うん、ちょっと家が遠いから車で来るみたい」
違うタイプの2人だけれど、よく似ている。
特に目元なんてそっくりだ。身長はお母さんの方が高いかな。
「桜咲 涼香です。あの、これよかったら」
私は持ってきたケーキを渡す。
「3人家族だって聞いていたんですが」
「気を使ってくれなくてもいいのに。でもありがとう、ゆっくりしていってね。あ、でも一応、上は人様のお部屋だから、そこまで騒がしくしないように」
「はい」
その後、観月のお母さんは仕事がまだ残っているということで、奥の部屋へと戻って行ってしまった。
昼食は、どこかに食べに行こうかという話になっている。
観月の部屋で用意してくれたお茶を飲みながら、他愛のない話をして、時間が過ぎるのを待つ。観月のお母さんに聞かれてはまずいので、はからずとも小声になる。
「あ、ちなみに今は歩ちゃんいないよ」
「べ、別にそんなこと気にしてないわよ」
「ふ~ん。そうなんだ~」
観月に内心を当てられ、慌てて視線を元に戻した。
否定したのはせめてもの抵抗だ。バレバレだったみたいだけれど。
「……どこかへ行っているの?」
「ジョギングかな? 外に車あるし」
やはりというか、観月は先生の行動に詳しい。
◆
カレン
「……ここがセンセのお家」
自宅で雇っている運転手さんに礼を言い、私は乗ってきた車を降りる。
今日は観月の家に遊びに来たのですが、先生の部屋を意識してしまいます。
駐車場には、買い出しの時に乗せてもらった先生の車が停めてあって、本当にここに住んでいるんだと実感させられます。
――いいなぁ……
駐車場を回り込んで、インターフォンを鳴らし家の住人を呼ぶと扉の奥から物音が聞こえドアノブが傾きました。
「カレン、いらっしゃーい」
「お邪魔します」
迎えてもらうと、涼香はもうすでに来ているようで、私は持ってきたお菓子を観月に渡します。
「うわ、これってハリーアップのバウムクーヘン?」
観月は驚いて受け取ります。
シルビアさんが持たせてくれたお菓子はどうやら結構、有名な所の物らしいです。
「いいの? こんなの貰っちゃって」
「ハイ、食べてください」
「うーん、なら今日のおやつに出させてもらうね」
観月は嬉しそうにバウムクーヘンを棚の上に置いて、部屋へと案内してくれました。
観月の部屋は、シンプルなお部屋でした。
モノトーンのインテリア。
心を穏やかにさせる静けさを感じさせる色合いは、派手すぎずにリラックスできる空間でした。けれども、本棚には観月らしくファッション誌が多く並んでいます。
「狭いけど、ゆっくりしてね」
そこからは、お菓子を食べながら再びおしゃべりで私たちは過ごしました。
「観月~」
「なに。ママ?」
観月のお母さんが部屋をノックし顔を見せました。
「私、ちょっと急ぎで出ないといけなくなったから。昼ごはんはどうする?」
「外で食べにいこうかと思ったんだけど」
「なら、陽太のごはんは作っておくわね。帰ってきたら食べさせてあげて」
それだけを伝えて、観月のお母さんは部屋から出ていきました。
どうやら弟君は外へ遊びに行っているみたいです。ちょっと会って見たかったのですけど。残念です。
「わかった。なら、今のうちにもう食べに行った方がいいかな。通り雨が降るって話だし」
観月が私たちにそう尋ねます。
「私たちは全然かまわないけれど」
「ハイ」
念のため、傘をもって私たちは昼食へと向かいました。
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