宣戦布告
カレン
眠れません。
先生が脅かし役の女の子を逆に驚かせた後、すぐに就寝時間となったのですが全く眠たくないのです。
夕葵さんたちは既に寝てしまったようで寝息が聞こえてきます。
寮内も同様で物音ひとつ聞こえてこないです。
目を閉じると観月のスマホにあった写真が鮮明に思い出されてしまいます。
――観月……センセとはどういう関係なんですか? 話したら教えてくれますか。
でも、それが私の望む答えとは限らない。
ベッドの中で寝返りを繰り返すだけで、どんどん時間が経過してしまいます。スマホを開くともう朝の5時を回っていました。
――昨日はあまりセンセと話しができなかったですし。
私は頻繁に先生を見ています。
授業中はもちろん、廊下を歩いていると自然に先生を目で追っているのです。
思い返せば先生の周りにいたのは観月でした。
胸にちくりとした物が刺さりました。
この痛みを自覚したときに、私はこっそりと部屋を出ました。
誰かに見られないように音は出さないように細心の注意を払いながらうっすらと明るくなった寮内を私は静かに走って行きます。
「はぁ…はぁ……」
私はそんなに体力のある方ではありません。
少し走っただけで息切れをしてしまいます。すうっと小さく息を吸い呼吸を整えます。
いろいろな感情が私の中に渦巻いてました。
立てつけの悪い扉は開けると音がしました。
先生はどうやらまだ眠っているようです。そっと先生に近づいても先生は起きる気配はありません。
――どうしたいのでしょうか、私は……。
話したくて、会いたくて、触れたくて、私を見てほしくて。
今だけは……。
「先生……」
眠っている先生に顔を近づけ、願いを込めながら私はセンセにキスをしました。
ズルいでしょう、卑怯でしょう、けれど自分を押さえられません。
――あの時よりも……。
けれど、次の瞬間に私の身体は強い力で引きはがされました。
突然の事に私は眼を見開いて驚きました。
「カレン……」
私の肩を押さえつけて私をじっと見据えます。
「…センセ…」
「今……何してた?」
「~~っ……あ、……私っ」
顔が真っ赤になるのが分かります。
きっと先生から見たら今の私の顔も丸わかりでしょう。
もう隠しようがありません。
けれど、センセは私に言葉を続けさせませんでした。
「お前だったのか」
センセは大きく溜息をつきます。
「……もう二度とするなよ」
先生は私に注意をします。
それは普段、生徒にかけるような言葉ではなく、本気で怒っているような口調でした。
「……ごめんなさい」
センセは私にそんな言葉しか言わせませんでした。
◆
ようやく俺のモヤモヤさせていた人が誰だかわかった。
けれどもダメだ……どうしても意識してしまう。
「とりあえず座れ」
「ハイ」
カレンは俺の前に正座する。
正座するのだが姿勢がどこかぎこちない、考えれば日本人でないカレンには正座は辛いのかもしれない。
「別に正座じゃなくていい。楽にして。すぐに話も終わる」
説教をするわけじゃない。
なんであんなことをしたのか。
あそこまでされて彼女の気持ちに気が付かないわけがない。
彼女の言葉の続きは想像はつく。
「どうして俺なんだよ」
「……ごめんなさい」
謝ってほしいわけではないし、謝る必要もない。
少なくとも俺はそう思っている。
けれど――
「俺はやめておけ」
「……」
「学生は学生らしい恋をしろ、背伸びして大人と付き合おうとなんてするな。絶対に傷つく」
今まさに傷つけている俺が何を言っているのか。
我ながら馬鹿らしい言いくるめだ。
「どうしてですか?」
「俺が教師でお前が学生だからだ。当たり前だろ」
カレンの気持ちは、一時の気の迷いやただの憧れだ。
一線を越えようものなら、共倒れ。
より深く傷つくのは間違いなく未来ある学生だ。
「学生だから傍にいちゃいけないんですか」
「頼るのはいい。けれど、あまり踏み込みすぎるな」
一定の距離感が大切だ。
俺から距離をとるのがいいのか、彼女が離れていくのか。
「……いです」
何か言っていたがその言葉は聞き取れなかったが、カレンは声を大にして発した。
「ズルいです! なら、観月はいいんですか!」
「え……?」
なんでここで観月が出てくるんだ。
「なんでここで沢詩さんが出てくるんだ?」
「惚けないでください。写真を見ました!」
あの馬鹿っ! 迂闊なことしやがって。
……いや、俺とあいつが近すぎたのか。観月に怒るのは筋違いもいいところだ。
「アイツとも何ともない」
「何ともないなら……観月がいいなら、私もそこに置いてくれたっていいじゃないですか」
それでいいのか。
想いは通じなくても傍にいるというのは辛くないのか。
「私は……諦めません」
「おい」
「いつか絶対、先生に改めて言いたいこと言います! 勝手に私の感情を呼んで答えを出さないでください!」
そう言って立ち上がるとカレンは部屋から出て行った。
「あ~~……これからどうやって接すればいいんだよ……」
カレンの好意は知った。
けれども、カレンの気持ちには応えられない。
だからなのか、俺の答えは聞かないまま……というより、今は聞く耳持たないだろう。
「これ絶対これからアイツを意識するハメになるな」
しない方が無理だ。
◆
『昨年4月下旬から今年の3月まで、少なくとも5回以上、キスなどのわいせつ行為をしたそうです。出会ったときは相手が18歳未満で、他校に通う生徒だと知っていたそうです』
朝から胃が痛くなるようなニュースが流れている。
テレビでは『教師と生徒の淫行発覚!』と文字打たれ、さまざまなコメンテーターやゲストたちがあれこれ議論を交わし合っている。
『ここ最近は、教師と生徒の恋愛が描かれた作品もありますが、フィクションですよ、フィクション! 現実に起こりえるわけがないんですから』
ありました。
『大体ね! 聖職者であるべき教師が生徒に手を出していいと思っているのか! 「好きと言われて火がついた」なんて馬鹿らしい 喝! ですよ喝!』
すいません。
『えー、でも女性は16歳から結婚できるんですよ? 両者が合意ならいいんじゃないですか?』
『そうですよ。世の中に好きになっちゃいけない人っていないと思います』
『未成年の結婚には両親の同意が必要なんですよ』
『私が親なら、まずぶん殴るね。もちろん手出した男を』
若い女芸能人たちが真剣なら交際を認めてもいいのではと10代、20代の若者らしい意見を言うが周りのお偉いさん方は否定的だ。
何より社会がそれを認めない。
それに何より娘を大切に思っている親御さんも認めないだろう。
『なんかおじさんくさーい』
『いまじゃあ、先生と教え子が結婚するような時代ですよー』
けれども、アイドルの子たちはそんなものをまるで意に介していない。まだ世間を知らない子供らしい言い方だった。
朝食の時間となり俺たちは寮母さんが作ってくれた朝食を食べていた。
けれど何を食べているか分からない。淡々と機械のように食べ物を口に運ぶだけだ。
「ちょっ! 高城先生」
「はい……?」
「それ食べるんですか?」
「え?」
ぱくっと口の中に入れた時にその疑問の答えを知った。
「ぶっは! ゲホッゲホ!」
「何やってるんですか!?」
結崎先生が背中をさすってくれる。
「俺、何喰いました?」
「聞かない方がいいわよ」
え、なにそれ気になる。
目の前には普通の朝食が並んでいるだけなのにどうやったらあんな咳き込むような味になるんだろうか。
食事を終えて生徒たちは自分の私物を片付けに入り各自部屋に戻っていく。
俺たちも昨日使用した布団などを干すために外に出ていた。
「なんだよ、昨日眠れなかったのか?」
そこでも俺は呆けていたらしい。
荒田先生に声をかけられる。荒田先生の後ろに隠れるように水沢先生もいる。
「いえ、眠れましたよ。………ちょっと考え事をしてて呆けてました」
「あ、あの昨日はすいませんでした」
水沢先生が俺に謝罪してくる。おそらく昨日の失神の件だろう。
「お手を煩わせてしまって」
「いえ、あいつらは謝罪しましたか?」
「あ、はい。朝一番に」
なら、もう何も言わないでおこう。
同じことで二度叱られるなんてストレスにしかならない。
「わ、私重くなかったですか?」
「いえ。そんなことは」
「いやいや重そうにしてたぞ、ほれ、みてみろ」
荒田先生がスマホを操作し見せるのは昨日の写真だ。
「え! ええ!? おんぶじゃなかったんですか? こ、こんな……」
「いやいや、これが女性の正しい運び方だよ」
写真を見て水沢先生は頬を赤らめて面白いくらいに動揺している。
いや面白がってちゃ失礼か。
「……勝手に運んですいませんでした」
「い、いいえ、いえ! むしろありがとうございます!」
そう言って水沢先生は顔を真っ赤にして寮内へと戻って行ってしまった。
布団を干しを終え俺たちは寮内で生徒たちが掃除をしっかりと行っているか監視をすることになっている。
「先生ー。ゴミってどこに捨てればいいですか?」
「とりあえず入口の所にまとめておいてくれ、あとで校舎のゴミ捨て場に捨てるから」
食堂のテーブルを拭いているカレンを見てしまう。
そして向こうも俺の方を見て視線が合うとぱあっと嬉しそうな笑顔を見せてくるので、すぐさま視線を逸らして作業に戻る。
――ホントどうしたらいいんだか。
そう考えていると視界が急に暗くなった
「だーれだ!」
「くだらないことしてないで手を動かせ。」
観月。お前これ好きだよなー陽太もよく真似してやってるし。
「おー、よくわかったね。これで昨日の件は許してあげましょう」
「はいはい」
やっぱり大して怒ってなかった。
ん? バニラの香り?
「沢詩、お前なんか香水付けてるか?」
「え、うん。結構高いヤツなんだよ。つけてる人もいるけど。ダメ?」
「いや、別にかまわないが……」
とたたたた!
なんか走ってくる音が聞こえてくる。
「センセ!」
ぎゅうっと俺の腕を抱え込むようにカレンが抱き着く。
小さい身体が俺の腕にぶらりとぶら下がるような形になる。
「ちょ、待って」
「えへへ~。ハグです」
それ前に注意しただろうが!
たしかに女子同士でよくやっているあれは確かに“親愛”が込められているだろう。だが俺に対してのは意味が違う!
「おお~さすが外国人」
「海外文化なら普通だよね~」
「でも、うらやましい~」
どうやら大した騒ぎにはなっていないだろうが相手は俺だぞ。
見る人が見たら、絶対良からぬ誤解を受ける。
「……こーゆーのはやめろ」
「ムゥ」
「じゃ、じゃあ次はアタシ」
「しねえよ」
パン、パン
「「痛っ!」」
「お前ら2人でゴミ捨て行って来い」
とりあえず、2人の頭を軽くたたいて俺は距離をとった。
◆
観月
アタシが子どもだっていうことくらいは分かってる。
だから早く大人になりたいって、あなたの隣に立てるような女性になりたいってずっと思ってる。
アタシとカレンはゴミを捨てに校舎の方へと向かっていく。
「えへへ~」
カレンが嬉しそうに頭を押さえている。
「……嬉しそうだね」
「ハイ、観月と同じことされましたから」
アタシと同じことされたから?
カレンは立ち止まるとアタシをまっすぐに見る。そして、一拍おいて、息を吸うと頭を下げた。
「観月……先に謝っておきます。昨日、観月の写真を見てしまいました。センセと一緒に映っている写真をごめんなさい」
「……」
……完全にアタシの責任だ。
どうしよう、歩ちゃんゴメン。
「あれねー歩ちゃんとはちょっと前からの知り合いで、何にもないから、だから……」
アタシはこういう時のためにあらかじめ用意しておいた言い訳をカレンに伝える。
「大丈夫です。誰にも言いません、センセに迷惑かけたくないですから」
「あ、ありがと」
「観月とセンセの関係も聞きません。聞きたいですけど、観月も困るでしょう? それに、私はセンセにいなくなってほしくないです。だって……」
「私、センセが好きですから」
「――ッ――」
2人目………。
また、こんなかわいい子が。
「観月?」
「うう、ううう~……なんでぇ~~」
アタシはどうにかなりそうだった。
……なんでみんな歩ちゃんの事好きになるのよ。そりゃあ、かっこいいのはわかるけどさー。
――アタシが一番好きなのに、一番長く傍にいたのに、ずっとずっと好きなのに。
「観月は大事な友達です。だから言いました」
いいよ、いいよ。もう腹くくってやる!
その宣戦布告。堂々と受けてあげる!
「カレン……」
「はい」
「今日、合宿が終わったら時間ある? 全部話すから」
「……わかりました」
ブクマ、評価よろしくお願いします。
誤字脱字などの報告も引き続きよろしくお願いします




