バレンタインデー 観月
昼休み。
俺は社会科教員室で珈琲を飲みながら過ごしていると観月が入ってきた。
顔は少し赤い。だが、どことなく嬉しそうなのが分かるのは付き合いの長さゆえだろうか。
「はい。バレンタインチョコ!」
「毎年ありがとうな」
「あ、本命チョコだからね」
「……分かってる」
今までのも本命チョコだったのだということはいくら俺でもわかった。
チョコをもらうと観月はじっと俺を見ていた。
「まだ何かあるのか?」
「いやー、いつもチョコもらってくれたけどちゃんと美味しいのか不安になって」
「観月のなら間違いない」
「そ、そう言ってくれると嬉しいけどさー」
どうにも不安があるようだ。
観月の今の不安を解消する方法はあるにはある。
俺は観月からもらったチョコレートを開く。珈琲飲んでて丁度甘いものが欲しかった。大量にチョコはあるのだが、一度に消費できるものではない。
包装紙を丁寧にほどき、中に入っているチョコレートを見る。
「チョコレートタルトにしてみたの」
「なんかいつもより気合入ってないか?」
「だって、今年はたくさんもらってるじゃん。アタシが渡したチョコがどんなのか忘れられてたら嫌だし」
「忘れるわけないだろ」
忘れられるわけがない。
嬉しくもあるし、観月の健気さに少しくらっとする。
観月が視線で急かしてくるので食べることにする。
タルトがサクサクでチョコレートも濃厚だ。どこかの妹の違って安心して食べることができる。サイズは小ぶりなのであっという間に完食してしまう。
「うん。美味い」
「よかった。なんかいつも料理する以上に緊張しちゃった」
俺にチョコを渡すのに毎年緊張していたのだろうか。
「スマン」
「え? 何が?」
「いや、なんか毎年当たり前のようにもらってたんだなと思うと急に申し訳なさが……」
観月の想いに気が付けず当たり前のように受け取っていたのはちょっと申し訳ない。
でも、今年は観月からチョコをもらった時には少し緊張した。
観月の気持ちを知っているからだが、毎年よりも嬉しく感じたのは事実だ。
それに、もらえるのが当たり前じゃないということが今更ながら思い至った。思い上がりも甚だしい。
もらえなくなる可能性は十分あり得る。
「もらって当たり前だって己惚れてた」
「……アタシは歩ちゃん以外に渡したくないよ?」
「……」
「できればずっと渡し続けたいと思ってるの」
「……お前、すっげえこと言ってる自覚はあるか?」
「うん。じゃ、教室戻るね」
絶対、俺の顔赤くなってるよ。多分、観月の顔を同じくらい。
◆
観月
「あーあ~~あー……」
ものすっごく緊張したぁ~~。
思い出して「うわー!」と叫びたくなる。
毎回毎回、作っているチョコだけど今回のはいつも以上に緊張した。
いつもは渡すとすぐに逃げてきた。
けれども今日はジッと食べているところを見てた。食べてるときにどんな顔をするのか、美味しかったのかとかいろいろな思いがあった。
――アタシは歩ちゃん以外に渡したくないよ?
――できればずっと渡し続けたいと思ってるの
死にたいッ!!
本命チョコなんて一人に渡し続けることができたら幸せだろう。
だって思いが叶ってずっと傍に居るってことなんだから。
付き合うとかそんなのすっ飛ばして、もうプロポーズみたいなこと言っちゃった!!
それに歩ちゃん。
なんであんな反応するのよ!
「嬉しくなっちゃうじゃん……」