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高城兄弟妹

 部屋の扉を開けるとリビングの電灯をつける。

 渉と歩波は今日は俺の部屋に泊っていくということになった。

 どうやら最初からそのつもりだったようだ。

 送り届ける手間が省けるからその方が楽だから俺もこっちの方がいい。明日は渉に合いカギを渡して出勤する。


「うー、寒っ」

「お風呂溜めるねー」

「泊っていくのはいいけど、寝る場所がないぞ」


 問題があるとすれば寝る場所だろう。

 歩波が俺の部屋に泊っていた時に使っている布団はあるが1組あるだけだ。


「心苦しいけど渉くんは野宿だね」

「この寒空の下で野宿とか殺す気ですか?」

「公園に寒さをしのげる遊具がある。あと新聞紙くらいならやれる」

「外よりも家族の冷たさにゾッとしちゃうわ。普通にソファとかでよくない?」


 寝間着は俺のを使えば十分だろう。

 歯ブラシや下着はいくら兄弟でもシェアするのは想像するだけでも気持ち悪いので新しいのを出すことにした。




 風呂の順番は「おにいたちの後なんて何が浮いているか分からないから絶対イヤ」と声優をしているだけ感情のこもったマジなトーンで言うので歩波に一番風呂を譲ることにした。

 言葉の刃は俺と渉の急所を抉るには十分すぎる言葉だった。世のお父さんたちは良く耐え忍んでいると思う。シスターファーストの後は年功序列のため次は俺が風呂に入る。

 

 

 我が家のルールでは一番最後の奴が風呂洗いをするということになっているため渉に風呂洗いをさせる。風呂洗いをするイケメン俳優とはなんともシュールな光景だ。

 渉も一人暮らしをしていたのである程度家事はできる。

 まるでダメなのが妹というのはこれ如何に。別に家事は女性がするものという偏見はないんだけどさ。


「いやー、マスゴミのストレスから解放される生活ってマジでいいわー」

「そんなもの連れてくるなよ」


 引っ越しの理由がファンに自宅を特定されたなどとも聞いているが、そんな物が俺のアパートに来てほしくない。


「けど、部屋に入る前に誰かの視線感じたかも」

「あ、私も」

「怖いこと言うのやめろよ!」

 

 戸締りやカーテンを閉める。

 見られるのが仕事の渉が言う分、可能性としては十分考えられる。

 

 渉はいつも注目されて鬱陶しくなったりしないのだろうか。

 もしかしたら見えない部分で相当ストレスを感じているのかもしれない。

 俺には理解してやることのできないストレスだからか下手な慰めは余計なお世話だろう。


「大家さんにも伝えておくか。防犯カメラとかはチェックしている時間もないだろうけど」

「これから世話になるし、セーフハウスは俺たちで守らないとな」

「だよね」


 あ、こいつら俺の部屋を緊急避難所にするつもりだ。

 すでに棚の一部は歩波の私物で占領されている。こいつらの私物が増えていかないように注意していこう。



 

 適当な雑談をして、だらだらと過ごしていると夜も深けてきた。

 寝室に歩波の布団を敷いてベッドに入った。歩波と渉のジャンケンで一組しかない布団の使用権を渉が得ることになった。


「この齢になって兄貴と一緒のベッド寝ることになるとは……」

「文句言うならお前の布団を強奪した人気俳優に言え」

「ジャンケンが弱い歩波が悪い」


 ベッドは少し大きめなものを買ってあるので歩波くらいのサイズであれば何とかなる。布団よりははるかに寝心地の言いマットレスも使ってるから贅沢言うな。さらに言えばあっちは布団一枚でこっちは毛布まである。


「でもさ、こうやって兄妹揃って寝るのって久しぶりだよね」


 歩波が懐かしそうに言う。

 一緒に暮らしていた時は祖母が自宅にいないときはこうやって一緒の部屋で寝ていた。


「誰かさんが泣くからな」

「誰かさんがな」


 俺と渉は真ん中で寝ている歩波を見る。


「子供だったんだから仕方ないじゃん」

『今でも子供だ』


 今でも歩波が1人が不安なのは知っている。成恵さんが歩波が一人でいるときに俺を家に招くようにしているのは歩波が一人になることを避けさせるためだ。過保護だと思うが俺も可能な限りは一人にしないようにしている。


「一緒に寝てる時って夜遅くまで話とかしたよね」

「今思えばくっだらねえ話ばかりしてたよな。次の日は眠くて授業のことなんてほとんど覚えてない」

「誰かさんはサッカーの話ばかりしてたし」

「お前はアニメの話ばかりしてたろ」


 なかなか眠れないのはこうやって話をしていたからだとは思う。

 くだらない話ばかりだったが、昼間話をするよりも楽しかったんだよな。なにより、邪魔な女がいなかったこともある。

 知らない男を家に連れ込んで聞きたくもない嬌声を聞かされる。今ではその声の意味は分かるが幼かったころでも子供に聞かせる声ではない事だということはわかった。

 俺と渉は歩波にあの女の声が聞こえないようにするために話をしていたこともあった。歩波はそのことを覚えていないのが幸いだ。


「こういう夜は恋バナでしょ」

「だよな」


 おい、お前ら完全に俺をおもちゃにする気だろ。

 

 そうはさせない。

 歩波。その発言は自ら地雷を踏んだと気が付いているか。

 渉。お前の場合はスキャンダルになりかねないことを理解しているのか。


「あ、そういえば透が最近シルビアと一緒に出掛けているぞ」

「……………………詳しく」


 グルンと首だけを俺に向けて光彩の無い目でを俺を見る。

 俺の妹がこんなに怖いわけがない。俺の方が地雷踏んだようだ。ファンでも逃げ出すぞ。


「今更だろ、透さんならいつ彼女ができても不思議じゃないか、はぐっ!」


 暗くてよく見えなかったが渉の顔面に何か落とされた。影の大きさから枕元に置いてある目覚まし時計だな。俳優に顔をめがけて攻撃するとは恐ろしい奴だ。


 いいところに当たったのか布団の中で悶えている渉。

 ファミリーカーストの中でも最低辺だ。ちなみにトップは歩波。なんやかんやで全員が甘い。


「何で? シルビアさんと透くんが付き合ってるの?」

「いや、付き合っているとまでは言ってないが」

「でもデートしてたんでしょ?」

「シルビアの買い物に付き合っていただけだぞ」


 なぜ俺がそのことを知っているのかというと俺たちは大学のメンバーで共通のグループメッセを作っているからだ。飲み会の連絡などのために使われるアカウントだがシルビアは完全に私用として使っている。ちなみに要件は映画特典が複数欲しいからという理由だ。同じ映画を透はもう何度見たんだろうか。


「二人っきりじゃなくて大桐も一緒だったぞ」

「なーんだ」


 デートじゃないとわかると機嫌をよくする歩波。

 こいつの前では透の話題は極力選ぶことにしよう。


「ややこしい言い方しないでよ。もしデートならどうにかしてたよ……兄さんたちを」


 さりげなくわたると俺まで巻き添えにしていたという発言をする歩波。


「はいはい。明日オムレツ作ってやるから」

「半熟ね!」


 機嫌が悪くなったときは食べ物で機嫌がよくなる。単純な妹で助かった。


「あ、俺は卵焼きがいい」

「はいはい」


 朝食のリクエストをしながら俺たちは話を続けた。

 次第に眠気がし始め、渉か歩波の寝息が聞こえる。

 俺もそれに釣られて瞼を閉じた。


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