スキー研修 ⑧
スキー研修2日目。
俺は見回りがあったため浅い眠りを繰り返していた。
プラセボ効果でもいいので珈琲を飲んで脳の覚醒を促す。
「先生」
「ん?」
「俺たちはいつまで正座させられればいいのでしょうか?」
俺の目の前にはフロントの片隅で正座させられている生徒たちがいた。
全員、俺のクラスの男子生徒だ。
「んー、もうちょっとかなー」
「俺たちが何したっていうんですか!?」
「お前らが学外研修中なのにペイチャンネルを見ようとしたからだろうが」
ペイテレビとはホテルで1000円のカードを購入することで観られる有料チャンネルのことだ。
知っている人は知っているだろうが当然アレな番組もあるわけだ。まだ女子部屋に行こうとしただけなら注意だけで済んだぞ。
こいつらの頭の中はきっと――
枕投げ<女子の部屋<<<<<<ペイチャンネル
という具合になっていたんだろうな。そりゃモテんわ。
「なんですかそれは?」
「2ちゃん●るの親戚ですか?」
「シラを切るな」
どういうものか知っているくせに。
「俺たちがそれを見ようとした証拠はあるっていうんですかぁ」
「フロントから連絡もらった」
『すいまっせんでしたぁあああああああ!!』
映画を観ようとしたとかって誤魔化せばいいのにやっぱりそれ目的だったか。
とりあえず相沢からカードを預かる。
「くっそ! せっかく見張り班、報告班、購入班の3つのチームをつくり、ペイチャンネルカード購入という任務を果たしたというのに!」
聞いてもいないのに何か話し始めたぞ。
「俺たちは大きな期待と興奮を胸にテレビにカードを挿入した!!」
「だが、テレビは映らかなかった! 何度もカードを入れ直し、時にはファミコンばりに機械をフーフーしてもなお、テレビは真っ黒な画面のままだった……」
「このホテルはどうなってるんだ!! カード入れても何も流れないんですけど!!? どうなんってんすか!! マジ有り得ないっすわぁ!!! こっちは金払ってんすけど!」
相沢。逆ギレするな。フロントの女の人がクスクス笑ってるよ。
正直、こいつらを説教するこっちが恥ずかしいです。
学校主催の研修ということなので、当然学校側がホテルを手配する。
そういった場合、学校側からホテルに有料放送の停止措置を依頼していることがほとんどだ。ホテル側が自主的に行ってくれることだってある。ホテルはこの時期には多くの学生が利用するのでそのあたりは徹底してくれている。
1000円という高校生にとっては決して安くない費用を払っている上、教師にバレるかもしれないというリスクを背負ってカードを購入した結果がこれだ。
――一生の思い出が残るんだろうな。数年も経てば笑い話になるだろうけど。
時間的にはもうそろそろ朝食の時間だ。
事情が女子に知られようものなら――
『うわー。あいつら前からキモいかなとは思ってたけどマジできもいねー。ひくわー』.
『マジゴミじゃーん』
『生きてて恥ずかしくないのー』
想像がひどすぎるかもしれないが罵られ、卒業するまで学年全ての女子からミミズの死骸のように扱われてしまうだろう。
あまりにも哀れだと思い、俺は男子たちに解散を促した。
「カード料金は返してやるから、それで我慢しなさい」
男子たちが朝食会場まで移動を始めると、俺はフロントに移動する。
先ほど俺たちのやり取りを見てくすくすと笑っていた女性に返金を依頼する。女性からは「よくあることですので」と笑いながらカードを引き取ってもらった。
「兄さんオハヨー」
「げえ……」
最悪のタイミングで歩波が俺の元へとやってきていた。
歩波がいるということは自然と同室の子たちも一緒にいる。
「何してんの?」
「……別に何も?」
おざなりに応えて早くこの場を離れることを願う。
「ん? んー?」
何かセンサーにかかるものがあったのか歩波は興味深そうにフロントに視線を送る。
すると何とも間の悪いことにフロント女性がお金をもってやってきた。
なぜかカードも一緒にもってきた。
「では、こちらは返金させていただきますね」
そうやってカードも引き取るんならわざわざカードを持ってこなくてもいいんじゃないですかね!?
「あ……ふーん」
何かに納得し、口元に笑みを浮かべる歩波。
「おい、何か誤解してないか」
「いいっていいって! 兄さんも男だし、1人部屋だしね」
「確実に誤解してる!」
「分かってる、わかってる」っていう顔がイラつく。
女のお前に男の何が分かるっていうんですか!?
「でも、さすがに仕事中はやめておいた方がいいと思うよ」
「……歩ちゃん、サイッテー」
「歩先生……」
「ムゥ……」
「ま、まあ男の人ですしね……」
「私は理解ありますよ」っていう涼香のフォローが一番キツイです。
「だから、俺じゃねえって。クラスの男子たちのもんだよ」
俺は自分の保身のために生徒を売った。
あまりの高速の手の平返しで手首と心が痛む。本当だよ?
好きなだけ奴らを罵ればいい。
「学外研修中にアダルト動画見てた教師」なんて思われたくない。死んでも嫌だね!
そんなのは座間先生から聞いたところによると剛田先生や小杉先生で十分だ。
「あー、やりそう」
「まったく学外研修中だというのに」
これ以上の弁明は必要ないようだ。
普段の行いはやはり大事だと常々思った。
……
………
…………
午前中は1組は自由行動が認められている。
ずっとスキーばかりでは楽しめない生徒もいるだろうから息抜きになればいい。
といっても、このあたりには本当にスキー場くらいしかなく、ホテルの中で過ごすか雪遊びをして過ごすくらいしかできないのだが。
ホテルの中にはカラオケなどもあり大広間を開放してあるがほとんどの生徒が外に出ていた。
自由時間は俺も休憩時間ということでロビーでスマホをいじっていると渉のニュースが目に飛び込んできた。どうやら今撮っている撮影が一昨日、クランクアップしたらしい。俺にとっては非常にどうでもいいニュースを読んでいるのは何もせずに過ごしていると声をかけられるからだ。
「あのぉお時間よろしいですか?」
「今日の夜、私と一緒に過ごさない?」
「私の部屋の番号は……」
少し遠慮しがちに迫ってくる女子大生。
上から目線で私との時間を共有させてやろうと誘ってくる妙齢の女性。
部屋の番号をメモした紙を俺に渡してくる女性などに声をかけられちっとも休むことができないでいた。
「教師ですので」といえば少し驚いて去っていく。俺ってそんなに教師に見えないか。
「なあ、死体が見つからなかったら殺人にならないんだっけ?」
「山にする? 川にする?」
「ここはどっちもあるからなぁ」
「悩みどころだ」
「上は川で下は山にしよう!」
『それだ!』
自分たちがナンパされないからといって笑顔で俺の埋める相談をするな。
俺を探していたのかクラスの男子たちが俺の元へと寄ってくる。殺る気か?
「で、どうした?」
「雪合戦しようぜー」
「昨日8組とやってまけちゃってさー」
「盾になってよ」
「ふざけんな」
ここに居てもまた声をかけられるだけかと思い俺は生徒たちについていくことにした。断れば集団暴行殺人事件に発展しかねないと思ったこともある。
今思えばここでやめておけばよかった。
◆
「それではこれより、男子対女子の雪合戦を行います」
「8組とやるんじゃないのかよ」
雪合戦に来たのはいいが、男子(俺を含め20名弱)対女子(100人超え)というなぜか数的に圧倒的不利なものとなっていた。
そして、なぜかこの雪合戦を仕切っているのはシルビア。
「男子たちにはこれから首に巻いたマフラーを守りながら、女子陣地にあるスキーストックを取れば勝ちです。女子たちは男子たちからマフラーをすべて簒奪、もしくは全員気絶させれば勝ちとなります。武器の使用は男子は雪玉のみ。女子は雪玉、素手での攻撃のみが認められます」
競技項目が雪合戦から雪上の合戦に変わってる。
気絶って何? 雪玉に石でも仕込むのか。
「防御でスキー板を使用するのは?」
大真面目でどんな質問してるんだよ。
「有りです。迫ってくる雪玉をストックで打ち落とすのも可です。というより、道具の使用は攻撃以外の大抵のことは許容します」
なにそれ怖いんだけど。
「わかりました」
何が分かったのかが分からないが、俺は首に巻かれたターゲットであるマフラーを返却して離脱したい。
「それでは、男女に分かれて10分後に開始とします」
俺は男子と一緒に男子陣地へと移動する。
遊び場は傾斜となっており女子が上の陣地となっている。
ただでさえ雪で足を取られるのにスキーストックがあるまでの道のりが坂とかとことん俺たちは不利だよな。
「女子に雪玉ぶつけるっていうのもなんか罪悪感がなぁ。素早くストックだけを取りに行くか」
「そんな余裕すぐに消えますよ……」
サッカー部の藤堂が真剣な目で話す。
「なにが?」
「ウチの副担任をお忘れですか?」
「……………荒田先生がいたか……」
そうだ。
教師である俺が参加しているから向こうもアレが参加していても不思議じゃない。
場合によってはスキー板が飛んでくる可能性もあった。武器の使用は禁止としてよかった。
「石を入れて投げるか」
遠距離から一方的に攻撃する方が安全だが、ただの雪だと撃ち落される。
投雪の利点は逃げることができる点がある。特に顔面や目への投石は効果が高い。幸いにもここは雪国だ。雪に包んで偽装する手段は落ちた石はそのまま雪に埋もれて証拠も残らない。
「さすがにそれをやったら人間性を疑います」
「冗談冗談」
なら、荒田先生限定で目を狙うしかないな。
俺は一応持ってきたゴーグルをしっかりと装着した。向こうも同じ手段を取る奴がいないとは限らない。
男子の陣地に行くと男子たちは雪壁を作っているところだった。
1か所に固まるより俺たちは逃げ回る方がいいと思うんだが。
「とりあえず、作戦名は「オーダー66」にしようと思います」
おい、裏切る気満々だろ。
背後から奇襲され射殺される某騎士たちの姿が目に浮かぶ。
縁起が悪いので作戦は却下させてもらった。
「数人ずつ分かれてストックを狙いに行きましょう。固まっていたらあっちのバーサーカーに殺されますから」
「あっちにはなぜか知らんが異様に人の背後を取ることうまい奴がいる。急所を狙ってくるから気をつけろ。背中に注意だ」
「アサシンかよ」
ホントこっちに来る前どこで何してたんだろあのメイド。
「アレですね。バーサーカ-にアサシンと来ると、まるであの世界にいるみたいです」
「……ああ、あれか」
スマホのゲームでも映画でもアニメでも好評のあの作品。シルビアが好きだったな。
――残念ながらこっちにはランサーくらいしかいないけど。
ランサーってどんなランサーであれ最後まで生き残れるイメージが全くない。
善戦しようが最後には自害させられるか喰われるか。碌な死に方は期待できない。まさにこれからの俺たちの未来を現しているかのようだ。
――とりあえず、荒田先生対策はしておくか。
俺はスマホでアレを沈められる唯一の人物に連絡を送った。
牽制用の雪玉を作っていると大きなホイッスルの音が響く。
ここからは数人に分かれて行動することになるが8組の男子の一人が不用意に雪壁から顔を出した。
ゴンッ!!
飛んできた雪玉が頭部が直撃した。
だが音がおかしい。
「あ……」
「こ、小林いいいいぃぃぃいい!!!!」
8組の小林君の頭が狙われた。
そのまま雪の中に横たわる小林君。この威力は間違いなく荒田先生だ。フィジカル以外でならまだましと考えていたが雪玉でも十分ヤバい!
「……当たったはずの雪玉が砕けずに原形保ってる……」
藤堂が戦慄しながら言う。
俺は飛んできたこぶし大の雪玉に触れる。
どんな握力でこの雪玉を握りこんだのかほとんど石だぞ。
「こ、小林! し、しっかりしろ!」
「お、俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ。だからよ、止まるんじゃねぇぞ…」
それが小林くんの最後のセリフだった。
そのセリフが言えるくらい余裕があるなら大丈夫だろう。意識飛んだけど。
「ヤバい! 狙われてるぞ!」
「散れ、散るんだ!!」
蜘蛛の子を散らすように逃げていく男子たち。
雪合戦っていうか一方的な「狩り」っていう方が正しいと思えてくる。
俺たち男子の約半数はバーサーカーから放たれる投雪から逃れるべく近くの林に避難する。
『うわあぁああ!』
『く、くるなー!』
聞こえてくる数人の男子の悲鳴。
荒田先生は徐々にこちらへと向かってきてるようだ。
雪玉で散るかフィジカルで潰されるかのどちらかだ。
隠れていると俺のスマホが震える。
救世主からの救いの着信に俺は嬉々としてスマホを開く。
ちなみに俺のシルビアからの着信音は「ド●クエの呪いの装備つけた時の音」だったりする。着信音で誰からの連絡か分かれば気が付かないふりをすることもできるからね。
……
………
…………
俺たちは林へ避難したがこれは誘導といってもいいだろう。
女子陣地への道のりにある木の陰から結構な数の女子が出てきた。
「いた! 高城先生!」
「きゃああああ!!」
「受け取ってー!」
可愛らしい声を挙げながら挙げながら可愛くない数の雪玉が俺に向かって飛んでくる。
中には俺のクラスのソフトボール部の女子もいる。正直、球速がシャレにならない。
不意に“石打ち”という処刑方法が俺の脳裏をよぎった。
下半身を生き埋めにして、動きが取れない状態の罪人に対し、大勢の者が投石を行い死に至らしめる処刑法。処刑の中でも最も苦痛が多いとされるとシルビアが言っていた。あいつは妙に拷問や処刑方法に詳しい。
「くっそ、雪玉食らいながらだといつか荒田先生に追いつかれるぞ!」
「き、来ました!」
「速っ!」
この進軍スピード。荒田先生は重りを外している! 本気だ!
俺はそちらを振り返ると雪玉を握りながら雪上とは思えないほどの速さで走り抜けてくる荒田先生がいた。
「高城ぃ! てめえ! よくもちーちゃんを弄んでくれたな!!」
俺は察する。
さてはあのドSメイドがまた適当なこと吹き込みやがったな!?
「リミッターは外したぁ! しばらく粥以外はは食えると思うなよ。あ、ダメだ。ちーちゃんが看病であーんとかしちゃいそう」
顎でも砕く気か。
いや、後半のセリフからだとしばらくまともなものは食べさせてもらえなさそうだ。最悪、栄養剤を血管に直接注入になるかもしれん。
――頼む! 早く、早く来てくれ!!
「ここは俺が……」
「相馬!? 時間稼ぎで死ぬ気か!!」
「時間を稼ぐのはいいが――別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」
おい、相馬それ以上しゃべるな。その弓兵も生き残れないぞ。
というより、そのセリフが言いたかっただけだろ。
「よっしゃぁああああああああああああ!!」
「フンッ!」
相馬の首に荒田先生のラリアットがヒットする。
結果は相馬は犬死にだった。せめて5回は殺せずとも10秒は稼いでほしかった。
身体が空中で回転するほど強烈な一撃とかシャレにならん。
「前座は終わりだ」
「ぐえ……」
荒田先生が相馬のの身体の上に足を乗せる。さすがにそれは教師としてNGではないでしょうか。その足の下にいる相馬への一撃が前座とかないだろ。
「まずは雪玉で目を潰して……親指から順番に……足、顎、口、念のためにあっちの方も……いっそのこと……」
シルビア! お前ほんとにこの人に何言ったんだよ!!
虚ろな目の荒田先生が雪玉を振り被った瞬間に俺の待ち望んだ瞬間がやってきた。
~~~♪~~
地獄絵図が始まる林の中に似つかわしくない恋人同士の着信音に使われそうな甘ったるい曲が流れた。
荒田先生はモーションをやめてスマホを開いた。
「あ、ちーちゃん♡ どうしたのー♡ え? 声で聴きたかった? もー♡ 甘えんぼさーん♡」
女性という生き物はどうして電話に出るときどれほど機嫌が悪くても声がワントーン高くなるのだろうか。荒田先生の場合は人も変わっている気がするけど。うえぇ……荒田先生が乙女の顔してるぅ。
他力本願ではあるがこの雪合戦が始まる前に百瀬に荒田先生に連絡を頼んでおいた。
あの人、百瀬の前では途端におとなしくなるからな。
百瀬との会話を聞かれたくないのか荒田先生は雪玉を放り捨てホテルの方へと戻っていった。
「た、助かったんですか?」
とりあえず、当面の危機は去った。
女子たちが雪玉を投げながら追いかけてくる。
俺たちは人ごみや林の中に紛れて姿を消した。
――あのくそメイド。ぜってー勝ってやるからな!!
俺はスマホを開いてある人物を呼び出した。
さっきほどメッセで成恵さんから連絡があり、ある男がこちらに来ていることが分かった。
◆
涼香
「愉悦」
シルビアさんは表情は変わらないけれど心の底から楽しそうだった。
「荒田先生は戦線離脱しましたか。先輩だけは仕留めておきたかったのですが……お風呂場のカビのようにしぶとい」
「ですよねー」
私たちの陣地の中でまるで軍師のように扇で顔を仰いでいるシルビアさん。
それに同調する歩波さん。
この2人が高城先生を仕留めようとしている諸悪の根源だった。
ちなみに荒田先生を焚きつけたのは観月。
『雪の上に押し倒したら好きにしていいよー』
さらに言えば歩波さんのこの一言が女たち雪合戦へと駆り立てた。
「先ほどから男子が数人ほど奇襲を狙ってきていますが、迎撃はできていますね。しかし、相手を沈める決定打にはかけているようです。やはり荒田先生がいなくなったのは惜しい」
荒田先生に気絶させられターゲットを奪われた男子たちは自分たちが作った雪壁の上に重ねられていた。気絶しても放置されているのはきちんと指定した時間に荒田先生が目覚めるように気絶させたからだった。本当、なんであの人高校の教師してるんだろう。
「向こうもこちらへ攻めあぐねているようです」
この2人が作戦を考えて女子たちが実行している。
私たちは基本的に雪玉を作る日陰役に徹している。
男子も女子に雪玉をぶつけることに抵抗があるのか投げてこない。本当に私たちがやってるのって雪合戦なのかな。
「……男子たちの奇襲がなくなりましたね」
あれから30分くらいが経ったと思う。
幾度となく繰り返された男子たちの奇襲はなりを潜めていた。気絶していた男子も意識を取り戻していた。けれども、ターゲットはすでに獲られているからあの男子たちは雪合戦には復帰できない。
5分くらい前に荒田先生も復帰して状況はますます男子たちに不利になっていた。
「んふー。ちーちゃ~ん」
荒田先生はだいぶ落ち着いていて先ほどみたいな狂戦士化はしていないのは男子としては助かったと思える。
「諦めたっていうことはないと思いますよ。あの兄、こういった遊びでは結構ガチになるタイプです。今頃「吠え面かかせてやるー」とか思ってます」
あ、それはありえそう。
ムキになっている高城先生を想像して私たちも思わず笑ってしまった。
「おそらく決戦は近いでしょう。守備を固めて……来ましたか」
視線の先には男子たちが横一列に並んでいた。数的にも残っている多分男子の全員だ。
「いくぞおおぉおおおお!!」
藤堂君の掛け声で男子たちは問答無用に突っ込んできた。
「これは……バンザイ・アタック?」
シルビアさんが呟いたのは戦争中に実行された、玉砕前提の突撃だ。
まあ、これが終われば休憩だしこれでもいいかな。
「弾幕用意っ!」
投雪部隊(ソフトボール部、バスケ部、陸上部(砲丸投げ))の女子たちが一斉に雪玉を投げ続ける。
「ぐあっ!」
「ブハッ!」
顔面に当たると視界が遮られて味方同士でぶつかって雪の上に倒れていく。
その光景はまさに死屍累々だった。
「ターゲットを回収!」
陣地に数人を残して男子たちの持っているターゲットを取りに行く。これが全部そろえば私たちの勝ちだ。
あ、出遅れた。
なんで私、高城先生もいるのに動かなかったんだろ。
何人かの女子が荒田先生の投雪が直撃して横たわっている高城先生のもとへと向かう。多分、ターゲットなんかよりも「高城先生を好きにできる」というご褒美に目がくらんでいるのだと思う。
――あれ? なんか変……。
高城先生の着ているスキーウェアは同じだけど。首に巻いているターゲットの白いマフラーは淡い水色のマフラーに変わっていた。
――あの人って高城先生じゃない?
そんな疑問符が頭に浮かんだ瞬間――
「とったぞシルビア!!」
「なっ!?」
私たちの後方――傾斜側からスノーボードに乗りこなしスキーストックを華麗に奪取する先生がいた。
ネタが多いです。何のアニメか探してみてください。