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スキー研修 ⑥ 夕葵

 ホテルに戻れば生徒たちの風呂の時間は終わりとなっていた。

 生徒たちはお土産を見に降りてきたり、恋人や友人と過ごしたりと各々好きな時間を過ごしていた。


 一般客の姿も当然見えるが俺たちは生徒が一般客に迷惑がかかっていないかを監視する必要がある。


 その逆も十分にあり得るのだ。

 その光景を目撃してしまい俺は動き出した。


 ◆

 夕葵


 私は1階のロビーにあるお土産コーナーにいた。

 お土産を買おうかと迷っている生徒もいるがあと一日あるのだから今買ってしまっても荷物になるだけだろうと考えて今日は目星を付けるだけにとどめた。


 ――お婆様にはお漬物を買うとして、祭さんには……


 普段お世話になっている人たちに買うお土産となると結構な量となる。

 気にしなくてもいいと言ってくれるのだがいつも私がもらってばかりでは気が済まない。


「あれー? 君、ひとりー?」


 明らかに私に声をかけてきた背後からの声に振り返った。

 ただし、男性は1人ではなく3人いた。


 私に声をかけてきたのは髪をワックスで整えて、他の二人とは違い粗野な印象は見受けられないがへらへらと笑った口元がなんともだらしない、嫌いなタイプだった。


「キミ、修学旅行にきたのー?」

「俺らここらへんの学生だからよ、色々教えてやれるぜー」

「そうですか」


 ナンパという奴だろう。最近はやたらとこのような人間に声をかけられることが増えてきた。この事を祭さんに相談したら「恋を知ったから可愛く見えるのよー」などといっていた。


 あまり構いすぎて脈ありだと思われても面倒なので話を切り上げようとするが相手もそのことを理解しているのかなかなか離れてくれない。


「俺さー、今日スキーで滑ってた君に一目ぼれしちゃったんだよねー」


 あまりのストレートすぎる言葉に思わず面を食らってしまう。


「……そうですか。そろそろ部屋に戻ろうかと思っていたので失礼します」


 私は立ち去ろうとするが男たちはしつこかった。行く手を阻まれてしまう。


「名前教えてもらってもいいかな?」

「つーかメッセのID教えてよ」

「なぜあなたたちに?」

「もっちろん、興味があるからだよ」

「すいません、今は学外研修中なので」


 無視して立ち去ろうとするがいきなり私に向かってスマホのカメラを向けて一枚とる。


「やめてください!」

「おっほ! 怒った顔もカワイイー!」


 私の拒絶など気にした様子もなく男は私を取り続ける。


「つーか、マジ本当に高校生?」

「グラビア顔負けじゃん!」


 私の身体を無遠慮に舐めまわすように見る男たちの視線に気持ち悪さが背筋を撫でる。

 せっかくの学外研修だというのになぜこのような男たちにそんな目を向けられなければならないだろうか。

 男たちももしかしたら旅行で気が高ぶっているのかもしれないがそれは言い訳にはならない。


「んなら、俺らの部屋来る?」

「学校じゃ教えてくれないようなこと教えてやるからさー」


 この人たちは口説きに来たのではなく挑発しに来たのだろうか。


 男の手が無遠慮に私に伸びてきた。

 私の身体に触れようとしたその瞬間に私は反撃しようかと思っていたのだが、その手を横から掴み取る男の人の手があった。


 ◆


 話は途中から聞こえていたがなんとも下種な連中だった。

 夕葵に触れようとする手を俺は横からつかみ取る。


「え? なに? 横入りとかやめてくれる?」


 どうやら、ナンパの横取りと思われているようだ。同類と思われるのはものすごく嫌です。


「ウチの生徒に何か御用ですか? 先ほど部屋に連れ込もうというくだらない話が聞こえてきたんですけ、ど!」


 言葉の終わりにさらに力を加えて手首を絞める。


「い、いてぇ!」

「じょ、冗談だよ。冗談!」

「真に受けんなよ! だっせーな」


 チャラい外見に見合わずこのような事態になれていないのか手首をつかまれている男以外は後ずさりながら俺から距離を取る。


「次にウチの生徒にくだらない真似したらしかるべき処置を撮らせていただきますので……ああ、あと写真撮ってただろスマホよこせ」


 男の腕から乱暴にスマホを奪い取ると画面はロックされる前で写真の中には先ほど取られていた夕葵の写真があった。しかも顔ではなく体にピントを合わせたものだ。


「ほかに取った奴は?」


 残りの男2人を見据えて話をする。


「し、してねえよ! は、離してくれ!」

「ウソです。そっちの男も撮っていました」


 人差し指を軽く動かして「よこせ」と伝える。


「シルビア」

「はい」


 お土産コーナーでご当地キャラグッズを眺めに来ただろうシルビアが横目に入ったので呼び出しそいつらのスマホを手渡す。俺が要件を言う前にスマホを開き、写真データをサルベージする。


「……とりあえず写真のデータはすべて削除させてもらいました。時間的にもPCに保存は難しいでしょう。これで容疑も証拠も消えました。警察にお世話になることが無くてよかったですね?」


 夕葵の写真だけ消してくれればよかったんだが、全写真削除までしたのか。もしかしたら他の生徒も写真を撮られていた可能性もある。

 とりあえず、ナンパ達は学生だということなので財布の中から学生証をしっかりと記録させてもらう。


「もし、今日の写真が勝手にアップされることがあったら、お前らの仕業と考えて警察に連絡するからな」

「わ、分かったよ……」


 騒ぎを聞きつけて野次馬が集まってきた。

 容疑者は明らかに向こう側なので一刻も早くここから立ち去りたいのか急いでこの場を離れていった。


 騒ぎも収まったので野次馬も解散していく。


「シルビア、サンキュ」

「構いませんよ」

「お礼は歩波が今日一日中持っていた使い捨てカイロでいいか?」

「よろしい」


 歩波が俺の部屋に忘れていった使い捨てカイロ(使用済み)を満足げに自分の懐にしまう。ゴミでなぜあそこまで喜べるんだかはわからない。まあ、それを知って差し出す俺も俺なんだけど。





「あの、助けていただいてありがとうございました」


 夕葵は頭を下げて俺に礼を言う。


「当然ことだから気にしないで。誰も助けようとしなかったから助けただけだから」

「いえ、動いてくれたのは先生だけでしたよ」


 夕葵が絡まれているのを目撃していた教師はほかにもいたようだがなかなか動こうとはしていなかったはしっている。夕葵の位置からだとその教師たちのことが見えていたはずだ。


「けれど、どんな人よりも歩先生が来てくれたことが嬉しいです」

「……そうですか」


 先ほどの男たちには見せなかった笑顔の夕葵。

 この顔を見たら一目惚れなんていうのは事実なのではないかと思えてきた。


 そのまま夕葵のケアをかねて一緒にいることになった。


「最近はあのような人が増えてちょっと困っていて」


「夕葵は美人だからなぁ」などといってもセクハラととらえかねないし、フォローとしても最悪だろう。


「先生も結構大変でしたのではないですか?」

「さあ、どうだったかなー」


 一人で飯食ってたら他の席が空いているにもかかわらず隣に座られ、かつ解放してもらえない。一方的に話しかけられ適当に相槌を打つのにも疲れる。しかも大抵女子という生き物は集団で行動するのだ。女子一人につき累乗に疲れるといってもいい。


 男女では違うのかもしれないが少し夕葵の気持ちはわかる。


「どうやら大変だったようなのでこの話をするのはやめておきますね」


 夕葵は苦笑していた。

 俺、表情に出てた?


 夕葵と一緒に歩いていると、仲良さげに談笑している男女を見かける。

 座間先生と結崎先生だ。

 肩がくっつくくらいの距離で話していることから見ればあの男女は恋人同士だということがすぐに分かる。


「お邪魔しては悪いですね」

「だな」


 さすがにあの二人の間に割り込む気なんてない。

 親の目のないところで何をするかが分からないが節度さえ守ってくれれば何も言うことはない。

 だからこそ、俺たちの責任が重くなるんだけど。


「夕葵は誘われたりしなかったのか?」


 ホテル内での自由時間でもさすがに異性の部屋を訪ねるのは禁止されているがエントランスなどを観に来るのを止めることはしない。


「……全部断りました。この時間を過ごすことを何よりも優先したいことですから」


 もともと俺と過ごす気だったということを夕葵の言葉から察する。


「他の男性のことを考える余裕なんてありませんよ。先生一人で心がいっぱいです」

「…………真っ直ぐに伝えてくるなぁ」


 夕葵の大胆な発言に俺は感心半分、照れ半分だった。


「そうですか? ラブレターを渡した涼香ほどではないと思いますけど」

「ああ、俺もあれは……」


 ここで俺は夕葵の発言に耳を疑った。


「………ちょっと待て。なんで俺が涼香にラブレターもらったこと知ってるんだ?」

「え? 涼香から聞きましたから」

「………………ん?」

「カレンと観月が先生に好意を持っているのも知っていますし」

「それは誰から?」

「勿論、カレンと観月からです」

「…………」


 身体から力が抜けていくのが分かる。

 涼香と夕葵は親友同士だから好きな異性について話していても不思議ではない。

 そうだとしたら、今までの彼女らが俺の部屋を訪ねていたことなど色々説明が付く。

 となると、今日の部屋訪問ももしかしたら図っていたのかもしれない。


 だが、同じ人を好きなった場合でもあのように仲睦まじく過ごすことができるのか。


 俺はあの子たちから好意を伝えられている。

 だが、俺はその返事を返していない。


 複数の女性をキープする「ストック男子」というゲス野郎じゃねえか。

 自分が嫌いになりそうだ。


 ――けど、あいつらは俺に好意を持っていることを共有しているってことか?


 それでも待っていてくれるのだろうか。

 答えを保留したまま、ずっと同じ場所で停滞していることは、彼女達の未来を奪うことなのかもしれない。


「歩先生どうかされましたか?」

「……いや、今ちょっと自己嫌悪を……」


 もし俺があの子たちの中で誰かと付き合うことになったらこの子たちの関係を壊してしまうのでないか


  そんなことを考えたところで気が付く。


 ――いやいやいやっ! なんであの子のうちの誰かと付き合うこと前提で考えてるんだよ!!


 自分が考えていたことに自己嫌悪を陥りながら俺は夕葵と別れた。


 ◆

 夕葵


「先生は私たちが先生を好きな気持ちを共有していること知らなかったのか」


 私は先生にはもう何度も気持ちを伝えている。返事をもらうのはまだ待ってもらっているのだが、先生が気に病む必要など何もない。

 気持ちを伝える度に緊張するのだが、顔を赤くして反応してくれる先生が可愛いとも思える。


 ――すいません。強引にでも迫っていかないと不安になるんです。


 少しでも意識してほしい。 

 そんな焦りからも来ることもある。


「大好きです。愛しています」


 伝える気持ちを繰り返し言葉にした。


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