初詣
俺たちは向かっているのはこのあたりの人たちが参拝に訪れる神社だ。
歩波はサングラスにマスクというベタな変装で俺たちと一緒に行動している。
神社の敷地の周辺にはいくつもので店が並んでいる。正月は神社も出店も稼ぎ時だ。
鳥居のすぐ前まで来たら、一礼してからくぐる。
参拝を済ませるための行列に並んでいると
「今年こそ!! 彼女をお願いします!!」
「せめてワンチャン!!」
「なにとぞ!!」
「「「脱童貞!!」」」
とウチのクラスのバカ男子どもが拝みまくっている声が聞こえてきた。神社であんなことを叫ぶなんて不謹慎にもほどがある。
俺たちは知らないふりをしてその場から離れた。
「おみくじ引いてもいきたい」
「私は破魔矢を」
観月と夕葵の提案により俺たちは近くにある授与所へ向かった。
授与所では絵馬も置いてありそこで各々願い事を書いてある。やはり時期ということもあってか合格祈願の絵馬が圧倒的に多い。
俺たちは最初におみくじを引くために列に並ぶ。
「はい。ではこの中から棒を一本引いてください」
年季の入った木製の筒だ。
その筒の中にはたくさんの棒の詰まっている。
筒を渡されると各々がそれを振りおみくじを引いていく。
棒には数字が書かれてあり、その番号が印刷してあるくじを配られる。
「あ、大吉です!」
カレンが大きな声を挙げる。新年早々幸先がいいな。
「恋愛は……「積極的に行動せよ」です!」
――ははは……今以上にですか?
というより、まずは恋愛運に目が行くところが年頃だな。
他の子たちも似たようなものらしい。
「「一線を越えるな」か……もう少し慎重に行動した方がいいのだろうか」
「「この人となら幸福あり」うんうん! そうだよね!」
「「今の人が最上、迷うな」……最上……よし」
夕葵、観月、涼香が自分たちの内容を呟いて俺に意味深な視線を送る。
神様、貴方は俺にどうしろと言っているのですか?
「「待て、将来吉」か。まあ、こんなものかな」
歩波は自分を律して慎重に、というところか。
様子を見る限り、みなそれぞれがいい感じの内容が書かれていたようだ。
「兄貴は引いたの?」
「ああ、俺は……」
みんなの反応に気を取られていた俺は自分のを見ていなかったことを思い出す。
おみくじを開いてみて見ると
吉凶不分末吉
「なにこれ!? なんて読むの?」
俺のくじの内容をのぞき込んできた歩波が叫ぶ。
俺だって初めて見たよ。
「吉凶不分末吉……吉か凶をわけられない運気。いずれは吉へとなる……らしいですよ」
おみくじの説明が書かれてある看板を涼香が読む。
これは吉なのだろうか?
悪い内容であるのならば枝に結べば反転して良くなると聞くのだが、判断に迷う。
「あ、恋愛運ってどうなってるの!」
観月は俺からおみくじをひったくると読み上げる。おい、俺だって詳しく読んでないんだぞ。
「恋愛……周囲の理解が必要」
自分の意思を貫き反対されても周囲の理解を得られるまで努力するのか、理解が得られないなら諦めるのか、判断が難しい内容だな。
内容を思い出せるようにということでおみくじを財布の中にしまっておくことにした。
「おお! 高城先生!」
おみくじを財布にしまうとちょうどそのタイミングで声をかけられた。
俺と同じく静蘭で勤務している先生だ。
遠くから俺のことを大きな声で呼ぶのは勘弁してほしい。
だが、そのおかげかこの子たちと一緒にいるのを見られずに済んだのは助かったかもしれない。
「ちょっと、挨拶してくる」
「じゃあ、私たちは絵馬描いてるから」
俺はみんなと距離と取り俺を呼んだ先生のもとへと向かった。
……
………
…………
「はぁ……話、長かったなぁ」
あの先生は佐久間教頭までとはいかないが話をすると長い。
話が終わったタイミングでポケットのスマホが震える。
歩波からのメッセでどうやらそれぞれ帰路についたようだった。
歩波は自宅に帰らず俺の部屋に来るとのことだった。
そういえば、みんなは絵馬を書いたと言っていたな。おれもちょっとやってみようかな。
絵馬は願いごとのためにまたは叶った願いごとの叶った謝礼をするときに社寺に奉納する、絵が描かれた木の板だ。
最近では聖地巡礼の一環として、作品に登場するキャラクターを描いた痛絵馬が多く奉納される傾向があるのだが、稀にクオリティが高すぎるものもあるというのだが俺は一つの絵目に目が言った。
「あのバカメイド……」
絵馬には生年月日などを記載するので誰が書いたかすぐにわかった。
ひときわ目を引く痛絵馬にはシルビアの名前が記載されている。
けれど、願い事が一切かかれていない、絵馬の意味はあるのだろうか。
絵馬をのぞき込む不埒な輩もいるので最近では神様だけに伝わるように願い事が書いてある側にシールが貼ってあるものもある。名前も書いてあるから立派なプライバシーだ、見られたくない内容もあるのだろう。
今年の受験生のために合格祈願でもしておこう。
俺は授与所でもらって絵馬に「静蘭学生 志望校合格」と記入して絵馬を奉納した。
神社でやるべきことを終えた俺はそのまま三日月荘にある俺の部屋へと帰宅することにした。