表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

生まれ変わっても。

作者: 葉月 ユウ

ずっと昔、僕は交通事故で死んだ。

そして、ここにきた。

"ここ"とはどこかと聞かれたら

なんと答えるだろうか。

閻魔も仏も、鬼だって居ないし

針山も血の池地獄もなければ

フワフワした雲の上でもない。

僕なら、ここを「無」と答えるだろう。

見渡す限りの白。

障害物はないから

声も跳ね返ることをしない。

風は吹かないし雨も降らない。


あるとき、僕は誰かに

下の方向に突き落とされた。

誰かの恨みをかった覚えはないし、

そもそもここには僕以外には

誰もいない。

でも、突き落とされた

という表現以外では

うまく説明することができない。


「うあ!」


声にならない叫びが大気を揺らす。


気がつくとそこには

たくさんの人、声、音。


さまざまな情報が

形になって脳に流れ込んだ。


「被験者94番の方、三番窓口へどうぞ。」


驚きのあまり声がでなかった。

誰かの声を聞いたのは

いつぶりだろうか。


3と書かれた札の立った

カウンターから


「94番の方どうぞ」


と女性が僕の方を見ながら

言ったので

とりあえず3番の窓口に

腰を下ろした。


「あ、あの…これは??」


「お名前と生年月日を」


「へ?」


「お名前と、生年月日をどうぞ」


その女性は首をかしげながら僕に言った。

開口一番にそんなことを言われても

戸惑ってしまうのは

致し方がない。


「何故ですか」


「本人確認のためです。」


「本人確認って、これ

なんなんですか?

何をしようとしているんですか?」


状況を理解できていない僕は

まず知りたいと考えた。

自分が今どのような

状況下にあるのかを知らなければ

何をすべきなのか

皆目検討もつかないと

思ったからだ。


「あなたの来世を決めるためです。」


「…は?」


女性に提案された来世には

さまざまなプランがあった。

その中から僕が選んだのはCプラン。

両親を選ぶことができるプランで、

場所や国は選ぶことができない。

なぜ僕がこれを選んだかは

言うまでもなく、裕福な家庭に

生まれたかったからだ。

ずいぶん正直だなと

思う人がいるかもしれないが

所詮はそんなもんだと思う。

一度は裕福に、優雅に

暮らしてみたい。

僕はそれが幸せだと思っていた。


来世まではまだ時間があるので

一応保留という形で

窓口を後にした。

そして、僕があの「無」に

帰ることはもうなかった。


たくさんの人、たくさんの物。

色々なもので埋め尽くされた、ここは嫌いだ。


僕がここに来てから

しばらく経ったある時、

一人の女性と出会った。


黒髪と白い肌が

素敵な女性だ。


僕は一目で恋に落ちた。


来世がくれば全て忘れてしまうのに。


恋とは魔法であり不思議である。

愉快であり不愉快。


恋とは人に力を与える

ものである。


僕は彼女に夢中になった。


そんな最中、ふたたび

あの声が僕を呼んだ。


「94番の方、2番窓口へどうぞ。」


腰を下ろすと

女性はおもむろに


「Cプランでお間違えございませんでしょうか」


と言ったので


「はい」と答えた。


「それでは書類の方

Cプランでご用意させていただきます。」


「あ、あの…」


「はい?」


「Cプランは親を選ぶことができる

だけでしたよね?」


「左様でございます。

変更なさいますか?」




--数日前、僕はいつも通り

彼女と来世の話をしていた。


「やりたいことをとにかく

やりまくるんです。

富豪ですから。」


「楽しそうですね。

私は普通の両親のもとに

生まれて仲良く過ごしたいです」


前世で何かあったのか

と思ったが、彼女の

笑顔を見るとそんなこと

聞けなくなった。


「それも、良いと思います」


「ありがとうございます。

でも途中、福岡に引っ越す予定で

お友だちと離れてしまうのは

辛いものです。」


彼女は遠くを見てすこし笑った。



だんだん、寒さが

丸みを帯びてきた2月末。

北九州の夜はまだ寒い。


そんな気温とは裏腹に

ぽかぽかした心が

ころころ笑う。


震える指で打ち込んだ告白の

文章は、それはそれは

いびつなものだったが

恋に落ちた僕を

彼女は受け入れてくれた。


黒髪と白い肌が

素敵な女性。


僕は恐らく彼女と出逢い

幸せにするために

生まれてきたのだそうなのだ。


幸せとは金ではない。

名声でもない。

なんでもない日常の

至るところに転がっているものと僕は思う。



ーー「Aプランへの変更で

よろしいですね?」


「はい」


「そうなりますと、

場所の指定しかできなく

なってしまいますが…」


「いいんです。

来世でどうしても会いたい人が

できたんです。」


僕は書類にサインした。

もしかしたら、あなたも

誰かが忘れられなくてそこに居るのかも

しれませんね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ