表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

実行



 ふんふんと鼻歌を歌いながら、自然とスキップになる。

 さっきとは打って変わって、軽やかなステップで廊下をかけて行った。

 ハッピーな気持ちだった。

 急に立ち止まって、うれしさのあまりブキミに肩を揺らしていると、前から孝明が歩いてくるのが見えた。塁はドキッとして顔をこわばらせた。


「塁」


 近づいて来て声をかけられる。


「は、はい」

「今日もかわいいね」


 孝明がにこっと笑った。

 顔を覗き込まれて、思わず目を反らしてしまった。


「夕べ、実行したんだ」

「は、はい……」

「いい子だね。塁は俺の言う事、何でも聞くんだもの。でも、約束を破ったよね」

「約束?」


 塁は顔を上げる。孝明はにやりと笑った。そして、塁の背中を押して歩き出した。


「先輩……っ。どこに行くんですか?」

「どこでもいいだろ?」

「これから授業ですよ」

「授業なんてサボれよ」

「離して下さい」


 もがくと壁に押さえ付けられた。


「痛いっ」


 声を荒げると、目の据わった孝明に手で口を塞がれた。塁の顔が恐怖に引きつった。


「塁、ルールは守るためにあって、破るために作られたんじゃないんだよ」


 淡々という口調に悪寒が走った。授業はサボれと言い、自分の命令には従えと言う。いいかげんな人だ。

 塁は恐ろしさに震えながらも、雅人の言葉を思い出していた。唇を噛んで孝明を睨む。孝明はその挑戦的な視線を見て目を細めた。


「塁にはもっと重い罰を与えなくちゃ」

「い、嫌……。嫌だ……」

「だったら、俺の言う事を聞く?」

「え……」


 さっき雅人先輩に言われたばかりなのに…。


 塁は首を振ろうとしたができなかった。なぜなら、孝明が顔を寄せてきて、ぞっとするような声で囁いたからだった。


「そんなにびくつくな。俺もむちゃな事を言って悪かったなって反省していたんだ」

「孝明先輩……」

「今度は雅人に弟にしてくださいって言ってみて」


 塁はギョッとして目を見開いた。


「何を言って……」

「雅人は完全なブラコンだよ。誰よりも弟が大切なんだ」


 ブラコン?


「塁はただの後輩。あいつさ、よく頭を撫でるだろ? 癖なんだよね。年下を見たら弟と勘違いして頭撫でたりしてさ、気持ち悪いんだよ」


 吐き捨てられたセリフに塁は悪寒が走った。


「どうして…ですか? 先輩は雅人先輩が嫌いなんですか?」

「うるさいな」


 じろりと睨まれる。塁は体をすくめた。


「塁は俺の言う事だけを聞いていたらいいんだよ」

「でもっ」

「いいから、俺の言う事を聞いていたら、雅人には何もしないよ」

「雅人先輩に……何をするんですか」


 塁は顔をしかめた。怒りが湧いてくる。


「それは塁が約束を破ったら分かる事だ」


 塁は唇を噛んだ。


「塁」


 冷ややかな視線の孝明を怖いと思った。


「俺の言う事聞けよ」


 嫌ですとはっきり言えなかった。

 そんな自分にもっと腹が立った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ