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 昼食はハンバーグだった。

 ケチャップとソースを混ぜた甘酸っぱい匂いが漂う。しかし、いつもならこだわりをごちゃごちゃ語る塁がため息ばかりついている。

 食欲がないばかりか、胸の辺りにモノがつかえていて苦しい。その様子を見ていた俊一が呆れ顔で言った。


「ため息をついたらさ、幸せが逃げるって聞いた事ないのか?」

「ええっ? 本当?」


 塁は口を押さえてから、慌てて息を吸い込んだ。

 これ以上、幸せに逃げられたら困る。

 塁のしぐさを見て俊一が苦笑した。


「お前、謝りに行ったのか?」


 その言葉にぎくりとした。無言で首を振ると俊一が、やれやれと言った。


 今朝、事情を聞きだした俊一は、塁があまりに無謀な事をしでかしたので、このバカッと怒鳴った。こっぴどく叱られたくせに、まだ勇気を出せないでいる。


「先輩に嫌われたくないだろ?」

「当たり前だよっ」


 むっとして顔を上げると、ぽかんと口を開けた俊一の顔があった。


「どうしたの?」

「雅人先輩……」

「え?」


 塁がぱっと振り向くと、そばに雅人が立っていた。とっさに立ち上がると、がたんとイスが引っくり返って大きな音を立てた。


「わわっ」


 塁は慌ててイスを直した。


「せ、先輩……っ」


 塁は信じられないという顔で雅人を見上げた。俊一も同様で目を見開いている。


「食事はしたのか?」

「あっ……」


 あまりに突然だったので、答えられなかった。


「話があるんだ。こいつを連れて行ってもいいか?」


 雅人はそう言うと塁の手をつかんだ。つかまれた手が熱くなる。塁はパクパクと金魚みたいに口を動かすと、そばで俊一が頷いた。


「は、はいっ」

「来い」


 腕を引かれて、塁は急いで追いかけた。

 どこへ行くのだろう。

 雅人はすたすた歩いて校庭に出た。木陰を探し、人のいない場所を見つけると木に寄りかかった。塁は動けなかった。

 謝るチャンスなのに、怖くて顔を見る事もできなかった。


「悪かったな」

「え?」


 顔を上げると、雅人が罰の悪そうな顔をしていた。瞬間、塁は泣きそうになった。


「昨夜はひどい事を言った」

「先輩っ」


 顔を歪めると雅人のシャツをつかんだ。


「ごめんなさいっ。先輩、ごめんなさいっ」

「もういいよ。俺もひどい事をした…」

「う…うーっ」


 塁は雅人の胸に泣きついた。涙がとめどなく溢れてくる。


 もう、許してくれないと思っていた。


「塁、顔を上げろ」

「は、はい……」


 雅人は、涙でぐしゃぐしゃの塁に言った。


「二度と孝明の言う事を聞くな」

「え……?」

「ゲームなんてくだらない遊びをやめろと言ったんだ」

「でも、先輩の言うことは絶対だって…」

「俺だってお前の先輩だろ。だったら、俺の言うことも聞け」


 雅人の真剣な顔を見ていると、塁は何だかドキドキしてしまった。


「はい、先輩がそう言うのなら、俺、もうやめます」


 きっぱりと言うと、雅人がうれしそうに笑った。


「孝明には俺から言っておくから」

「え、本当ですか?」

「ああ。だから、もうバカな事言うなよ」


 恋人にしてもらう事を言っているのだろうか。

 塁は、少し残念な気持ちになった。

 せっかくここまで仲良くなれたのだから、もっと、先輩のそばにいたい。雅人のことを知りたいと思った。

 塁はおずおずと雅人に尋ねた。


「あの、先輩」

「ん?」

「夜、遊びに行ってもいいですか?」

「……ああ。いいよ」


 雅人は苦笑して頷いた。

 塁は、あまりにうれしくて笑顔になった。




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