罰ゲーム
食堂からは朝食の匂いが漂っている。塁は鼻をひくひくさせた。
「今日のお味噌汁にはキノコが入っているね」
点呼と食事を同時に行うので、寮生は全員集まっていた。二人はトレイを持って列に並んだ。
「キノコって何だよ…」
「ほら、この間、家庭科で作ったじゃない。こげ茶色の丸いかさをかぶった」
「ああ、しめじか」
「そう、それ。にんじんのにがみは臭わないから、野菜は大根と…。あ、孝明先輩おはようございます」
ぽんと肩を叩かれて横を見ると、孝明が立っていた。塁は内心ドキッとしたが、何食わぬ顔で笑いかけた。
「塁、ちょっとおいで」
孝明が塁の腕をつかんだ。目の前の俊一は真っ青になっている。塁は急に不安に駆られた。
「は、はい……」
トレイを元の場所に置いて、びくつきながら従った。その時、目の端に雅人の姿が見えてどきりとする。
雅人は自分を見ていた。塁は思わず視線を反らして、孝明を追いかけた。二人は廊下に出ると、孝明が窓枠にもたれて横目で塁を見た。
「昨夜、どこにいた?」
「え?」
知っているくせに。
と、思ったが言えない。黙っていると孝明は口の端を上げた。
「俺の命令をきかずに、雅人と一緒に寝たのはなぜ?」
塁はわけを話そうとした。しかし、孝明は冷たい目をしていた。孝明が怖い顔をすると迫力がある。何か企んでいる目だ。すると、
「罰ゲームだ」
と孝明が言った。
「え? ど、どうして?」
声がかすれる。僕、何かしでかした?
青ざめると、孝明がにやりと笑った。
「雅人と恋人になれ」
意味が分からなかった。恋人? 俺、男だけど?
どういう意味?
きょとんとすると、孝明は腹を抱えて笑い出した。
「塁っ、お前、おかしすぎるっ」
爆笑されて、塁はむっとした。
「分かりました。恋人にしてもらいますっ」
自信を持って答えた。孝明がニヤニヤしている。ますますむっとした。
「雅人先輩の恋人になればいいんでしょ? 簡単です。やってみせます」
「期待している」
孝明はくすっと笑って食堂へ戻って行った。塁はなぜか悔しくて唇を噛みしめた。